鯵坂 麻那
三菱UFJ信託銀行
サステナブルインベストメント部 企画推進グループ 調査役

2017年、三菱UFJ信託銀行入社。アセットマネジメント事業のグローバルビジネスにおける企画業務を経て、2021年よりサステナブル投資に関する情報開示等の企画業務に従事。

Ⅰ.はじめに

地球温暖化が国際社会で深刻な問題となっています。2015年に採択されたパリ協定では、世界各国が地球の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をすることが合意され、これに基づき多くの国がカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)を目標として掲げました。日本も2020年10月に、政府が2050年カーボンニュートラル宣言を行い、2030年度の温室効果ガス削減目標を2013年度比で46%と定めています。

こうした動きを具体化するため、日本政府は2023年に「脱炭素成長型経済構造移行推進に関する法律」を成立させました。この法律は、「成長志向型カーボンプライシング構想」を中心に、脱炭素社会への移行を経済成長と両立させることを目指しています。その中核を成すのがトランジション・ファイナンスです。これは二酸化炭素などの温室効果ガス排出量の多い(多排出)産業が、段階的に低炭素化を進めるための資金を調達する手法であり、持続可能な未来への橋渡しとして期待されています。

本稿では、まずトランジション・ファイナンスが求められる背景とその発展について整理します。さらに日本及びアジア地域での事例を踏まえながら、これらの地域での課題について考察します。これにより、カーボンニュートラル達成のための道筋と、持続可能な社会構築への可能性を探ります。

Ⅱ.日本政府によるGX推進の軌跡

1. 脱炭素社会への移行が必要となった世界の動き

近年、世界的に異常気象による大規模な自然災害が発生しています。カナダやブラジル、ハワイなどの自然豊かな国・地域では森林火災が相次いでいます。日本でも記録的な大雨による河川の氾濫や土砂災害が発生し、大きな被害がもたらされています。これらの自然災害の多くは、二酸化炭素などの温室効果ガスの増加による気温上昇が引き起こす異常気象であり、この問題への対応が人類共通の課題となっています。このような背景もあり、温暖化の原因となる温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」という意識が広がりました。本章では、世界でカーボンニュートラルに向けた取り組みが強化された経緯を見ていきたいと思います。

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