土屋 直樹
キャピタル アセットマネジメント
運用本部株式運用部長
土屋 直樹

現代の企業活動において、知的資産の重要性は高まるばかりである。企業の利益の源泉が、機械設備のような有形資産から無形の知的資産にますますシフトしている。優れた企業ほど、ブランド、情報システム、顧客基盤などの知的資産をうまく活用して、より多くの価値を創出している。

米国のアップルやアマゾンが端的な例であるが、日本でもそれらを巧みに活用している企業が相応にある。例えば、エムスリーは医師との強固なネットワークをテコに、MR(医薬情報担当者)や治験など主要事業の競争力を高め、利益の継続的な拡大に成功している。

なお、この重要度を増している知的資産として、当社では、特許権のような知的財産権だけではなく、ブランド、ノウハウ、データ、顧客基盤、研究開発資産、人的資源など企業の強みとなる無形資産を広く含めて捉えている。

バランスシートに計上されない知的資産

さて、より注目すべきであるにもかかわらず、知的資産の難点は貸借対照表にうまく計上されないことである。現行の会計ルールでは、企業が知的資産を獲得するために要した支出などを資産計上することが原則としてできない。例えば、ブランドや顧客基盤を構築するためのマーケティング費、ノウハウや人員の資質を高めるための教育費などはすべて費用処理され、資産としては認識されない。同じようにキャッシュ・アウトされても、建物や機械といった有形資産が大事に資産計上されることとは対照的な会計処理である。

ネット系のプラットフォーマーにとっては、自社ビルよりもプラットフォームの価値を向上するためのマーケティング費用のほうがはるかに価値のある支出と判断されるが、前者は資産計上される一方、後者は資産計上されない。企業活動に資する有価物を示すのが資産勘定であるはずだが、より重要なもののほうが抜け落ちている。

株式市場は、当然、このような会計ルールの不都合も理解した上で、株式の価値を見極めていると考えられる。貸借対照表に計上されている資産だけではなく、そこには明示されていない知的資産も含めて価値評価を行っているはずである。

すなわち、オンバランスのネットの価値である純資産にオフバランスの知的資産の価値を加味して、対象企業の株式の価値(時価総額)を算定していると考えられる((純資産)+(知的資産)=(時価総額))。当社ではさらに、資産サイドの知的資産に対応する資本勘定を知的資本と定義し、(知的資産)=(知的資本)=(時価総額)-(純資産)の関係が成り立つと捉えている。

「知的資本」銘柄重視の国内初の公募投資信託

当社は、この知的資本を運用へ活用するため、その大きさやモメンタムを銘柄選別の基準とした国内株式のモデル・ポートフォリオを構築し、そのパフォーマンスを入念にテストした。その結果、リバランスなど運営ルールにも工夫を施したポートフォリオは、良好なパフォーマンスを有意に示すことが得られた。例えば、2020年末までの10年間において当該ポートフォリオは、リスクがTOPIX(東証株価指数)以下に収まった上で、リターンはTOPIXの2倍を超える数値を示したのである。

このポートフォリオは、時価総額が大きく株価純資産倍率が高い銘柄が中心となっている。旧来的な見方では割高なように見える銘柄が並んでいる。しかし、現行の企業会計の弱点を考慮すると、バランスシート上の純資産に比べて時価総額が大きいことは、そこには計上されていない知的資本が豊富に存在することを示していると考えられる。現代の企業活動においては、このオフバランスの知的資本のほうが価値創出能力に優れているので、こうした銘柄群のほうが株式市場でより評価されて好パフォーマンスにつながることはこれまでの議論と整合的である。

このような考え方と検証結果を踏まえて、今春、当社は『知的資本日本株ファンド』を設定した。知的資本を銘柄選定の切り口とした国内初の公募投資信託である。実運用においても、しっかりと実績を挙げていく所存である。