三菱UFJ信託銀行 資産運用情報 米国における個人投資家向けオルタナティブファンドの広まり

蟻川 峻
三菱UFJ信託銀行 ニューヨーク支店
信託業務室 ファンド分析グループ 上級調査役
2013年、三菱UFJ信託銀行入社。
米国アセットマネジメント領域でオルタナティブ運用商品の組成および資金調達支援業務に従事。
過去には、米国・英国・豪州等に拠点を持つ運用会社における運用企画・販売支援、米国現地法人での米国ウェルスマネジメント企画、米国現地法人の経営管理、日本でのウェルスマネジメント営業・企画にも従事。
Ⅰ. はじめに
オルタナティブアセットへの投資は、投資家、及び運用会社双方に魅力的であったことからグローバルで拡がりを見せてきた。その背景として、投資家目線では、伝統資産間の相関の高まりを受けオルタナティブ投資が担う分散投資先としての役割、低金利環境下での魅力的なリターン創出などからオルタナティブ投資への注目が高まったことが挙げられる。また運用会社目線では、伝統資産戦略での手数料引き下げ圧力に対し、相対的に高い手数料を享受できるオルタナティブ戦略を成長領域と位置付けてきたことなどが挙げられる。
また米国では、機関投資家向けオルタナティブアセット市場が既に飽和状態にある。一方で、プラットフォーマーが提供するテクノロジーの進展や、後述するEvergreen FundやSemi-Liquid Fundといった個人投資家と相性の良い投資商品の普及、さらにはオルタナティブアセットに関する教育・学習ツールの拡充などから、個人投資家によるオルタナティブアセット投資が急速に拡大してきた。
さらに個人投資家によるオルタナティブアセットへの投資は、従来のファンドを通じた形にとどまらず、更なる広がりを見せている。具体的には、非上場株式を個人投資家がファンドを介さずに直接保有・取引できるプラットフォーマーが存在感を増しているほか、401kなどの退職口座向けファンドにオルタナティブアセットを組み込む動きもみられ、今後一層の発展が見込まれている。
本稿では、米国における個人投資家向けオルタナティブ投資の変遷を整理するとともに、足許で顕在化している課題についても、可能な限り論じていく。一方で、オルタナティブ投資がポートフォリオにおいて果たす役割や、伝統資産とのパフォーマンス比較、他資産との相関関係などについては、既に多数のレポートや調査が一般に提供されていることから、本稿で詳細を論じることはしない。
Ⅱ. オルタナティブファンドの販路拡大とその背景
従来、オルタナティブファンドは、定期的な解約が難しいなど流動性の低さや申込・管理手続きの煩雑さ、商品・戦略の複雑性、最低投資金額の高さといった特性から、主に機関投資家、または機関投資家規模の投資が可能なファミリーオフィスや超富裕層の個人投資家に限定して販売されていた。
しかし近年、後述する複数の背景により個人投資家向け販売は急速に拡大しており、今後も更なる増加が見込まれている。
1. 飽和傾向にあるオルタナティブファンドの機関投資家向けマーケット
図表1は、米国の主要機関投資家におけるオルタナティブアセットへの投資割合を示したものである。上段5機関が、主要公的年金基金、下段5機関が主要Endowment(大学基金などの寄付基金)を示す。ここからもわかる通り、公的年金ではオルタナティブアセットに対して、投資資産の概ね30%~45%を、Endowmentでは概ね55%~80%をオルタナティブアセットに投資していることが分かる。

各機関で事業年度・基準日が異なるため直近で取得可能なデータで作成(※1)
※1(2025年6月末基準)CalPERS、CalSTRS、FRS、Harvard、Yale、Princeton、(2025年8月末基準)TTRS、Universityof
Texas、Stanford、(2026年3月末基準)NYSCRF
図表2は上述した米国の公的年金基金のオルタナティブアセットへの投資割合目標から実際の投資割合を除算したものである(数値がプラスにあるほど目標に対してオルタナティブアセットへの投資額がアンダーウェイト、数値がマイナスにあるほど目標に対してオルタナティブアセットへの投資額がオーバーウェイトしていることを意味する)。この図表からもわかる通り、Private EquityやPrivate Creditについて、公的年金基金は既に目標割合に近い割合で投資をしており、今後、後述する個人投資家向けマーケットと比較した場合、公的年金基金がオルタナティブアセットへの投資を劇的に増やすことは考えづらい。また前述した大学基金でも、現在採用されているEndowment Model(※2)を見直す動きが出てきており、オルタナティブアセットへの投資枠をすぐに大きく増やすことは考えづらい。これらを以って、オルタナティブアセットの米国機関投資家向けマーケットは飽和傾向にあると言える。
※2 Yale大学を中心に多くのEndowmentが行う、オルタナティブアセットに多くの資産を配分する資産配分割合の通称。Yale大学が先駆けとなったことからイェールモデルとも呼ばれる。Endowmentは寄付金を運用の原資とする。公的年金などと異なり、将来の拠出に制限が少なく、より長期の運用が可能となるため、オルタナティブアセットへ多くの資産を配分することができ、それによりより高い収益を狙うもの。

一方で、個人投資家によるオルタナティブアセットへの投資金額や割合は公開されている情報が少ない。しかし、図表3のとおり米国大手コンサル会社BAIN&COMPANYのレポートによれば、グローバルで、2022年時点のオルタナティブアセット全体における個人投資家による資産割合は16%程度だが、2032年には22%まで拡大することが予想されている。またCAGR(Compound Annual Growth Rate:年平均成長率)で見ても、機関投資家が8.3%であるのに対して個人投資家は12.7%と極めて高い成長が予想されている。
加えて、投資に関するカンファレンスにおいて、大手証券会社や資産運用会社の幹部から、将来的に個人投資家によるオルタナティブアセットへの資産配分は20-35%程度になることを予想するとの発言が多く聞かれている。

三菱UFJ信託銀行作成
また、機関投資家向けマーケットが飽和傾向にあることは、上述の通り既に多くの投資家がオルタナティブアセットへ投資済みであることに加え、米国で金利が上昇した影響も受けている。特にプライベートエクイティ(PE)ファンドでは金利が上昇したことで割引率が上昇し、投資先企業を買収する側の資金調達コストも上昇した。その結果PE投資家によるExit(投資回収)活動が鈍化し、DPI(分配金倍率)の伸びも低下している。オルタナティブファンドの多くはファンド期間が有限であり、概ね5~10年程度をかけて、分配金及び清算金の償還により投資家に資金を還元する。既にオルタナティブアセットの配分目標近くまで投資をしている機関投資家は、還元された資金を活用し、新たに他のオルタナティブファンドへ投資をする傾向がある。しかし、資金還元が鈍化したことで機関投資家のオルタナティブアセットへの新たな投資の循環が鈍化したことも、運用会社が個人投資家へマーケット拡大を試みた一つの要因と言える。
2. 運用会社の積極的なオルタナティブファンドの組成
伝統資産ファンドの手数料引き下げ圧力が高まる一方で、オルタナティブファンドは伝統資産に比べて高い手数料を維持できている。図表4は米国株式アクティブファンド、債券アクティブファンド、オルタナティブファンドの3つについて投資家による資産加重平均経費率の推移をまとめたものである。

また、オルタナティブファンドは個人投資家向けの販売(米国1940年投資会社法でThe United States Securities and Exchange Commission(以下、米国SEC)に登録されたファンド)であっても、成功報酬を設定することが一般的で、多くが10~15%程度の成功報酬を設定している(※3)。個人向けに販売されている伝統資産戦略のファンドでは成功報酬は設定されていないことが一般的である。
米国で個人投資家向けにオルタナティブファンドを販売する際に多く使われるInterval Fund、Tender Offer Fund、Business Development Company(以下、個人向けファンド(※4)、詳細は図表6参照)の新規設立数及び新規参入会社数を見ると運用会社がオルタナティブファンドの個人投資家向けマーケットに注力していることが分かる。図表5は個人向けファンドを米国SECに初期登録した運用会社数の推移を見たものである。例えば2023年には約35の運用会社が個人向けファンドをSECに登録したのに対し、2024年には約65の運用会社が登録しており、2024年から個人向けファンドの新規登録数が急増し、高い水準を2025年も維持していることが分かる。加えて、2024年は約65の運用会社が新たなファンドを登録したが、そのうち約35の運用会社が新規参入会社であり、ファンドの数だけではなく、ファンドを提供する運用会社数も増えていることが分かる。なお、新規参入会社は、過去に上述で定義した個人向けファンドを米国SECに登録していない運用会社と定義した。
※3 米国SECに登録するファンドは販売対象をAccredited Investor(一定の資産要件などを満たした投資家)に限定することなく販売が可能な代わりに成功報酬などについて一定の制限(インカム収益のみに対する成功報酬のみが設定可能など)を受ける。一方で米国SECに登録をしないファンド(Private Fundと呼ばれることが多い)は販売対象がAccredited Investorに限定される代わりに米国SECに登録するファンドに比較して制限が少ないなどの特徴がある。また、伝統資産ファンドでは実務上成功報酬を設定しないことが広く一般的である一方、オルタナティブファンドではインカム収益のみに限って成功報酬が設定されることが多い。
※4 個人向けファンドの定義には上場済みのBusiness Development Companyを含めていない。
例えばHarbour Vest社はTender Offer FundであるHarbour Vest Private Investments FundをSECに登録しているが、同社が個人向けファンドをSECに登録したのはこれが初めてであり新規参入と定義した(※5)。

これらからオルタナティブファンドが伝統資産に比べて高い手数料を享受できていて、運用会社にとっては成長領域として位置付けられることが分かる。また、上述の通り、飽和傾向にある機関投資家向けのみならず個人投資家向けに対して、運用会社が積極的にマーケットを広げたことがわかる。
※5 新規参入会社の定義には上場済みのBusiness Development Compan を含めていない。
3. ストラクチャー(商品構造)の進化
運用会社が米国個人投資家向けにオルタナティブファンドを販売するにあたっては以下のような課題が存在していた。
1)個人投資家の資金需要への対応
個人投資家は機関投資家に比べ予期せぬものも含め出費が多く、必要に応じた資金の引き出し(ファンド持分の解約)が必要となる。従来、機関投資家向けに販売されてきたオルタナティブファンドはファンド期間中の解約が原則認められていなかった。
2)オルタナティブファンドの複雑性
オルタナティブファンドは、資金拠出では投資家がコミットメント(出資約束)を表明し、キャピタルコール(ファンドの求め)に応じてコミットメントの中で資金拠出に応じることが一般的である点、さらにはコミットメントのうちキャピタルコールがかかっていない資金の管理も必要になるなど、申込・管理手続きが伝統資産ファンドと比べて複雑であった。
3)限定的な募集期間
米国の個人投資家、特に富裕層の中では投資一任サービスがシェアを拡大しつつある。こうしたサービスは、ポートフォリオを継続的に管理し、資産配分を機動的に見直すことを前提としている。ただし、従来から機関投資家に販売されてきた商品の多くは募集期間が限られており、投資一任サービスにおいて標準化されたポートフォリオにオルタナティブファンドを組み込むことや機動的な資産配分の見直しが難しかった。仮に投資一任サービスに組み込む場合は、証券会社の営業担当者(Financial Advisor、以下FA)が顧客ごとにカスタマイズをしたポートフォリオを提供する必要がある。そのため必然的にコストに見合う手数料を収受可能な資金規模を持つ超富裕層のみに案内されてきた。
4)高い最低投資金額
従来提供されてきたオルタナティブファンドでは、高い最低投資金額が設定されており、機関投資家と同等の資金余力を持った個人投資家でなければ投資できない事象が見受けられた。
これらの課題に対して、「Evergreen Fund」や「Semi-liquid Fund」と呼ばれる、投資商品の仕組みを活用することで課題が解決され、個人投資家への販売が加速した。特にSemi-Liquid Fundは、定期的に投資家からの解約を一定金額まで受け付け、限定的ではあるが流動性が提供される点が特徴である。また、Evergreen Fundは、資金拠出が一括で行われる点、原則いつでも投資が可能で投資期間が不定な点などが、個人投資家のオルタナティブ投資を行う上での課題解決策として機能した。
ただし、Evergreen FundやSemi-Liquid Fundと呼ばれる仕組みは法律や規制的な枠組みではなく、あくまで業界で使用される通称である。そのため、統一した定義や規則が存在しない。このことが、米国のマーケットの理解を難しくしているともいえる。米国におけるオルタナティブファンドのストラクチャー(商品構造)に関する理解が進むことを期待し筆者の理解を図表6にまとめる。
| ストラクチャー (商品構造) |
枠組み | 主な特徴 |
|---|---|---|
| Drawdown Fund | 通称 | ・コミットメント/キャピタルコールのあるFund ・多くはLimited Partnerships形式で組成 ・ファンド期間・募集期間が限定的 ・ファンドによるファンド期間中の解約受付が原則ない |
| Evergreen Fund or Perpetual Fund | 通称 | ・ファンド期間に定めがない ・定期・継続的に投資可能なファンド ・一般的には投資家が当初に一括で資金拠出(Drawdown Fundと異なる) |
| Semi liquid Fund | 通称 | ・ファンドによる定期的な一定金額/割合までの解約受付がある ・Interval FundやTender Offer Fund、 一部のBusiness Development Companyを指すことが多い |
| Open-end Fund | 法的 | ・1940年投資会社法で定義され、NAVベースで償還請求可能な証券 (投資家がいつでもファンドの持分発行者に対して直接、償還を要求 することができる証券)を発行 |
| Closed-end Fund | 法的 | ・Open-end Fund以外のファンド |
| Interval Fund | 法的 | ・ファンドが、定期的にファンドが予め設定した一定金額/割合まで 解約を受け付ける義務がある ・法的にはClosed-end Fundに内包 |
| Tender Offer Fund | 通称 | ・ファンドが不定期(多くは四半期ごと)に一定金額/割合まで解約を受付 ・但し金額・頻度はファンドに決定権がある ・法的にはClosed-end Fundに内包 |
| Business Development Company |
法的 | ・1940年投資会社法で定義 ・Closed-end Fundに内包されることが多い ・レバレッジや投資対象に対して制限あり |
(出典)各種情報より三菱UFJ信託銀行作成
4. 伝統資産運用会社とオルタナティブ運用会社の提携加速
前述した通り、個人投資家向けオルタナティブファンドは、Semi-Liquid Fundとして販売されることが多く、その多くが四半期に一度NAV(Net Asset Value:純資産価格)の5%までの解約を受け付けている。解約受付のために、多くのファンドは資産の概ね80%程度を流動性の低いオルタナティブアセットで運用し、残り部分を伝統資産などの高流動性資産で運用している。その結果、主にオルタナティブアセット投資を得意とする運用会社(以下、オルツ系運用会社)と、主に伝統資産投資を得意とする運用会社(以下、伝統資産系運用会社)間での協働・パートナーシップ締結が増加した。具体的には、パートナーシップを締結し、新たな個人投資家向けファンドを設立するケースが多くみられている(図表7)。
オルツ系運用会社にとっては、伝統資産系運用会社が有する伝統資産運用能力の享受、幅広い顧客基盤の活用などがメリットとなる。伝統資産系運用会社にとっては、オルツ系運用会社が有するオルタナティブ資産運用能力の活用が大きなメリットとなり、パートナーシップや協働事例が増加している。また両社の提携は、投資家にとっても商品の付加価値拡大、利便性向上などのメリットが期待できると考える。
| 発表時期 | オルツ系運用会社 | 伝統資産系運用会社 |
|---|---|---|
| 2024年 1月 |
Bow River Advisers | New York Life Investment Management |
| 2024年 9月 |
Bow River Advisers | Thornburg Investment Management |
| 2025年 4月 |
Blackstone | Wellington Management、Vanguard |
| 2025年 4月 |
Invesco、Barings | - |
| 2025年 7月 |
Blue Owl Capital | Voya Financial |
| 2025年 9月 |
Goldman Sachs | T. Rowe Price |
| 2025年 9月 |
Actis、Copenhagen Infrastructure Partners、DigitalBridge | Franklin Templeton |
| 2025年 9月 |
Partners Group | PGIM |
| 2025年 12月 |
KKR | Capital Group |
| 2026年 1月 |
Partners Group | BlackRock |
| 2026年 2月 |
Apollo Global Management | Schroder |
(出典)各社プレスリリースより三菱UFJ信託銀行作成
5. 運用会社による商品性の工夫
個人投資家向けオルタナティブ商品販売の競争力獲得のために、投資家にインセンティブを与える工夫も運用会社によって提供され始めている。その一例としてBonus Shareと呼ばれる新たな持分を投資家に提供するファンドも増えてきた。具体的には一定期間(初回募集期間中など)に投資をした投資家や、資金調達額が一定額に達するまでの間に投資をした投資家に対して、Bonus Share(追加持分)を無償で提供するものである。Bonus Shareは投資家へのインセンティブ提供の役割も果たすが、運用会社目線では資金調達の早期化の役割も果たす。これにより、一投資家当たりの投資額が機関投資家に比べ低い個人投資家であっても、運用会社が早期に一定額の資金を調達することができ、競争が激化しつつある投資対象のマーケットにおいても、よりよい資産へ早期に投資が可能となる。これによりパフォーマンスが向上すれば投資家へのメリットにも繋がる。
Bonus Shareの割合は目論見書では開示されていないことが多いが、投資額の2~4%程度と設定されることが多い。図表8に、Bonus Shareを提供しているファンドの例を示す。
| ファンド名 | 運用会社 | 戦略 |
|---|---|---|
| HPS Real Assets Lending Company LP | HPS Investment Partner | Asset Backed Lending (資産担保融資) |
| J.P. Morgan Public and Private Credit Fund | J.P. Morgan | Private Credit と Public Credit の混合戦略 |
| Hamilton Lane Credit Income Fund | Hamilton Lane | Private Credit (プライベート・クレジット) |
| Loomis Sayles Credit Income Opportunities | Loomis Sayles | Private Credit (プライベート・クレジット) |
(出典)各社のプレスリリースより三菱UFJ信託銀行作成
またBonus Shareに近い形だが、別の形で投資家に追加持分を与える手法も出現している。具体的には、投資家があるファンドの持分を購入した場合に、購入ファンドではなく運用会社の株式や関連会社の持分が付与されるといったものである。
6. プラットフォームやテクノロジーの進化
米国では個人向けビジネスを行う大手証券会社のみならず、Registered Investment Advisor(以下RIA)と呼ばれる大手金融機関に属さない独立系証券会社に似た金融会社及びそこに所属する営業員を通じた個人投資家への販売も大きな割合を占めている。具体的には、Cliffwaterが運用するCliffwater Corporate Lending Fundは大手証券会社では取扱いがないにも関わらずInterval Fundでは最大のNAVを誇っていることが、その一例として挙げられる。
特にNew YorkやLos Angelsなどの都市部では大手証券会社が大きなマーケットシェアを持つといわれているが、それ以外の地域ではRIAが大きな役割を果たしているといわれている。
RIAは大手証券会社に比べるとその規模が小さく、業務体力が限定的と言える。そのため、伝統資産に比べて複雑なオルタナティブ商品について、複数の運用会社の商品比較や個別商品の調査、いわゆるデューデリ(Due Diligence)に対応しきれない。また、個々のファンドで異なる申込手続きにも対応しきれないケースが見受けられた。更にファンドの最低投資額の設定が高く、顧客の投資ニーズを満たせないケースも見受けられた。
そこにiCapitalやCAISといった、いわゆるプラットフォーマーと呼ばれる企業が大きな役割を提供した。具体的には、自社で商品のデューデリを行った商品を自社のプラットフォームに掲載し、プラットフォーマーの顧客(RIAなど)は、そのプラットフォーム上で複数会社間の商品比較を容易に行うことができるようになった。プラットフォーマーのプラットフォームに商品が載ることで、運用会社も幅広い販売会社からのアクセスを得ることができるようになった。また、自社で最低投資金額の低いFeeder Fund(※6)を設立し、最低投資金額を実質的に抑えたこと、デューデリ機能を部分的に独立系証券会社に提供したことなども挙げられる。これらによりRIAを通じた個人投資家への販売が拡大したともいえる。
※6 投資家から集めた資金の多くを別の主要ファンドに投資するファンド
7. オルタナティブアセットに関する教育・学習ツールの拡充
オルタナティブファンドを個人投資家へ販売するにあたっては、FAが商品を理解すること、そしてFAを通じて個人投資家が商品を理解することが欠かせない。オルタナティブアセットは伝統資産に比べて商品性が複雑な一方で、アセット自体が発展途上であったことなどもあり、教育・学習ツールが不足していた。その様な状況に対して、前述したプラットフォーマーや運用会社はFA及び個人投資家が無料で使用できるツールを次々に提供してきた(図表9)。
| 提供企業 | サービス名 | 提供開始日 |
|---|---|---|
| iCapital | Alts Edge | 2021年 2月 |
| Apollo Global Management | Apollo Academy | 2022年 9月 |
| Franklyn Templeton | Franklyn Templeton Academy Alternative Education | 2022年 11月 |
| KKR | Alternative Unlocked | 2024年 2月 |
| LPL Financial | Alts Learning Hub | 2025年 5月 |
| Goldman Sachs Asset Management | Goldman Sachs Investment University | 2025年 5月 |
| Morgan Stanley Investment Management | Alternative Investing Center | 2025年 9月 |
| BlackRock | BlackRock Alternative Academy | 不明 |
また上記のようにオンデマンド、オンライン形式の教育・学習ツールのみならず、例えば米国の金融メディア・情報プラットフォーム企業であるRIA Channel社は無料で、RIAの営業員向けに自社プラットフォーム内で運用会社を招いたオルタナティブアセットの説明、市場環境の説明、具体的商品の説明などを行っている。
Ⅲ.見えてきた課題
オルタナティブアセットが個人投資家に広く浸透する中で、今まで見えてこなかった課題も多く発現している。主なものを以下に述べる。
1. 運用会社とFA及び個人富裕層の間での認識ギャップ
米国のRIA業界向けに特化した調査会社であるFUSE Research Networkが530人のFAに対して行った調査によると、対象者の63%がオルタナティブアセット・ファンドに関して学習するためのツールが不足していると回答している。一方で、上述したように数多くの運用会社が教育・学習ツールを展開している。このギャップには、以下の要因があるのではないかと推察する。
1)中立性の欠如
運用会社はオルタナティブファンドをより多くの投資家に販売したい立場にある。そのため、個人投資家やFAからすると、「良い面だけを説明しているのではないか」との疑念が存在する。
2)提供内容と投資家及びFAが求める内容のギャップ
投資家の関心が高い手数料や流動性確保について深く言及するツールが不足しているように見受けられる(一般的な手数料構造について説明しているツールは多い)。また、オルタナティブアセットのポートフォリオへの適切な組み入れ方法や、その効果とデメリットについて、より実務的なアドバイスが不足している、といった声が関係者からは聞こえている。
3)教育・学習資料の適切なボリューム
FAはオルタナティブアセットのみならず伝統資産の提案、顧客のポートフォリオ管理やそれ以外のコンサルティングサービスも提供している。そのため、幅広い内容を網羅的に理解する必要があり、オルタナティブ商品に関しても、限られた時間で要点が理解できる、シンプルな資料を求めている、との声も聞こえる。
2. 運用会社及びFAの説明不足もしくは個人投資家の理解不足
個人投資家向けに販売される多くのファンドはSemi-Liquid Fundとして販売されてきた。Semi-Liquid Fundが投資家から解約請求を受け付ける割合とその頻度はファンドに決定権があるケースが多い。過去の事例では四半期ごとにNAVの5%を上限として解約を受け付けるケースが一般的であったと言える。
図表10は主要運用会社が個人投資家向けに販売するオルタナティブファンドについて、投資家からの解約請求割合を各四半期でまとめたものである(※7)。なお、投資家からの「解約請求」とファンドによる「解約の受付」は異なる点に留意が必要である。点線は多くのファンドが受付の上限とする5%を示している。図表の通り、2025年後半から2026年前半にかけて、個人投資家向けに販売されてきたオルタナティブファンド、特にプライベートクレジット戦略は、個人投資家から多くの解約請求を受けている。2026年第1四半期では、投資家から多くの解約請求があった。その一方で、各ファンドの対応は主に2つに分かれた。1つはApollo、Ares、HPSのように受け付ける解約を従来通りのNAVの5%までとしたケース、2つ目はBlackstone、Oaktreeのように従来の上限である5%を超えて受け付けたケースである。後半両社は、従来の上限に加え、規制上認められている幅で追加受付をしたのちに、自社及び自社従業員が解約受付け分の一部を買い取る対応を行った。
※7 Apollo(Apollo Debt Solutions BDC)、Ares(Ares Strategic Income Fund)、Blackstone(Blackstone Private Credit Fund)、HPS(HPS Corporate LendingFund)、Oaktree(Oaktree Strategic Credit Fund)、なお、Interval Fund、Tender Offer Fundは投資家からの解約請求割合の開示が義務付けられていないため、図表に記載したものは全てBusiness Development Companyである。

このような状況に対して、投資家からの解約請求に運用会社が「解約を制限した」といった表現がメディアでは用いられることが多い。しかし、ファンドの目論見書には、ファンドが上限を5%として一定頻度(多くが四半期ごと)で解約を受け付けること、その頻度と金額の決定はファンド側に決定権があることが明記されている。「制限した」というよりも目論見書通り、従来通りの対応をしたといった表現が正しいとも言える。
運用会社が投資家からの解約を「制限した」との表現が独り歩きしたことに加え、ソフトウェア企業の株価下落、一部金融業界の著名人によるプライベートクレジットへの懸念表明があったこと、更には、プライベートクレジットファンドが一部債権者となっていた企業の破綻(不正が大きな要因といわれている)などが相まって、オルタナティブファンド、特にプライベートクレジットへの個人投資家からの解約請求が2026年第1四半期ではパニックに近い状態で殺到している。
解約受付を従来通りのNAVの5%を上限とする運営が、非流動性資産の投げ売り、それに伴うパフォーマンスの悪化、そして更なる解約請求を生む、という負のスパイラルを一定程度は防いだと考えられる。しかし、前述の教育・学習ツールの課題とも関連するが、運用会社は販売会社やFAに対して流動性について十分な説明をしていたのかについては、議論の余地が残る。また、販売会社やFAによる個人投資家への説明は十分だったのか、個人投資家は十分な理解の上で投資をしていたのかといった点も含め、解約請求が殺到した事例は問題を提起している。各種報道によれば2026年第1四半期に豪州で開催されたカンファレンスにおいて、複数の運用会社の幹部が運用会社とFA双方で十分な説明が出来ていなかった可能性があるといった主旨の発言をしている。
Ⅳ.今後の展望とまとめ
図表11に米国上場会社の上場までの期間の平均、図表12に米国の上場企業数を示す。図表11のとおり、米国では上場までの期間が長期化している。また、図表12のとおり非上場企業数自体も増加している。上場せずに、市場ではなくファンドなどから資金を調達し、成長を試みる企業も増加しており、非上場企業が米国経済に与える影響が大きくなっているともいえる。また銀行に対する資本規制強化を背景に、プライベートクレジットは、中小企業の成長を後押しする上で不可欠な資金供給手段となっている。この様な環境は今後も続くとみられ、オルタナティブアセットは投資家にとっても極めて魅力的な存在であることは強く言えるだろう。
また401kなどの退職口座向けファンドにオルタナティブアセットを組み込む動きも強まっており、規制緩和案も提出されている。さらにはファンドの枠組みを超え、個人投資家が非上場株式の持分を取得・売買できるプラットフォームの存在感も強まっている。具体的にはEquity Zen(Morgan Stanleyが買収)やNasdaq Private Market、Forge Globalなどが挙げられる。Equity ZenをMorgan Stanleyが買収したこと、Nasdaqがプラットフォーム作りに携わっている点などを鑑みると、米国でこれらのプラットフォームが如何に盛り上がりを見せているか、今後の成長が期待されているかがわかるだろう。このように米国では課題も見えつつあるが、オルタナティブアセットの更なる拡大が予想される。

また、日本でも大型機関投資家のみならず、中~小規模の機関投資家にもオルタナティブアセットは広まりつつある。大手証券会社を通じた個人投資家への販売も始まっている。米国同様に非上場株式を売買するプラットフォーマーも出現している。広がりとともに規制整備も進みつつあり、日本のオルタナティブマーケットは今後更なる発展が予想されている。米国と比較した場合、現時点での市場規模は小さいものの、成長余地の観点では米国を凌ぐとも考えられる。先に発展した米国から日本が学び得る示唆について筆者の見解を述べる。
1. 運用会社から販売会社、及び販売会社から投資家への十分な情報開示
規制で開示が義務付けられる内容は目論見書にも掲載がされている。しかし、目論見書の内容を全ての投資家、特に個人投資家が熟読し正確に理解しているかどうかについては課題が残る。実際に、米国で個人投資家からの解約請求が殺到した事例は、米国の法律や規制に基づく対応のあり方に課題を提起している。運用会社・販売会社による、更なる能動的で工夫をこらした情報発信が期待される。
オルタナティブアセットは、特に流動性の観点で伝統資産とは大きく異なる。米国を例にとると、上述した通りSemi Liquid Fundでは一部資産を流動性の高い資産で運用しているが、マーケティング資料などでは、オルタナティブアセットでの運用に焦点があたり、どの程度流動性の高い資産で運用をしているか、投資家からの解約請求に、どの程度かつどのように備えているかの説明が不足していたように感じる。2026年第1四半期に、米国の個人投資家から解約請求が殺到したケースは良い事例となり得る。如何に運用会社が解約請求に対応したのか、そしてその背景などを、上述の学習ツールへ掲載することは最終投資家にとって有益となるだろう。
2. 運用会社による最終投資家に寄り添った対応
他の資産も同様であるが、特にオルタナティブアセットの投資対象は北米・欧州の資産が多くを占めている。また、オルタナティブアセットの運用会社も北米・欧州を拠点とする会社が多くを占めている。
米国居住者であれば文化として当然の事象が、日本人投資家にとっては当たり前ではないケースも多い。そのため運用会社にとっては当然で、ことさらに開示が必要ないと思われる情報であっても、日本の投資家にとっては極めて重要な内容であることも考えられる。そのため、特に米国を拠点とする運用会社には、米国外に居住する投資家の目線に立った、投資家に寄り添う情報開示やアプローチを期待したい。但し、上述のとおり多くの運用会社が米国などを中心にビジネスを展開しており、金融商品に係る法律や規制にも日米で違いがある。そのため、米国外に居住する投資家が重視する点に、彼らだけで気づくことには限界があるだろう。
こうした点を踏まえると、日本の販売会社が海外の運用会社と提携し、米国や欧州へ積極的に人材を派遣するなどして交流を深めることには意義がある。とりわけ、日本人であるからこそ気が付ける情報を日本に発信することは、最終投資家にとって、商品そのものだけでなく、その背景情報の理解を深める上でも有益であると考える。
3. 日本の投資家のグローバル化及び運用業界での日本人プレゼンスの向上
オルタナティブファンドを展開する運用会社やファンドが増える中で、投資家の選択肢は増加している。ただし、高品質のファンドには既に投資家が付いており、次号以降のファンドの資金調達を既存投資家のみで完了するケースは少なくない。言い換えると、高品質なファンドに新たな投資家がアクセスすることは困難化しつつある。
こうした環境下における投資スタンスを見ると、地域によって違いがみられる。日本を含むアジア地域の投資家はトラックレコードを重視する傾向があるといわれることが多い。一方で、中東や欧州のSovereign Wealth Fund(政府系基金)などは高品質な運用会社への将来的なアクセスを確保することを目的の一つとして、設立から日が浅くトラックレコードは少ないが将来性を期待できる運用会社やファンドへも投資を行うことがある。
また日系投資家は米国や欧州の投資家に比べ、運用会社に求める情報の粒度が細かく、かつその情報への早期アクセスや広く一般的なアプローチよりもカスタマイズされたアプローチを好むといわれることもある。しかし運用会社が、関係の深い投資家へ先に投資枠を案内することや、運用会社自らの文化と近い投資家を選好することは想像に難くない。日系投資家が、自らの選好や傾向を把握し、他のグローバル投資家との違いをうまく活用することでも高品質なファンドへのアクセスがし易くなるだろう。筆者が拠点とする米国において、オルタナティブアセット運用会社のアジア系人材と接する機会は少なくないが、日系人材と接する機会は多くはないように感じる。日系人材が米国や欧州のオルタナティブアセット運用業界で増加・活躍していくことで、より鮮度が高く、深度のある情報が日本に還元され、日本マーケットの健全な発展にも寄与するだろう。日本の運用会社による海外の運用会社の買収やパートナーシップの提携も増えてきている。それらを積極的に活用することも一つの解決策となり得るだろう。
本稿がオルタナティブアセット投資、特に日本市場での健全な発展に寄与することを期待して、末尾としたい。
(2026年4月21日記)
※本稿中で述べた意見、考察等は、筆者の個人的な見解であり、筆者が所属する組織の公式見解ではない
【参考文献】
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• Morning Star 2024 US Fund Fee Study
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• Morningstar Unicorns and the Growth of Private Markets January 20, 2026
• World Bank Listed domestic companies
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