第4回、第5回と連続して「番外編」としてイールドカーブ、とりわけ最近の世界的現象である「逆イールド」を深掘りしました。今回から再び通常の連載に戻ります。今回と次回で前編・後編として、企業年金でも投資の機会が増えてきた「証券化商品」を採り上げます。名称が耳馴染みになってきた割には、内容を正確に理解している自信がない私が、ラッセル・インベストメントの金武伸治さんに詳しく解説してもらいます。

投資適格社債より大きな市場規模

用語あるいは概念の整理からお願いしたいのですが、「証券化商品」と似た言葉で「モーゲージ担保証券」や「資産担保証券」というのもあり、よく混同します。

金武 証券化商品とはローン債権などを担保とし、そこから発生するキャッシュフローを裏付けとして発行される証券の総称です。

モーゲージ担保証券は英語でMBS(Mortgage Backed Securities)といいます。MBSは証券化商品の一種で、住宅ローンや商業用不動産ローンを担保資産として発行されています。

資産担保証券は英語でABS(Asset Backed Securities)と言います。ABSも証券化商品の一種で、自動車ローンやクレジットカードローン、学生ローンなどを担保資産として発行されています。資産担保証券については、次回の後編で詳しく説明したいと思います。

前編では、「政府系」のモーゲージ担保証券についての説明が中心ということになりますか。

金武 その通りです。今回フォーカスするのは米国の住宅ローン債権を担保資産とする政府系モーゲージ担保証券(以下、政府系MBS)です。政府系MBSは、国債に次ぐ市場規模と流動性を持っています。

Bloomberg 米国総合債券インデックスにおける国債の規模は10.4兆米ドルでインデックスの41.0%を占めます。一方、政府系MBSは6.9兆米ドル、26.9%です。これに対して投資適格社債は6.3兆米ドル、24.8%ですので、政府系MBS市場の方が投資適格社債よりも市場規模が大きいことになります(2023年6月末)。

なおMBSに似た証券として、CMBS(Commercial Mortgage Backed Securities: 商業不動産担保証券)と呼ばれる商業用不動産ローンを担保とするものもあります。CMBSには政府系CMBSも存在しますが、政府系MBSと比較すると市場規模は小さく1/10以下です。

政府系MBSは、住宅ローンから発生するキャッシュフロー、つまり元利金(利息と元本返済)を投資家に支払う仕組みの債券です。通常の債券の場合、期中は利息であるクーポンのみを受け取り、最後の償還日に元本償還を受けますが、政府系MBSは期中から利息と元本の両方を受け取るかたちとなります。【図表1】で政府系MBSのキャッシュフローを示しました。

【図表1】政府系モーゲージ担保証券のキャッシュフロー(※イメージ図)
政府系モーゲージ担保証券のキャッシュフロー(※イメージ図)
出所:ラッセル・インベストメント作成

米国では、住宅ローン金利が現在の借り入れ金利よりもある程度低くなった場合、新しい住宅ローンで資金を借りて、現在の住宅ローンを返済してしまう、いわゆる「借り換え」が頻繁に発生します。例えば当初の借り入れ期間が30年の住宅ローンであっても、金利の低下によって想定よりも早い時期に元本が返済されてしまう期限前返済が起こります。これは債券の残存年数やデュレーションが短期化するということですので、どのくらいの早さで住宅ローンが期限前返済されるか予測することが、モーゲージ担保証券を分析するポイントとなります。

政府や関連機関が元利保証

「政府系」とは何を意味するのですか。

金武 政府系MBSとは、モーゲージ担保証券のうち、政府または政府関連機関(GSE: Government Sponsored Enterprise)が元利金を保証しているものです。

元利金を保証している機関はジニーメイ(Ginnie Mae)、ファニーメイ(Fannie Mae)、フレディマック(Freddie Mac)の3つ。これらの機関には実質的な政府保証があると考えられています。ジニーメイは政府機関であるため、明確な政府保証が付いています。一方でファニーメイとフレディマックは政府関連機関ですが、その設立の根拠法から暗黙の政府保証が付いていると言われています。

ジニーメイの”G”がGovernmentを意味し、ファニーメイ、フレディマックの”F”がFederalを意味していますので、GかFかで区別すると覚えやすいでしょう。

期限前償還リスクが注目点

政府系モーゲージ担保証券を評価したり分析したりするポイントはどういった点でしょうか。

金武 政府系MBSの場合、実質的な政府保証が付いていることから信用リスクを意識することはほとんどなく、また流動性が高いことから流動性リスクを意識することもほぼありません。このため信用リスクや流動性リスクは、価格にほとんど影響を与えません。

政府系MBSの主なリスクは期限前償還リスク(プリペイメント・リスク)です。先ほど話した住宅ローンの期限前返済などで、元本が予想よりも早く(または予想よりも遅く)返済されるリスクのことです。通常の債券では償還日が一定であるのに対して、政府系MBSは償還日が定まっていないことになります。このため残存年数が変化し、債券の主要リスクであるデュレーションも変化することになります。

借り換えや繰上げ返済などで発生

「プリペイメント・リスク」をもう少し詳しく説明してください。

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