アセットオーナー・プリンシプルの導入により、日本の利用率が海外の機関投資家市場と同水準に達した場合、OCIOの大幅な成長が見込まれる

茂知己

【寄稿者】茂 知己
Coalition Greenwich
インベストメント・マネジメント部門ヘッド(日本)

日系およびグローバルな資産運用会社で運用部門、プロダクトマネジメント部門、機関投資家営業部門などの要職を歴任し、2025年11月より現職。1997年に野村投資顧問(現、野村アセットマネジメント)でクオンツ・ポートフォリオ・マネージャーとしてキャリアをスタート、株式トレーディング、債券トレーディング、オルタナティブ投資業務などにも従事。その後、AIFAM Inc.(ニューヨーク)でエマージング市場特化のファンド・オブ・ヘッジファンドを運用した他、DIAM(現、アセットマネジメントOne)でヘッジファンドおよびPEを中心とするオルタナティブ戦略の外部委託投資を担当。アムンディ・ジャパンでプロダクト・マネジメント部門を統括した後、2018年にはクオンツ・ヘッジファンド大手のAQRキャピタル・マネジメントで東京支店の立ち上げに参画。2020年からはウエリントン・マネージメント・ジャパンにて年金を中心とした機関投資家営業を統括。シンガポール経営大学で資産運用の修士号を取得。

日本版アセットオーナー・プリンシプル(以下、AOP)の導入は、年金をはじめとする機関投資家の間でOCIO(外部委託型最高投資責任者)サービスへの需要を急増させる可能性がある。

日本政府は2024年、投資、ガバナンス、リスク管理に関する包括的な改革の一環として、AOPを策定した。これは機関投資家の運用力の向上、家計に対する企業価値向上がもたらす恩恵の還元、および資本市場をはじめとするインベストメントチェーンの強化を目的としたものである。

これまでの改革が主として日本企業および投資運用会社を対象としていたのに対し、AOPはアセットオーナーに焦点を当てたものである。日本の政策当局は、国内アセットオーナーのガバナンスの強化が、日本経済の成長と国民の資産所得の増加につながる要素の一つであるとの結論に至った。こうした状況を実現すべく、政府は、公的・私的年金、保険会社、大学基金、財団などの大規模機関投資家によるアセットオーナーシップの改革を目的とするガイドラインとして、AOPを策定・公表した。

このガイドラインは自主的な遵守を前提とし、ガバナンスと受託者責任、運用目的・運用方針の策定、資産運用会社の選定、モニタリング、ステークホルダーへの説明責任、その他の分野におけるアセットオーナーのベストプラクティスと期待される行動規範を体系化したものである。

アセットオーナーの多くが、少人数の運用チーム、限られた専門知識など改善余地のあるガバナンス体制のもとで、数十億ドルに上る資産を運用してきた中、本原則の策定における政府の最終的な目標は日本のアセットオーナーの運用体制の高度化にあると言えよう。

アセットオーナーの投資運用体制の高度化

アセットオーナーに対してガバナンス方針の強化と投資等におけるベストプラクティスの採用を促すことで、AOPは最終的に機関投資家の運用体制、ポートフォリオ配分、運用会社採用プロセスに抜本的な変化をもたらす可能性があり、OCIOサービスへの需要急増もそのひとつとして考えられる。

AOPに定めるガイドラインに則り、投資業務の高度化とポートフォリオの近代化を図ることは、運用上の複雑性を高めることになる可能性もある。多くのアセットオーナー、とりわけ規模の小さい機関は、この新たな環境下で業務を遂行するにあたり、必要となる専門知識とリソース(人員)の確保に苦慮することになるだろう。

一例を挙げると、長期的なリスク調整後リターンの向上というAOPの最終目標を追求することで、債券とりわけ国内債券からリスク資産、特にオルタナティブおよびプライベート資産へとポートフォリオ配分がシフトする可能性がある。

■アセットオーナーによる実物資産およびプライベート市場への移行が加速する可能性がある
アセットオーナーによる実物資産およびプライベート市場への移行が加速する可能性がある
注:年金、大学基金、財団からの回答158件
出所:Crisil Coalition Greenwich Voice of Client – 2025年「日本の機関投資家調査」

前掲のグラフが示すとおり、日本の年金、大学基金、財団はすでに、不動産およびオルタナティブへの配分拡大を計画している。これらのアセットオーナーのうち約16%が今後3年間でプライベート・デットへの配分を大幅に引き上げる予定であり、10機関のうち1機関以上が不動産、インフラ、プライベート・エクイティのいずれかまたは複数への配分を大幅に拡大する見通しである。いずれの場合も、これらオルタナティブ資産への配分縮小を計画しているアセットオーナーはごく少数にとどまっている。

運用ポートフォリオの高度化の流れの中でアセットオーナーが不動産やオルタナティブへの移行を加速させた場合、アセットオーナーは流動性が低く、多くの場合において十分な運用経験を持たないこうした資産クラスへの投資に伴う複雑性の増大に直面することとなるだろう。プライベート・デット、プライベート・エクイティ、不動産、インフラをはじめとするオルタナティブ資産クラスにおいては、キャッシュフロー管理、バリュエーション、モニタリングおよびリスク管理、ならびに運用会社の選定とアクセス確保といった特有の課題が存在する。

こうした課題は、AOPに定められた他のガバナンス・運用ガイドラインの実施に伴い生じる新たな要求と相まって、アセットオーナーへの負担をさらに増大させる可能性がある。その結果として生じる業務負担の増大は、日本の一部のアセットオーナー、とりわけ規模の小さい機関の運営能力を逼迫しかねない。

中には、OCIOを有力な解決策と捉えるアセットオーナーも

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