名ばかりのESG(環境・社会・企業統治)対応を企業は意図的に行なう、悪い情報は公表しない、あるいは無意識に公表資料を誇張するなどの傾向があることも否定できない。このESG粉飾は、グリーンウォッシングなどと呼ばれ、少なくない。しかし、投資家がESG投資を行うにあたって、ESG情報が正しいことが必須であり、粉飾ESGを適切に捉える必要がある。今回はESG粉飾行動で採られる様々な手法を、企業内で採られる手法に限って展開しよう。

ESGに対応する優良会社を装うイメージ工作

ESGを斬る! 第2回』では、ESGの特徴を突く粉飾、つまり企業のガバナンス機能が弱い、ESGに長期性があるなどの特徴を利用する粉飾工作について展開した。ESGの特徴自体が原因を作り出しており、それが悪用されるのである。

粉飾のネタは満載で、これら以外にも多数ある。粉飾工作が発覚する“場所”で分類すれば、生産工程、会社組織、金融・会計、全社共通などになる。どのような粉飾ESGがどの業種のどの分野に多いか将来的にはデータが整備されるであろうが、以下では、可能な限り、機能別に4つに分類してみよう。

第一に、非ESGが少ない、ESGが多いように見せ、適切にESGに対応する優良会社を装うイメージ工作がある。「製品・事業の内容に直接関係のないグリーンなイメージの容器・包装などを使う企業がある」などもここに含められる。

環境や人権などの観点から企業の経営状況や方針について助言を受けるために導入するにもかかわらず、ESG委員会やサステナビリティ委員会が社内関係者を中心に設置されるのもイメージ工作である。これは後述の形骸化でもある。

【図表】ESG粉飾工作の数々を4分類する

粉飾工作4分類の概要、事例の一例
①イメージ工作:
ESG優良と誤認させる
②隠匿・偽装工作:
ESG対応の製品・生産方法を訴える
③利益背反:
料金を受領して行うESG評価は公正でない恐れがある
④形骸化工作:
詳細は次回

出所:様々な資料から筆者作成

非ESG対応の隠蔽・偽装工作や、利益相反の恐れも

第二に、隠匿・偽装工作がある。製造過程で通常よりも多くのCO2(二酸化炭素)を出すのに、「天然・リサイクル素材で作られている」とよい面だけをアピールするアパレル企業がある。外側はESG対応だが、内側には石油化学製品が使われているのにESGを謳う製品もある。

生産方法が複数ある場合、実際はそうでないのに、より適切にESGに対応している生産方法を採っているように偽装して公表、計上などする生産過程偽装工作もあげられる。

非ESG資産を購入しても、規模を小さくみせる、あるいは存在していないようにする方法も採られる。炭素クレジットにおける幽霊事業のように、(事業は終了して、あるいは元々)存在していないのに存在しているようにする方法もある。他社と共謀すれば、これらの工作はさらに容易になる。

第三に、利益背反がある。GHG(温室効果ガス=Greenhouse Gas)排出量計算上の問題を例にしよう。GHG排出量算出・見える化サービスには、出自が異なる業者間の評価基準に比較的大きな差異があり、業者の特殊性が入り込む恐れがある。企業としてはもっとも基準の甘い業者を採用する傾向がある。業者も、依頼企業から料金をいただいて、排出量計算を厳しくできない恐れがある。

さらに、業者がコンサルも行う場合、監査法人と同じような利益背反が起こる可能性がある。コンサル業務は、利益相反だけでなく、監査の質を損なうという意見がある。

第四に、形骸化工作があり、件数は多く、次回に展開しよう。

辰巳憲一

辰巳憲一
学習院大学名誉教授
大阪大学経済学部、米国ペンシルベニア大学大学院卒業。学習院大学教授、London School of Economics客員研究員、民間会社監査役などを経て現在、学習院大学名誉教授など。投資戦略、ニューテクノロジーと金融・証券市場を中心とした著書・論文多数