景気後退期におけるディストレスト・クレジットの落とし穴

投資家は、景気サイクルのこの瞬間に魅力的な投資機会を求めて、ディストレスト・クレジットのようなオポチュニスティックな戦略に注目するかもしれない。しかし、我々はディストレスト・クレジットには限界があると考える。

ディストレスト・クレジット運用者の投資戦略には、ESGの観点から重大な懸念がある(ステークホルダーと協調的な関係ではなく、対立的な立場を取ることのほうが多く、ストレス下にある借り手企業にさらに困難をもたらす可能性がある)が、それ以外にも、パフォーマンスに悪影響を与える要因も考えられる。前回の不況時には、その影響からプライベート・エクイティのスポンサーはディストレスト・プライベート・クレジット・ファンドへの資金の移転を制限した。このように、不況下であってもディストレスト・ファンドが得られる収益機会が制限される可能性がある。

加えてディストレスト資産の買い手は、現在景気後退の悪影響を強く受けているホスピタリティ、小売り、自動車などのシクリカル性のより高い業界に投資しがちだ。しかし、我々は今回の景気後退とコロナ危機は、長期的にこれらの業界のビジネスモデルを劇的に変化させる可能性があると考える。このため、ディストレスト・クレジットへの投資は従来のプライベート・クレジット・レンディング戦略と同一の条件やリスク調整後ベースで比較することはできなくなる。

クレジットサイクルは修復と回復の時期へ

景気後退の後、クレジットサイクルは修復と回復の時期に入る。金融危機の後、プライベート・クレジット運用者の新規クレジットに対する需要は緩やかに増加したが、MV クレジットは今回の景気後退後も同様の傾向を予想する。

この修復・回復期は経済状況も改善する局面であり、プライベート・クレジットは魅力的なリターンが得られ、2008年設定のファンドは特に高いリターンを実現した。このデータはグローバルのプライベート・クレジット・ファンドのものだが、欧州のファンドも同様の傾向を示すと思われる。また、同様の良好な環境下にある2020年、2021年に設定されたファンドも高いリターンが期待できると考える。

【図表2】グローバル・メザニンおよびダイレクト・レンディング・ファンドのリターン(2003年~2017年)

図表
出所: Preqin。対象ユニバースは、設定年が2003年-2017年のグローバル・メザニンおよびダイレクト・レンディング・ファンド。2018年-2019年設定のファンドのパフォーマンスは入手不可。データは2020年7月28日付のもの

景気後退はプライベート・クレジット・マネージャーに様々な困難をもたらすが、新たに行う投資は、「コロナ後」の経済環境に照らし合わせて検討され、以前よりも有利な貸出条件で実行されるため、より高い利回りを生み出すことが期待される。景気後退から抜け出す段階では、シクリカルな産業に投資するポートフォリオが苦戦し、よりシクリカルな産業の資産が資金調達に苦労する中で、まずは最も高いクレジットが市場に出てくると予想される。

プライベートマーケットはESGを推進するユニークな立場

市場の状況を考えると、MV クレジットのようなプライベート・クレジット運用会社は、プライベート・エクイティのスポンサーと協力して、投資においてより持続可能な取り組みを策定できると思われる。プライベートマーケットは、変化をもたらし、ESGの推進を続けられるユニークな立場にある。

MV クレジットは、2020年にKersia社のESG連動ローンに投資した。フランスに本社を置くKersia社は、食品業界向けのバイオセキュリティ対応の策定、製造、販売を専門とする世界第3位の企業だ。Kersia社の担保付シニアクレジット・ファシリティには、ESGのKPI(重要業績評価指標)の達成度が金利マージンに反映されるボーナス・マルス制度が導入されている。これらESG関連のKPIには、同社が販売するグリーン製品の割合、パッケージにおけるリサイクル率、グループの株主になる機会を与えられた従業員の割合などが含まれている。また、サステナビリティ監査人が認証するサステナビリティKPI証明書の提出も求められている。このような形のファイナンスは、2021年以降増えていくと予想する。

景気の先行きは依然として不透明だが、MV クレジットのチームが20年以上にわたって様々な景気サイクルを通じて投資を行ってきた経験は、今後の荒波を乗り越える上で役立つと信じる。