景気の基調判断は引き続き「下げ止まりを示す」

宅森 昭吉
景気探検家・エコノミスト
宅森 昭吉

4月景気動向指数・速報値の一致CIは前月差▲0.3と2カ月連続下降となった。一致CI第1系列の生産指数(鉱工業)が2カ月連続の低下となったことなどが影響した。機械的に決まる景気の基調判断は「下げ止まりを示している」として、2024年5月速報値以来、12カ月連続で同じ判断になった。

また、先行CIは、前月差▲4.2と3カ月連続で低下した。コメの高騰やトランプ関税の影響もあり、景気の先行きに対する消費者の見方が悪化していることが、採用系列の消費者態度指数の動向から確認できる。

7月7日公表の5月景気動向指数・速報値で景気の基調判断は「下げ止まり」で判断継続か、「悪化」で判断下方修正されるかどちらかの可能性が大きいとみられる。

■景気動向指数:先行CI・一致CI
景気動向指数
出所:内閣府
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判断の下方修正回避のカギは一致CIの生産指数のそれなりの上昇

5月に判断が「下げ止まり」から「上方への局面変化」に上方修正されるには、「7カ月後方移動平均前月差の符号がプラス、3カ月の累積のプラス幅が1標準偏差分以上、かつ、5月の前月差の符号がプラス」になることが必要だ。

5月の一致CIが前月比+3.4の上昇になると、過去の数字が不変だとして、5月の7カ月後方移動平均の前月差の3カ月累積が+0.85程度と1標準偏差(+0.85)分以上のプラス幅になる。この場合は5月速報値で、「上方への局面変化」に判断が上方修正されるが、これほど大幅な上昇の可能性はまずないと思われる。一致CIの前月差が+3.3以下のプラスになれば、「下げ止まり」の判断継続になる。

鉱工業生産指数の4月速報値と同時に発表された製造工業生産予測指数の5月前月比は+9.0%の上昇で、経産省の先行き試算値最頻値は同+5.2%の上昇となっている。90%の確率に収まる範囲は+3.5%~+6.9%の見込みだ。5月前月比が高い業種は半導体・フラットパネルディスプレイ製造装置などへの世界的需要が大きい生産用機械工業が前月比+18.8%の上昇、3月に一部メーカーで部品不足が生じ減産を余儀なくされた自動車の挽回生産で輸送機械工業が5月も前月比+7.0%の上昇が見込まれている。

一致指数の第1系列である生産指数がかなりのプラスになるならば、5月のトランプ関税の影響で悪化するとみられる輸出数量指数など、他のいくつかの系列がマイナスになっても一致CIの前月差はプラスになる可能性が大きいだろう。その場合、5月景気動向指数・速報値で景気の基調判断は「下げ止まりを示している」で判断継続になる可能性はかなり大きいだろう。

5月速報値で一致CIが前月差▲0.1でも下降となると、3カ月後方移動平均の前月差が3カ月連続でマイナスになり、景気後退の可能性が高いことを示す「悪化」に判断が下方修正になってしまう。この場合、投資行動や消費行動に必要以上のブレーキがかかるだろう。

トランプ関税の影響により、景気上向きの流れがぶち壊されることが機械的判断から裏付けられ、景気後退局面入りの可能性が広く認識されてしまうだろう。

■景気動向指数・一致CIの推移と5月速報値・試算
景気動向指数・一致CIの推移と5月速報値・試算
※Pは速報値。4月までの数字が変わらないことを前提
出所:内閣府のデータを基に筆者試算
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