榊原 弘一
三菱UFJ信託銀行
オルタナティブ商品開発部 フェロー

1990年、三菱信託銀行(現 三菱UFJ信託銀行)入社。金銭債権証券化の組成業務などを経て、2016年資産金融第1部長。2018年資産金融部長。2020年法人マーケット統括部役員付部長、2021年金融商品開発部長。2024年から現職。早稲田大学商学部卒。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)

Ⅰ.はじめに

データを処理・保存するデータセンターには、一つの企業が運営する「企業内データセンター」(※1)と、顧客へのサービス提供のために必要なインフラとして建設された「事業者データセンター」がある。

近年では、企業におけるリソースの選択と集中、コスト意識の高まりにより「企業内データセンター」の運営に係るアウトソースニーズが高まっている。また、動画視聴サービスなどデジタルコンテンツの消費拡大、企業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展、それに伴うクラウドサービスの利用が拡大していることなどを背景として、「事業者データセンター」に対する需要が世界的に高まっている。

「事業者データセンター」への投資は、①データセンター事業者が自らのバランスシートにおいて行うもの、②ファンドが投資家の資金を集め行うもの、がある(※2)。

米国では「事業者データセンター」に特化して投資する上場REIT(Real Estate Investment Trust:不動産投資信託)が存在するが、日米の上場REITに関する制度の違いもあって、日本では上場REIT(J-REIT)による投資実績は少ない。また、非上場ファンドによる投資も比較的新しい分野であり、今後の拡大が期待されるところである。

「事業者データセンター」は、既に社会インフラとして我々が日常生活を維持する上で必要不可欠な役割を担っており、今後においても需要の拡大が見込める。したがって、中長期にわたり安定的なキャッシュフローの創出が期待できる投資対象として位置付けられよう。

そこで、本稿では日本における「事業者データセンター」への投資を採り上げ、「事業者データセンター」の概要や需要動向を概説すると共に、投資家が非上場ファンドを通じて「事業者データセンター」に投資する際の留意点(リスク)について述べてみたい。

なお、本稿では「企業内データセンター」と「事業者データセンター」を明確に区別する場合を除き、「事業者データセンター」を単に「データセンター」と表記する。

※1 一棟建てのものもあるが、オフィスの1フロアやサーバールームなど小規模なものも多い。
※2 データセンター事業者と投資家がジョイントベンチャーの形にて共同で投資する場合もある。

Ⅱ.データセンターの概要

1. データセンターとは

データセンターは、データを処理・保存するために、サーバーを始めとするICT機器などを設置・運用することに特化した施設である(※3)。

そこでは、大量の電力を消費し発熱するICT機器を24時間365日、常に安定的に稼働させる必要があるため、電源設備(非常用発電設備を含む)、空調設備、通信設備(ネットワークケーブル、ネットワーク機器)も土地・建物に加えて重要な構成要素となっている。

それにより、データセンターの資産構成においては土地・建物といった不動産に対して、電源設備、空調設備などの動産が占める比率が高くなっている。また、建設コスト(※4)の構成比でも、建物が20~30%、それ以外の設備(※5)などが70~80%占めることとなっている。

※3 日本国内の業界団体である日本データセンター協会は「データセンターとは、インターネット用のサーバーやデータ通信、固定・携帯・IP電話などの装置を設置・運用することに特化した建物の総称を指します」と定義している。
※4 立地条件によるためここでは土地は考慮していない。
※5 設備にはデータセンター事業者もしくはテナントが所有するラック、サーバーなどのICT機器は含まない。

2. データセンターに求められるスペック

(1) 建物

① 床荷重
データセンターの建物に関する第一の特徴としては、床荷重が一般的なビルと比較して圧倒的に優れていることにある。一般的なビルの床荷重は300~500kg/m2程度であるが、データセンターにおいてはラックにサーバーなどのICT機器を収納して管理するため、それに耐えうる強度が求められる。

標準的な19インチラック(※6)の単体重量は150kg程度であり、さらに1台15kg度のサーバーが40~50台搭載できるため(※7)、合計750kg程度以上の重さとなる。ラックの専有面積は1ラックあたり0.72m2程度であることから、少なくとも1t/m2の床荷重が必要であり、物流施設並みの1.5 t/m2程度あることが望ましい。中には2.0~2.5t/m2で作られているデータセンターも存在する。

② 天井高
天井の高さもデータセンターの特徴の一つである。ラックの上部に照明や消火設備を配置することに加え、空調のためにも一定のスペースが必要であり、天井高は物流施設並みの5m程度が必要となる。中には7mに達するデータセンターも存在する。

③ 防災対策
火災に対しては、データセンター内の各部屋が区画化されており、燃えにくい壁材を使用して火事の延焼を食い止める工夫がなされている。また、水で消化するとサーバーなどのICT機器が故障し使用できなくなるリスクがあるため、二酸化炭素やフロンガスを噴射して消火する方法が採られている。

地震に対しては、耐震構造であることは当然のこととして、衝撃に弱いICT機器が落下しないように、また、揺れが極力伝わらないようにするため、データセンターの多くは免振構造となっている。耐震構造ではあるが免振構造とはなっていない既存建物をデータセンターに転用する場合(※8)は、建物の基礎部分に免振装置を設置する「建物免振」に代えて、サーバーを設置するフロアの床のみ免振化する「床免振」、あるいはラック単位で免振化する「ラック免振」が採用されるケースもある。

④セキュリティー対策
セキュリティー面では、監視のために適所に警備員を配置し監視カメラを設置するほか、入館あるいはサーバールームへの入室などに際してはセキュリティーカードによる認証、最近では生体認証を採用しているケースが一般的である。

※6 EIA(Electronic Industries Alliance:米国電子工業会)が規格を定めており、ラックの中の幅は19インチ(482.6mm)と規定されている。
※7 EIA(Electronic Industries Alliance:米国電子工業会)によりサーバーの高さもU(ユー)という単位で定められており、1Uは1.75インチ(44.45mm)である。データセンターで使用されるラックは大型の42U~50Uサイズであり、42Uサイズのラックには1Uサイズのサーバーが42台、2Uサイズのサーバーは21台物理的に収納できる。
※8 特に物流施設は床荷重や天井高がデータセンターのスペックに近く候補となるが、物流施設は免振構造となっているものは少ない。

(2) 電源設備など

① 電源設備
データセンターは、大量の電力を消費するため、日本においては、電力会社から標準電圧6万V(ボルト)以上の「特別高圧」(※9)で受電する必要がある。

電力会社の配電線から建物へ電力を引き込む受電設備、受電設備が引き込んだ「特別高圧」電力の電圧を下げるための変電設備、電気をサーバールームのラックまで送るための分電盤、さらには停電時に備え無停電電源装置(UPS)(※10)や非常用発電機が必要となる。

データセンターは、24時間365日、常に稼働させる必要があり、極めて高い可用性(※11)が求められる。しかし、単一の回線や設備では100%に近い可用性を実現することは極めて困難であり、回線を複数系統にする、または、設備を冗長化することで可用性を上げている。

例えば、受電に際しては、電力会社の別々の変電所から本線と予備線の2回線で受電する異系統2回線受電などが採用され、立地条件などで制約がある場合においては、同一の変電所から本線と予備線の2回線で受電する同系統2回線受電方式が採用されることも多い。そして、電気をサーバールームのラックまで送る際においては、2系統配電が基本となる。また、停電時に備えるための無停電電源装置(UPS)や非常用発電機も予備が設置され、冗長化が図られることになる。

なお、冗長化の程度は2NやN+1といった形で表現され、N(Need)は必要量、数字は予備量を表す。すなわち、2Nは必要量に対して2倍の予備量があることになり、N+1は必要量に対し1だけ予備量があることになる。データセンターにおける冗長性は、電気設備のみならず、他の設備に関してもN+1~2の水準が求められる。

※9 電圧が7000Vを超えるものであり、一般的には供給電圧が2万V、6万V、14万Vのことを指す。
※10 Uninterruptible Power Supply。停電によって電力が断たれた際も電力を供給し続ける装置。バッテリーと接続されているが、バッテリーは5~10分程度の容量であり、あくまでも非常用発電機へ電源を切り替える際の時間稼ぎの役割である。
※11 Availabilityとも呼ばれ、データセンターを稼働できる割合を示す。理想は24時間365日、常にデータセンターが使える状態であり、その場合の可用性(Availability)が100%。

② ラックあたりの電力量
テナントに対して提供可能な1ラックあたりの電力量であり、データセンターの最大受電容量から、空調などのデータセンター設備に必要な電力容量を控除し、これを設置可能なラック数で除して求められる。1ラックあたり6kVA(キロボルトアンペア)(※12)以上であれば高電力と評価されるが、現在クラウド事業者が求める電力量は8kVA以上である。

最近ではGPU(Graphics Processing Unit:画像処理半導体)を複数搭載したGPUサーバーが、AI(Artificial Intelligence:人工知能)などの高度な計算処理をするために用いられる。大量の電力を消費するGPUサーバーを高集積で利用することを想定して、1ラックあたり20~30kVAまで対応可能なデータセンターも存在する。

※12 kVAのVA(ボルトアンペア)は「皮相電力」の単位。交流の電力には「皮相電力」「有効電力」「無効電力」の3種類があり、「皮相電力」=「有効電力」+「無効電力」である。電力会社から供給される「皮相電力」は全て電気機器で使用されるとは限らず、電気機器で使用される「有効電力」(単位はW(ワット))と何の仕事もせずに発電所に戻ってくる「無効電力」(単位はVAR(バール))との和となる。なお、「有効電力」/「皮相電力」=力率であり、100%に近いほど「無効電力」は小さいが、白熱電球や電熱器など電力を熱として使用する設備の力率が100%となる以外は、「無効電力」が必ず発生する。

③ PUE Power Usage Effectiveness 電力使用効率
大量の電力消費は地球温暖化の要因となる。また、データセンターにおける電気料金はサーバーに使用する電力のみならず、設備に係る電力も基本的に顧客負担となることから、データセンターでは電力を効率良く使用することが求められる。

データセンターの電力使用効率を図る指標としてPUE(Power Usage Effectiveness)があり、以下の式にて求められる。

PUE=
データセンター全体の消費電力
データセンター内のサーバーなど機器の消費電力

PUEの値は1に近いほど効率が良く、かつてのデータセンターのPUEは2程度、現在新築されるデータセンターは1.5を下回るものも多くある。

(3) 空調設備
データセンターに設置されている全てのICT機器は電力で稼働し、その際に熱を放出する。本章(2)の②において、1ラックあたり6kVA以上であれば高電力と評価されると述べたが、サーバーの力率(※13)が90%と仮定すると、1ラックあたり5.4kW(キロワット)以上の電力が発熱することになる。これは1ラックあたり家庭用としては標準的な1kWの電気ストーブが5台以上発熱していることと同じであり、データセンター全体では非常に多くの熱が発生していると言えよう。
室温が高くなり過ぎるとICT機器は誤作動あるいは故障するため、データセンターにはこれを冷却するための空調設備が必要となる。前述したように、最近ではGPUサーバーがAIなど高度な計算処理をするために用いられ、GPUサーバーは大量の電力を消費することから、1ラックあたりの電力消費が10~20kWに達することも珍しくない。したがって、その熱負荷に対応した冷却能力を提供するデータセンターも存在している。

※13 上記12ご参照。

(4) 通信設備
データセンターとインターネットなどの外部回線を繋ぐネットワークケーブルや、データセンター内の機器を繋ぐネットワークケーブル、スイッチやルーターなどのネットワーク機器が必要となる。複数の電気通信事業者を組み合わせたマルチキャリアデータセンターは、通信経路の冗長化による高信頼化へとつながる。

以上を踏まえると、現時点で競争力のあるデータセンターに求められるスペックは、図表1のとおりと考えられる。

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