名ばかりのESG(環境・社会・企業統治)対応を企業は意図的に行なう、悪い情報は公表しない、あるいは無意識に公表資料を誇張するなどの傾向があることも否定できない。このESG粉飾は、グリーンウォッシングなどと呼ばれ、少なくない。しかし、投資家がESG投資を行うにあたって、ESG情報が正しいことが必須であり、粉飾ESGを適切に捉える必要がある。今回は企業内で行われるESG粉飾行動で採られる様々な手法のうち、形骸化工作を展開しよう。
『ESG粉飾を斬る! 第3回』では、ESG粉飾工作を4分類に分けて説明した。4つ目の「形骸化工作」は①組織・会計上の工作と②独自の測定方法で都合の良い数字を計測・計算して出す測定工作の2つに分けられる。
下の図表に基づき、前者の詳細から順にみてみよう。
無権限化の例としてまず女性管理職比率がある。分かりやすく、投資家でも調べられる指標であると考えられているが、実質上権限がないポジションを作れば容易に引き上げられる。
また、何時製造のどの省エネ機器と比較するかが、企業の判断に任されていれば、比較対象の虚偽設定が起こる。
何万点もの素材や部品がある場合それぞれの削減貢献量をどう算出するかが企業の判断に任されておれば、点数を増やす複雑化でごまかす工作もありえる。
予算確保、契約交渉開始、契約成立・締結、受注・発注、納品、受領証押印、支払、着工、竣工など、ESGを開示する時期は様々あり、都合の良い時期を選んだり、変更する操作をしたりする。契約から納品まで数年かかる業種も多い。
事業が具体的にどのような成果をもたらしているか把握しづらい評価困難事案のESGについては、それに粉飾工作が容易に入り込む。
【図表】形骸化工作による数々の粉飾ESG
形骸化工作による粉飾ESGの例 | |
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組織、会計上での工作:
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測定工作:
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第2の測定工作については、検査頻度変更は説明不要だろう。検査結果統計操作については、都合の良い数字が出るまで実験・調査をやり続けるという場合がある。計測器の目盛りに細工する、検査書類に架空のデータを記載する、極めて悪質な工作もある。
法令・規則などが定める方法とは異なる品質試験方法を採用する工作が石油精製業であった。検査していないのに検査したと偽装するケースも鉄鋼業であった。
投資先企業の全てでESG評価を実施したと投資信託の目論見書などの書類で記した(米運用会社)が虚偽だったという情報開示違反でSEC(米証券取引委員会)が制裁金を科す事例もあった。
水道光熱費や拠点の敷地面積などだけを入力して自動で概算の排出量を計算できる温室効果ガス排出量を推定する簡易測定方法がある。大企業がそれを採用する場合問題がある。
辰巳憲一
学習院大学名誉教授
大阪大学経済学部、米国ペンシルベニア大学大学院卒業。学習院大学教授、London School of Economics客員研究員、民間会社監査役などを経て現在、学習院大学名誉教授など。投資戦略、ニューテクノロジーと金融・証券市場を中心とした著書・論文多数