「米国第一主義」による内憂外患

大和総研
金融調査部 主任研究員
長内 智

世界の金融市場は2024年秋以降、世界経済が緩やかな成長を続ける下で総じて落ち着いており、そうした金融環境などを追い風に、日本銀行は2025年1月に追加利上げを決定した。

足元の0.50%という政策金利の水準は、日銀が中立金利を1.0~2.5%程度のレンジで示していることや、実質金利がマイナス圏にあることなどを踏まえると、依然として緩和的という見方もできる。

国内の物価および金融・経済環境を踏まえると、日銀は今後も段階的に利上げを行い、金融緩和政策の「出口戦略」を進める公算が大きい。既に債券市場では、今後の利上げなどを織り込む形で幅広い年限の国債利回りが上昇している。金利先高観が強まっている中で国債を買い控える動きも見られ、さらに日銀が進めている国債買入減額も一定の需給悪化要因となっている。

日銀の利上げは、長らく続いた超金融緩和政策の副作用を軽減させ、金融市場の正常化に繋がる前向きなものと捉えることができる。しかし、その一方で、金融市場および経済の先行きを見通す上では、金利上昇に伴う負の影響についても十分に注視する必要がある。例えば、日銀の利上げに伴う借入金利上昇などの影響で企業の業績見通しが当初の前提より悪化することになれば、株価の下落要因となる。

さらに、2025年は日銀の追加利上げの影響に加え、世界経済の下振れリスクや円高リスクが顕在化して、「内憂外患」の様相が強まることも想定される。これらは、主にトランプ米大統領の「米国第一主義」に基づく関税外交による。為替相場に関しては、第一次トランプ政権時代に米中貿易摩擦が激化する中で投資家のリスク回避の動きが強まり、米ドルをはじめとする主要通貨に対して円高が進行したという教訓を思い起こしたい。

企業収益と日本経済にマイナス

このように金融市場および経済の先行き不確実性が高まる中、具体的な下振れリスクの影響がどの程度になり得るか検討しておくことが有用となろう。今回は、①短期金利上昇、②世界需要の減少、③円高ドル安、の3つに着目し、その企業収益と日本経済への影響度について、内閣府の「短期日本経済マクロ計量モデル(2022年版)」の乗数表に基づき試算する。

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