プライベート・クレジットに関する考察

当記事は、ナティクシス・インベストメント・マネージャーズ傘下のプライベート・デット専門の運用会社であるMVクレジットのレポートを基に構成したものです。

分散されたポートフォリオの構成資産の一つ

世界経済が大きく揺れ動いた1年であったものの、プライベート・クレジットの投資家はこのアセットクラスに期待される安定した利回りの恩恵を受けることができた。これは、公開市場のジェットコースターのような動きを見た投資家にとっては歓迎すべきこととなった。

プライベート・クレジットは、2000年には1000億ドル以下の市場でニッチな専門的な資産クラスに過ぎなかったが、2020年には8000億ドル(約88兆円)を超えるまでに成長し、分散された投資ポートフォリオを構成する重要な資産のひとつとなった。利回り追求のトレンドが続く中、この成長が減速することはないと思われる。

ここでは、20年以上にわたる経験をもとに、運用者が景気後退期においてどのように投資機会を得て、リスクを軽減することができるかを説明する。また、どのような運用戦略が魅力的なリスク調整後のリターンを提供する可能性が高いのか、なぜ今がプライベート・クレジットへの投資にとって特に魅力的な時期なのかを探る。

後段では、ESG(環境・社会・企業統治)重視の投資家がプライベート・クレジット投資を通じて、より持続可能な投資を行う方法について説明する。

低金利環境と銀行の撤退で多額の資金が流入

低金利が長期間続く中、プライベート・クレジットのファンドは世界金融危機以降、多額の資金を集めている。金融危機前は、投資銀行が中堅企業への代表的な貸し手だったが、その後大きく変化することとなった。規制強化とバーゼルIIIの導入により、銀行はこの市場からの後退を余儀なくされた。同時期に、投資家はプライベート・クレジットなどの非伝統的な資産クラスから得られるより高い利回りや分散効果を求めるようになった。

ハイ・イールド債(シニア・ローンと同等に見られることがある資産クラス)と比較して、レバレッジ・ローンは、ボラティリティが低く安定した収益を得られることから、一貫して高いリスク調整後リターンを実現してきた。下の図は、他のクレジット・クラスと比較したレバレッジ・ローンの強みを示している。

【図表1】シャープレシオによる資産クラス別リスク・リターン分析

図表
出所: FactSet (2010年9月30日~2020年12月31日)

上記に加えて、ハイ・イールド債は一般的にレバレッジ・ローンよりもデフォルト率が高く、回収率が低くなる傾向がある。例えば、1983年から2019年の間、レバレッジ・ローンの回収率は66%であったのに対し、ハイ・イールド債は55%だった。デフォルト発生時には、ローン保有者には債券保有者よりも多くの資金が戻ってくるのが一般的である。