8月分は先行CI・一致CI とも前月差2カ月連続下降

宅森 昭吉
三井住友DSアセットマネジメント
理事 チーフエコノミスト
宅森 昭吉

2021年8月分の景気動向指数・速報値では、先行CI(コンポジット・インデックス)が前月差マイナス2.3の2カ月連続の下降になった。新規求人数、日経商品指数、中小企業売上げ見通しDI(ディフュージョン・インデックス)の3系列が前月差プラス寄与度に、最終需要財在庫率指数、鉱工業生産財在庫率指数、新設住宅着工床面積、消費者態度指数、マネーストック、東証株価指数の6系列が前月差マイナス寄与度になった。

10月25日発表予定の8月分景気動向指数・改訂値では、先行CIに新たに実質機械受注(製造業)が加わるが下方修正要因になろう。また、逆サイクルの最終需要財在庫率指数と鉱工業生産財在庫率指数は確報値段階でどちらも指数が上昇した。これらも下方修正要因になろう。8月分改定値で先行CI は下方修正になりそうだ。

8月分速報値で、一致CIは前月差マイナス2.9と2カ月連続下降になった。速報値からデータが利用可能な8系列では、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売業、有効求人倍率、輸出数量指数の全系列が前月差マイナス寄与度になった。

【図表】景気動向指数:先行CI・一致CI

図表
(出所)内閣府

8月分改訂値で、一致CIには雇用者数(非農林業)と総実労働時間指数(調査産業計)の2つの系列を掛け合わせて作られる労働投入量指数が新たに加わる。毎月勤労統計の総実労働時間指数8月分速報値で見ると下方修正要因になる。10月25日発表の景気動向指数・改訂値では確報値が使われる。また、生産関連データのうち、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数が確報値で速報値から下方修正され、投資財出荷指数は若干上方修正となった。一方、商業販売額指数(卸売業)が確報値で速報値から若干上方修正された。総合的に判断すると、8月分改定値で一致CI は下方修正になりそうだ。

8月速報値段階では、一致CIの3 カ月後方移動平均は0.33 ポイント下降し、2 カ月連続の下降となった。7カ月後方移動平均は0.01 ポイント上昇し、10 カ月連続の上昇となった。

景気ウォッチャー調査から見ると9月分生産指数は上昇も

一致CIを使った最近の景気の基調判断をみると、2020年8月分で「悪化」から「下げ止まり」へと13カ月ぶりに上方修正された。その後、同年9月分から12月分まで「下げ止まり」で同じ判断が継続した。2021年1月分で「上方への局面変化」に上方修正され、2月分では判断が据え置かれた。3月分で景気拡張の可能性が高いことを示す「改善」に上方修正され、4月分~8月分(速報)では「改善」の判断が据え置きになった。

景気拡張の動きが足踏み状態になっている可能性が高いことを示す「足踏み」に下方修正される条件は、一致CIの「3カ月後方移動平均(前月差)の符号がマイナスに変化し、マイナス幅(1カ月、2カ月、または3カ月の累計)が1標準偏差分以上、かつ当月の前月差の符号がマイナス」になることである。

8月分(速報)では前月差が下降である。しかし、3カ月後方移動平均は、前月差がマイナスだった7月分との2カ月の前月差累計でも1標準偏差分のマイナス1.00に届かなかった。

11月8日発表の景気動向指数9月分速報値では、一致CIの3カ月後方移動平均前月差の3カ月合計が1標準偏差分のマイナス1.00を上回る下降幅になることがほぼ確実だ。一致CIの前月差がマイナス0.1でも、下降なら「足踏み」に下方修正だ。

半導体不足などの影響から、7月分・8月分と前月比が2カ月連続低下した生産指数の9月分の前月差が上昇になるか低下になるかは微妙で、要注目である。関連データの製造工業予測指数9月分は前月比プラス0.2%の上昇だ。過去のパターンなどで製造工業予測指数を修正した経済産業省の機械的な補正値でみると、9月分の前月比は先行き試算値最頻値でマイナス1.3%の低下になる見込みだ。90%の確率に収まる範囲はマイナス3.2%~プラス0.6%になっている。

一方、生産指数との2013年1月以降の相関係数が0.85と高い景気ウォッチャー調査・製造業・現状水準判断DI(季節調整値)は、2021年7月44.2、8月39.9、9月40.9と、8月に落ち込んだ後9月にやや戻している。このデータからは9月の生産の前月比は若干の上昇が期待できる。一致CIには生産関連の指標が多く採用されていて、10月29日の生産指標の発表から目が離せない。

また、一致CI採用系列のひとつである商業販売額・小売業(前年同月比)の9月分は、8月分のマイナス3.2%から減少率は縮小しそうだが、10月28日に発表されるデータが注目される。

もし、9月分で景気の基調判断が「下げ止まり」にいったん下方修正されると、「改善」に戻るためには、「3カ月以上連続して、3カ月後方移動平均が上昇」という条件があるため、短くても来春まで「足踏み」のシグナルの下で経済活動をしなければならなくなる。