ESG(環境・社会・企業統治)は、業種や時間軸の広がりだけでなく、多様な業務分野にかかわり非常に多元である。しかも、それが日々拡大し、深くなっている。膨張するESGから生じるリスクに対応できる体制と戦略はあるのか、と問うてみる必要がある。リスク管理の手法といえば「デリバティブ」がある。ESGに適用する「ESGデリバティブ」を原因別対応策別などの視点から考察してみよう。今回は【第2回】「ESGデリバティブとその原資産の価格の変動性」である。

まず変動性の具体例を図表で見てみよう。変動性は避けられないものである。米国国債先物ボラティリティの最近のピークは新型コロナウイルスによるパンデミック宣言があった2020年3月である。変動性の指標として用いられることが多いインプライド・ボラティリティは、周知のようにオプション価格とプライシング公式から導出される。

【図表】米国長期国債先物のインプライド・ボラティリティ
米国長期国債先物のインプライド・ボラティリティ
出所:日本銀行 [2022] 『金融システムレポート』2022年4月
※Bloombergデータから作成されている
https://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsr220421a.pdf

ESGデリバティブは、市場が未開設であるか、開設されていても直後か開設後日時が経っていない。その結果データは少なく信頼性がないので、変動要因をリストアップするだけにしたい。

原資産の変動性はほどほどがベスト

商いが薄く、価格が変化しなければ、効率性に問題が起きる。しかしながら、変化し過ぎると別の問題が生じる。ほどほどがベストなのである。

変動性があるから、良し悪しにかかわらず、イベントに対応して価格が頻繁敏速に反応する。ヘッジ商品さらにはボラティリティ商品への需要が生まれる、という点もある。しかし、1日に30%も価格変化するのであれば速さについていけず、取引できない参加者が生まれ、市場参加者が偏り市場存続が怪しくなる。

安価なヘッジ商品として生み出され販売されたデリバティブが、原資産の予想外の価格変動で大きな損失を出すこともある。顧客がその点をよく知らされていなかったとの苦情を訴えることもある。

市場の流通性が存続に影響する

流通市場が小さいまま、大きな需給が出現すれば価格は高騰・暴落しやすい。流通市場が小さい、あるいはそれがない商品については、流動性対策として証券化という方法もあるがその価値が低く評価されやすい。さらに、機動的な損切りもできないため一部の投資家は退散せざるを得ない。

投資家が存続に影響する

市場は、周知のように売買プログラムをコンピュータと超高速通信で自動運用する時代になっている。相場変動率が一定の値を超えると、マーケットメーカーなどの売買プログラムはすぐに売買に応じる(流動性の供給と呼ばれる)取引を減らすため、ボラティリティは一段と拡大し、価格暴落に拍車をかける傾向が観察されている。

さらに運用者にもボラティリティの大きさで機動的に資金配分を変える運用手法が広がった。相場変動率が上昇すると一斉に売りに動く現象は日本でも頻繁に観測されている。

辰巳憲一

辰巳憲一
学習院大学名誉教授
大阪大学経済学部、米国ペンシルベニア大学大学院卒業。学習院大学教授、London School of Economics客員研究員、民間会社監査役などを経て現在、学習院大学名誉教授など。投資戦略、ニューテクノロジーと金融・証券市場を中心とした著書・論文多数