マーサーの頭脳に聞く グローバル資産運用・コンサルティングの焦点 【第3回】アセットクラスの枠を超え、真のエクスポージャーと真の分散をどう確保するか二アール・オサリバン グローバル・インベストメント・ソリューションズ部門 最高投資責任者(CIO)
「マーサーの頭脳に聞く グローバル資産運用・コンサルティングの焦点」の最終回となる第3回は、グローバル・インベストメント・ソリューションズ部門の最高投資責任者(CIO)を務める二アール・オサリバン氏。複雑化する市場環境のなかで、機関投資家はポートフォリオ戦略の焦点をどこに置くべきか。ガバナンスの強化、パブリック市場とプライベート市場を貫く「真のエクスポージャー」の可視化、そして「真の分散」の確保まで、アセットクラスの枠を超えてポートフォリオを捉える新たな視座を聞いた。

グローバル・インベストメント・ソリューションズ部門 最高投資責任者(CIO)
二アール・オサリバン氏
ガバナンス整備の第一歩は「運用プロセスの問い直し」
いま、機関投資家のポートフォリオ戦略における焦点はどこにあると考えるか。
焦点は主に3つある。第1に、運用環境の変化を確実に見据え、ポートフォリオ全体でガバナンスを強化していくこと。第2に、真に機能する分散ポートフォリオを構築すること。そして第3に、最適な運用パートナー(外部の知見やマネジャー)と連携することだ。
3点目について敷衍(ふえん)すると、「マネジャーとして実際にその仕事を担えるのはどこか」を見極めることが重要になる。当社はアセットオーナーを対象に毎年サーベイを実施しているが、回答企業の90%超が、ポートフォリオの一部について外部の力を借りていると答えている。そして、ベストなマネジャーをどう見つけるかは、今後ますます重要になっていく。世界が変化するなかで、過去にアウトパフォームできたやり方が、将来も通用するとは限らないからだ。
「アセットオーナー・プリンシプル」に基づく運用が重視されるなど、日本でも焦点の一つ目に挙げたガバナンスの強化の機運が高まっている。具体的にどのような取り組みが重要か。
まず、マネジャー選定プロセスそのものを問い直す必要がある。そのマネジャーはポートフォリオの中でどのような役割を担っているのか、なぜ選んだのか、そして将来もその役割を果たせると確信できる根拠は何か。こうした問いを立てることだ。
例えば、プライベートエクイティのマネジャーは、かつては企業を買収し、レバレッジ(借り入れ)を効かせ、将来のどこかの時点で売却すれば良いリターンが得られた。しかし今日では金利もバリュエーションも上昇しており、プライベートエクイティの投資家としてこの仕組みを機能させる唯一の方法は、買収した企業を実際により良い会社にし、その収益力を高めることだ。
どのマネジャーを選ぶかを考える際には、そのマネジャーが過去にそれを実現してきたという証拠(エビデンス)が必要になる。良いアセットオーナー・プリンシプルとは何かと問われれば、マネジャーを選ぶ際に、そのマネジャーが過去に保有した企業を実際に変革し、より良い会社にしてきた実績があるかどうかを確認することだ。
もう一つ、上場株式ポートフォリオの事例を考えてみたい。従来は、バリュー、グロース、モメンタム、クオリティといった運用スタイルの異なる複数のマネジャーを組み合わせてポートフォリオを構築するかたちで、分散を図ってきた。しかし、指数(ベンチマーク)の構成が一部の巨大銘柄に集中し、その値動きに大きく左右されるようになった現在、この手法はいまだ有効だろうか。
一部銘柄への集中がある指数のもとでは、ファンダメンタルズ型のマネジャーは、クオンツ運用のマネジャーと違い、巨大銘柄を指数の構成比率どおりの高い比率で組み入れることが難しい。1つの銘柄にポートフォリオの大きな割合を割くという運用判断には、なかなか踏み切りにくいからだ。つまり、こうした巨大銘柄は、指数よりアンダーウェイトされやすくなる。
ここで気を付けなければいけないのが、バリュー、クオリティ、グロースとスタイルの異なるマネジャーを組み合わせ、十分に分散したつもりでも、いずれもファンダメンタルズ型のマネジャーであれば、そろって「同じ巨大銘柄を少なめにしか持たない」というバイアスを共有しかねない点だ。そうなれば、ポートフォリオ全体では、指数からの乖離リスクが大きいまま残ってしまう。
この点は投資期間が非常に長ければそれほど問題にならないかもしれない。しかし、顧客や最終的な投資家が短中期的に運用成績を評価するのであれば、この乖離リスクは無視すべきではないだろう。
そこで、やるべきことは2つある。1つは、エンドの投資家の投資期間(タイムフレーム)とリスク許容度を見極めること。もう1つは、そうしたポートフォリオが抱えるエクスポージャーを把握できるリスクシステムを持つことだ。
そして最後にもう一点、パブリック市場とプライベート市場を組み合わせる際には、トータル・ポートフォリオの中で何が起きているのかをどう捉えるかという問題がある。プライベート市場はパブリック市場のように値付けされないため、定量的な指標や過去の実績に頼ることはできない。だからこそ、それを補正・調整して真のエクスポージャーを把握できるシステムとポートフォリオ・レポートを構築する必要がある。
リスク管理の注目点は「自分が何を保有しているか」「テーマが変化していないか」
パブリック市場とプライベート市場の統合については、どのようなフレームワークで統合すればよいか分からないという声も多い。真のエクスポージャーの可視化が重要とのことだが、マーサーでは具体的にどのように統合と統合的なリスク管理を実現しているのか。
我々がやろうとしているのは、まず企業の「真の経済的エクスポージャー」が何かを見極めることだ。あるテクノロジー企業が上場していれば、毎日の株価でその価値が分かる。しかしプライベートのポートフォリオには2つの問題がある。第1に、保有しているのはファンドの持ち分であるため、その裏側にあるファンドに何が入っているかを見る必要がある。第2に、そのファンドは時価評価(マークトゥマーケット)されていない。
そこで最初にやるべきことは、ファンドに含まれる保有銘柄をすべて取り出し、自社のリスクシステムに反映することだ。こうしてパブリック市場のエクスポージャーとプライベート市場のエクスポージャーが揃い、両者を合わせることで、たとえばソフトウェアに対する自分の真のエクスポージャーが見えてくる。そのうえで、トータル・ポートフォリオのレベルで何をすべきかが分かる。
そのうえで、原資産であるアセットクラスそのものが変化しているという点にも目を配る必要がある。
例えば、インフラ資産は非常に良い分散対象とみられている。政府ないし準政府に担保されたキャッシュフローがあり、インフレにも強い傾向がある。歴史的には、ポートフォリオを分散する際、株式資産の隣にインフラ資産を置けば良い分散が得られるとされてきた。しかし近年では、インフラの多くがAIの拡大に関連して建設されるようになっている。そうなると、インフラのリターンを動かす要素が、株式市場のリターンを動かす要素と重なってくる。
同じアセットクラスでも、過去に得られた分散が将来も得られるとは限らない。したがって、パブリックとプライベートを統合するやり方は、アセットクラスそのものへのアロケーションだけでなく、ポートフォリオを動かしている原テーマへのアロケーションとして捉えることになる。
要は、第一に、自分が何を保有しているのかを正確に把握すること。第二に、その保有分を動かしているテーマが変化していないかどうかを理解することだ。
なお、グローバルで多くのクライアントが取り組んでいることの一つが、ヘッジファンドやコモディティのポートフォリオへの配分であり、ポートフォリオに真の分散効果をもたらすものを組み入れ、エクスポージャーを実効的に管理しようとしている。
その際に注意したいのが、流動性の低い資産を使う場合、その投資やビークルが「それ自体として適切な流動性特性を備えているか」だ。セミリキッドのビークルやオープンエンドのプライベート市場ビークルを使うことはできるが、流動性のない資産を本当に流動的にすることは不可能だ。そうした資産を使うのであれば、ビークルの形態にかかわらず、それらが流動性を失う可能性があることを覚悟しておかなければならない。
最大手アセットオーナーにも浸透するOCIO
真の分散の確保には、非常に複雑な分析とデータの蓄積が必要になる。機関投資家が自力で対応するのが難しい場合も出てくるのでは。
株式のバリュエーションが高く、金利の不確実も増している。投資はより難しく、分析もより精緻さが求められている。
先ほどの例に立ち返れば、最大手の機関投資家であっても、ポートフォリオの一部はアウトソースしている。我々が目にしているのは、日本に限らず世界中で、多くの機関投資家が、いかに同じ人数でより多くの仕事をどうこなすかを模索しているということだ。
そこで力になるのがOCIOだが、OCIOという用語は、役に立つ言葉であると同時に、誤解を招く言葉でもあると考えている。なぜなら、OCIOの「O」は「アウトソースド(outsourced/外部委託)」の頭文字だが、多くの面では「スタッフの拡張(extension of staff)」という表現のほうが適切だからだ。
あくまでクライアントであるアセットオーナーなどが運用を監督する義務・責任を保持し続け、投資戦略も自ら握っている。特定の領域で支援が欲しいときにだけ、OCIOと呼ばれるサービスを使えるのである。したがってOCIOは、運用リソースに乏しい小規模のアセットオーナーなどに留まらず、多くの機関投資家の運用を助けるだろう。
最大手のアセットオーナーは、マーサーのようなOCIOをどのように活用しているのか。
多いのは、最適なマネジャーを見つけるために我々のツールと助言を活用するケースだ。運用資産が大きくても、個々のマネジャーへの配分はそれほど大きくない場合は、同様の他のクライアントとプーリング(資金の取りまとめ)を行うことで、より良いマネジャーフィー(手数料条件)を引き出す
そして最後に、クライアントは流動性をめぐる最近のヘッドラインを認識しており、それがプライベートエクイティやプライベートデットにおけるコインベストメント(共同投資)やセカンダリー投資に興味深い機会を生み出している。大手投資家の一部は、コインベストメントの機会を発掘(ソーシング)するために我々と協働しようとしている。
コインベストメントは、日本の機関投資家にはまだ広く浸透していない。そのメリットはどこにあるのか。
コインベストメントとは、GP(ジェネラル・パートナー。プライベート市場のファンドを運用する主体)が特定の投資案件を手がける際に、そのファンドへ出資している投資家に対し、対象となる投資先企業へ直接、追加で資金を投じる機会を提供する仕組みだ。通常のファンド出資(プライマリー投資)とは別枠で、個別の案件に上乗せして投資するものと言える。
プライベート市場の興味深い点は、この仕組みが手数料の面でも投資家に有利に働くことだ。パブリック市場では、まず手数料(フィー)が提示され、投資家はその割引を交渉していく。一方プライベート市場では、GPが個別の案件を進めるために追加の資本を必要とし、それをコインベストメントの形で既存の投資家から調達しようとする傾向がある。しかも、このコインベストメントの手数料は低く、典型的には手数料ゼロで、キャリー(成功報酬)もかからない。
したがって、優れたGPを見極められているという前提のもとで、コインベストメントをポートフォリオの一部として取り込むことができれば、2つのメリットが得られる。第1に、それ自体が非常に魅力的な投資機会となること。第2に、コインベストメントの部分は通常のファンド出資(プライマリー投資)よりもはるかに手数料が低いため、ポートフォリオ全体で支払う手数料の水準を押し下げられることだ。













