エマージングの債券や株式はインデックスより国単位で投資を
フォーラムでは「スペシャルセッション」と銘打ち、最近のマーケットで話題の5つのキーワードについてそれぞれの専門家が講演を行った。1つ目のスペシャルセッションでは、東京都が2017年11月に発表した「『国際金融都市・東京』構想」の進ちょく状況を東京都戦略政策情報推進本部 戦略事業 担当部長の田尻貴裕氏が解説した。
同構想は、①ビジネス環境整備②海外からプレーヤーの呼び込み③ESGなど社会的課題解決への貢献――の3つの柱からなっている。田尻氏は、「2017年度と2018年度は年10社ずつ海外金融系企業の誘致に成功した。2019年4月には、官民一体で東京の金融を盛り上げる一般社団法人のプロモーション組織を立ち上げ、会長には元日銀副総裁の中曽宏氏に就任していただいた。2019年度と2020年度はそれぞれ15社ずつ招き、東京をインベストメント・ハブにしたい」と語った。
2つ目は「エマージング市場」で、イートン・バンスのグローバル・インカム 共同ディレクターのエリック・ステイン氏が、新興国資産の知られざる魅力を述べた。ステイン氏は、投資対象になり得るエマージング市場は80カ国あるにも関わらず、多くの機関投資家が利用している大手金融グループの新興国市場インデックスは19カ国しか組み入れていないと指摘。例えば、エマージング債券投資で収益をあげるには、国単位のスプレッドやデュレーションのリターンなどを考慮すべきと提案した。
注目の投資先としてステイン氏は、債券ではセルビア、ドミニカ共和国、エチオピア鉄道、インドなどを挙げつつ、「多くの新興国は若年層が多いため長期の経済成長が期待できる」とアピールした。
3番目のスペシャルセッションでは、HSBCグローバル・アセット・マネジメントアジア債券シニア・プロダクト・スペシャリストのジェフ・ルント氏が「人民元建て債券」をテーマに講演した。ルント氏は、中国の人民元建て債券は3%台の利回りを誇り、かつ日米欧など海外主要国の債券と相関性が低い点を強調。さらに、2017年にブルームバーグ・バークレイズ・グローバル総合インデックス(BGA)が、マーケットの時価総額が大きいオンショアの人民元建て債券を採用したため、海外の機関投資家は流動性のプールにアクセスしやすくなったと紹介した。
人民元建て債券のデフォルト(債務不履行)についてルント氏は、「全体に占める割合は2019年で0.19%に過ぎない」と、過度の懸念で投資機会を見送るリスクを説いた(ジェフ・ルント氏の講演内容は本誌P18~19を参照)。
4つ目のキーワードが「インデックス」で、FTSE Russell アジア・パシフィックリサーチヘッドの田村浩道氏が、「新しいコンセプトのインデックス構築方法:ターゲット・イクスポージャー」と題して語った。同社のインデックス構築手法において、第1世代はファクターをティルト(傾ける)する幅を決め、その結果としてエクスポージャーが出てくるものだ。対して第2世代のターゲット・イクスポージャーと呼ばれる手法では、最初にエクスポージャー量を決めて、それを実現するティルト幅は何かという逆算で構築する。
田村氏によると、第2世代は、取りたくないリスクのパフォーマンス寄与度を抑えられるメリットがあり、「例えばESGへの応用。スマートベータを狙うが、気候変動リスクには中立などのニーズに柔軟に対応可能なインデックスを構築できる」と説明した。
スペシャルセッションの最後は、M&Gフィクスト・インカム・チーム 投資ディレクターのピエール・シャルトル氏が、「ESG投資の債券市場への影響」をキーワードにプレゼンテーションした。シャルトル氏によると、債券のESG投資アプローチには、グリーンボンドやインパクト投資、そして複数の銘柄スクリーニングを組み合わせる「ESGの統合」があり、近年は「ESGの統合」によるハイイールド債券運用の注目度が高いという。
同社の『M&Gグローバル ハイイールドESG債券戦略』は、独自の3つのスクリーニングを基にポートフォリオを構築。シャルトル氏は、「投資可能なグローバルハイイールド債3137銘柄のうち2254銘柄が残るため、インカムが見込めつつ流動性も十分」と力を込めた(ピエール・シャルトル氏の講演内容は本誌P20~21を参照)。
ESGは機関投資家の関心が高い半面、多くのポートフォリオでは、ESG投資はマイナーな存在にとどまっている。国連責任投資原則 アジア太平洋 ダイレクターのマシュー・マクアダム氏は講演で、「ESGのデータは一貫した形で開示されていない。ESG関連の情報は市場にまだ組み込まれてはない現状は、言い換えると、リサーチのデューデリジェンスを通じて様々な資産クラスでα(アルファ)をあげていくチャンスにもつながる」と強調した。