名ばかりのESG(環境・社会・企業統治)対応を行うなどを企業は意図的に行う。悪い情報は公表しない、あるいは無意識に公表資料を誇張するなどの傾向があることも否定できない。このESG粉飾は、グリーンウォッシングなどと呼ばれ、少なくない。しかし、投資家がESG投資を行うにあたって、ESG情報が正しいことが必須であり、粉飾ESGを適切に捉える必要がある。今回はESG粉飾行動を複数の企業が結託して採られる原因などを、粉飾決算の手法やESGスコア計測法などに立ち入って展開しよう。

部品の80%までを外部の取引先から調達して製品を製造している業界がある。中小規模企業でも数百以上の協力会社がある。それを利用して、複数企業連携のESG粉飾工作が採りえる。

二重カウント、複数企業共謀、連結決算やサプライチェーン、ESGがらみのM&A(合併・買収)、の4つに分類して順に見て行こう。

二重カウント工作

自社の取引先、サプライチェーン(供給網)や消費者などが排出する炭素の削減に対して、自社が貢献した量を算出、自社の実際の分から差し引いて、排出量がゼロやマイナスであると主張されることがある。

しかし、提供を受けた企業も炭素を削減したと報告することができる場合があり、二重にカウントされている懸念があり、炭素削減が二重勘定になる。炭素削減量として計上できるのは、企業の環境技術を新興国へ輸出する、あるいはそれを支援する事業において、排出削減分を契約上両国で分配した分(2国間クレジット)だけである。

複数企業による共謀工作

架空発注や水増し請求によって、ESG関連の資産をあたかも建築・購入したかのように装える。協力企業の役員等と共謀し、場合によっては多数回に渡って協力会社へ架空工事などを発注したり、水増し請求を行ったりすればよい。

【図表】複数企業連携のESG粉飾工作

工作の概略
①二重カウント:

他企業に省エネ製品や技術を提供して削減した炭素分を自社の削減貢献量とする

②共謀:

ESG関連資産をあたかも建築・購入したかのように装う

③連結決算やサプライチェーン:

連結決算対象やサプライチェーンの範囲に係る粉飾

④ESGがらみのM&A:

ESG改善・達成を目指すために非ESG事業を売却する

出所:筆者作成

連結決算対象やサプライチェーンの範囲に係る粉飾工作

連結決算ルールが未整備だった過去の時代だけでなく、連結決算義務化の後にも課題が残されてきた。現代でも連結範囲を意図的に調整する工作ができるからである。

非連結の多数の特定目的会社(SPC)や投資事業組合(LLP)を利用して巨額の粉飾決算をした例が日米で起こったのを記憶している方は多いだろう。

法人保有の株式を個人に売るという方法で連結外しもされた。都合の悪い取引をどこか別の勘定に付け替えるなどして、サプライチェーン外しができ、ESG粉飾に繋がる恐れがある。また小口取引をどこかに集中するなどのサプライチェーン調整は今後普通に行われるかもしれない。

ESGがらみのM&Aは粉飾の一環

株主などの圧力をかわすため、ブラウン・スピニングと呼ばれる温暖化ガスを多く排出する事業を売却する動きがある。上場企業が非ESG事業を売却してESG改善・達成を目指そうとしても、非上場企業がその買い手となっては結局、温暖化ガスの削減につながらない。

売却先が海外でもグローバルに見れば温暖化ガス削減に変化はない。ESGがらみのM&Aは粉飾に繋がるのである。

辰巳憲一

辰巳憲一
学習院大学名誉教授
大阪大学経済学部、米国ペンシルベニア大学大学院卒業。学習院大学教授、London School of Economics客員研究員、民間会社監査役などを経て現在、学習院大学名誉教授など。投資戦略、ニューテクノロジーと金融・証券市場を中心とした著書・論文多数