世界中の投資資産と市場は、ボラティリティと不透明感に覆われた環境下にある。年金基金などの機関投資家は、運用資産の効率的なモニタリングからポートフォリオの最大化のための技術イノベーションの積極活用など、多岐にわたる問題に対処しなければならない。機関投資家は、何に、どう投資すべきか。そのヒントを提供すべく、本誌は2019年6月18日に東京において、「日本投資・運用フォーラム2019」(主催:J-MONEY/AsianInvestor)を開催した。当日の全13講演の概要を紹介する。

日本投資・運用フォーラム2019

GPIFが何を考え、何をしているかよく見てほしい

藤沢久美氏
シンクタンク・ソフィアバンク代表の藤沢久美氏

基調講演に登壇したシンクタンク・ソフィアバンク代表の藤沢久美氏は、海外の資産運用関係者の間では、日本の資産運用業界は世界で最もESG(環境・社会・企業統治)に関するポリシーを持った国の一つとの認識が高まりつつあると指摘する。その原動力となっているのがGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)だ。藤沢氏は、「GPIFは、ESGのインデックスをつくるなど積極的だ。SRI(社会的責任投資)やCSR(企業の社会的責任)は、従来の資産運用業界では亜流の位置付けだった。しかし、現在はメインストリームになっている。アセットオーナーはGPIFが何を考え、何をしているかはよく見ておかなければならない」と語った。

続いて行われたパネルディスカッションでは、多摩大学ルール形成戦略研究所のブラッド・グロッサーマン氏と、三菱UFJ信託銀行のチーフ・ストラテジストの芳賀沼千里氏が登壇。「経済的および地政学的な未来はあなたにとって何を意味するのか」をテーマに議論した。グロッサーマン氏は、「米国では、一部を除き中国にかなり懐疑的になっている。現在、ナノテクノロジーやロボティクス、センサー、AI(人工知能)など14のテクノロジーを対象にした国防関連の法案が議論されているが、根底には中国に新技術が漏れる、盗まれるといった懸念がある。米中は新しい冷戦につながる可能性があり、米国や中国に関するテクノロジー企業は今後、大きな変化に見舞われるだろう」と述べた。

芳賀沼氏は、テクノロジーは重要な分野との認識を示しつつ、次のように答えた。「日本は製造業の国で輸出頼みと長年言われている。ただし過去10年以上の株式市場を見ると、株価が上昇しているのは非製造業だ。『産業の米』半導体が主役の時代に著しく成長したのは、使う側のゲームメーカーだった。今後も新しいテクノロジーが世界の経済・貿易ルールを変えていくのは間違いない。では、誰がそれを使って伸びるのか。サービスや非製造業に多くの機会があるかもしれないし、投資でも大事な視点だと考える」。フォーラムの3番目には、岡山県機械金属企業年金基金の運用執行理事の木口愛友氏が、「これからのCIOに求められるものは?」と題して講演した。木口氏は資産運用業務に30年以上携わり、過去10年間の運用利回りは年率7%以上を挙げている。

木口氏は、「外資系の投資顧問のような運用のプロを目標とするのであれば優秀な人材を引き付けるコミュニケーション力が欠かせない。一方、リソースが限られる組織では社内の人事異動の中で運用の専門人材になり得る人間を見出し、5年以上の下積み経験を積ませる育成力が求められる。自分たちがどちらの組織モデルか固めることが重要だろう」と説明した。