企業年金の常務理事や運用執行理事など、年金資産運用の責任者や担当者に就任したばかりの方々のために、年金運用の「基礎の基礎」を、ラッセル・インベストメントでエグゼクティブコンサルタントを務める金武伸治さんに解説していただく連載。今回のテーマは「債券」です。

『デュレーション』の意味

新聞記事などで「金利は上昇(債券価格は下落)」といった表現をよく目にします。そもそも、なぜ金利が上昇すると債券価格は下落するのでしょうか?

金武 例えば、残存年数つまり元本償還までの残り期間が5年で、クーポン(利率)が2%の債券があり、その価格が100円だったとします。単純化するため、このときの市中金利が2%だったとしましょう。

このあと市中金利が1%上昇し3%となったとすると、新たにクーポンが3%で、残存年数が5年の債券が100円で発行されることになります。

あなたならクーポン2%で100円の債券と、クーポン3%で100円の債券のどちらに投資しますか?

もちろんクーポン3%の債券ですよね。なぜならクーポン3%の債券は、クーポン2%の債券に対して1年あたり1%、元本償還までの5年間では累積5%のクーポン差があるためです。

このためクーポン2%の債券は100円では売れなくなり、累積5%のクーポン差を埋め合わせるために価格を5%安くせざるをえない。債券価格が95円に下落するわけです。

ここで、価格下落幅の5%は、金利上昇幅1%に残存年数5年を掛けた値でした。つまり、金利上昇時の価格下落幅は、「金利上昇幅×残存年数」でおおむね計算できることになります。

ところで、「金利感応度」ということばを聞いたことがありますか?金融の世界では、「価格下落幅」イコール「金利上昇幅×金利感応度」と定義されています。そうすると、価格下落幅=金利上昇幅×残存年数=金利上昇幅×金利感応度となることから、金利感応度=残存年数であることが分かります。

それは、四半期報告などでよく出てくる「デュレーション」のことですか?

金武 その通りです。金利上昇時の価格下落幅は「金利上昇幅×デュレーション」とも表現されます。言い換えると、デュレーションとは「金利が1%上昇した時の価格下落幅」となります。デュレーションの正確な定義は「債券の理論価格式を金利要因だけで偏微分したもの」なのですが、企業年金の世界では「デュレーション」イコール「残存年数」とざっくり理解していただいて結構です。

債券の残存年数とロールダウン効果

債券の利回りは、高ければ高いほど投資対象として魅力的なはずですよね。となると、世界的に低金利化が進んできた現在では、債券投資の意義は薄いと感じます。でも、運用会社の人は「いやいや、ロールダウン効果がありますから」と言います。

金武 それはある意味、正しいです。債券の利回りには、目に見える「金利」に加えて、目に見えにくい「ロールダウン」があるからです。そして低金利下では、このロールダウンによる収益効果が相対的に大きくなります。下のグラフを見てください。

イールドカーブとロールダウンの関係

金利は残存年数によって水準が異なるのです。2年金利は1%で5年金利は2%、10年金利は3%といった具合です。ちなみに、残存年数ごとの金利水準を線で結んだものをイールドカーブと呼びます。一方で、例えば10年国債利回りが3%とは、この国債を満期まで保有した場合の平均利回りが3%ということ。一般的に、残存年数が長い時の利回りは平均利回りよりも高く、短い時の利回りは低くなります。10年国債の平均利回りが3%の場合、残存年数が10年の時は利回りが4%と高く、残存年数が2年の時は2%と低いといった具合です。この3%と4%の差が「ロールダウン」ということになります。

うーん。もう一つ理屈が飲み込めないです。

金武 先ほど、債券は金利が低下すると価格が上昇する、ということを説明しましたよね。また、いま申し上げたように通常、残存年数が長い方が金利は高くなります。この2つを結びつけますよ。そうすると、債券を保有する期間中に、時間の経過とともに残存年数が短くなり、債券利回りは低下します。債券利回りが低下すると、債券価格が上昇します。

おや。狐につままれたような顔をしていますね。

要は、何も金利水準が変化しなくても、つまりイールドカーブが変化しなくても、残存年数が短くなるだけで、利回りは自動的に低下するのです。そして、この利回りの低下が債券価格の上昇に効いてくるのです。これがいわゆる「ロールダウン効果」です。

低金利下でもロールダウン効果があり、債券が一定の収益を上げてきたわけですね。でも最近、米国などで金利が上がってきました。金利上昇で債券価格は下落するとなるとこの先、債券を持ち続ける意味があるのでしょうか?

金武 実は債券投資には、利回りを享受する以外にも重要な投資目的や効果があります。一番大きいのは株式との分散効果です。このあたりを次回、じっくりご説明します。また、連載での説明は、わかりやすさを優先するために単純化していることをご了承ください。

金武伸治

【解説】金武伸治
ラッセル・インベストメント
コンサルティング部 エグゼクティブコンサルタント

1995年、野村総合研究所に入社。クオンツ・アナリストとしてスタート。以来、バークレイズ・グローバル・インベスターズ(BGI)、同社と経営統合したブラックロックでグローバル債券ストラテジスト。2015年から格付投資情報センター(R&I)で資産運用コンサルタント。2022年3月から現職。 慶應義塾大学理工学部卒、早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)

阿部圭介

【構成・執筆】阿部圭介
J-MONEY論説委員
1980年、朝日新聞社に入社。経済部記者として金融、証券、情報通信などを取材。整理部記者として紙面編集を担当。経営企画室長、大阪本社編集局長、朝日ビルディング社長を経て2019年7月から2022年3月まで朝日新聞企業年金基金常務理事。早稲田大学政治経済学部卒

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