日本では、2022年7月の参院選に向けインフレと円安に対する世論の不満と政府への圧力は一層高まっていくと考えられる。しかし理論派の黒田東彦日銀総裁は聞く耳を持たない。一方の米国では、経済のスタグフレーションとバイデン政権のレームダック化がドルを押し下げることになろう。ドル円相場は年末までに120円へ下落するとみる。(記事内容は2022年6月2日時点)

為替市場の関心は、インフレと金融引き締めによる景気悪化懸念

梅本徹
J-MONEY論説委員
梅本 徹

行き過ぎたドル過大評価の修正、日銀による政策変更、米国のスタグフレーション、バイデン政権のレームダック化によって、今後、ドル円相場には下落圧力が強まり、2022年の年末までに120円へ下落すると考えられる。

2021年11月に執筆した拙稿のなかで予想した通り(2022年1月号の本誌に掲載)、ドル円相場は2022年4月下旬に130円超まで上昇した。年初来の主要為替相場を振り返ると、1~2月中極めて安定的に推移した後、3月以降、急激な円独歩安の展開をみせた(図表1)。

【図表1】円独歩安となった2022年初来の主要為替相場

円独歩安となった2022年初来の主要為替相場
資料:Fed

ドル円相場は4月28日に年初来プラス13.6%まで上昇し、本年の最高値を付けている。その背景として、日米間のインフレと金利格差が挙げられる。Fed(米連邦準備制度)が重視するインフレ指標である食品・エネルギーを除く個人消費デフレーターは、2022年2月に前年比5.3%と、1983年4月以来の高い伸びを示した。一方、日銀が重視する生鮮食品を除くCPI(消費者物価指数)は、2022年4月に同2.1%と、2015年3月以来の高い伸びを示したものの米国の伸びには遠く及ばない。

米国におけるインフレの高進を受けて、Fedは2022年3月16日に0.25%の利上げに踏み切り、新型コロナウイルス禍の発生によって2020年3月に導入されたゼロ金利政策を解除した。また、2022年5月4日に0.5%の利上げとともに、6月以降毎月475億ドル、9月以降毎月950億ドルを上限とするQT(量的引き締め)の導入が決定された。

これに対して日銀は、我が国の物価上昇は一時的であり、輸入物価上昇は経済成長を阻害するとして、これまで継続してきたイールドカーブ・コントロール付量的質的緩和の強化策を打ち出した(詳細は後述)。

一方、ユーロ円とポンド円相場は2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻を受けた質への逃避から、3月上旬にそれぞれ年初来マイナス3.9%とマイナス2.5%まで下落した。

しかし、その後は日本と欧英間のインフレと金利格差から、4月21日にユーロ円相場は同プラス7.1%、ポンド円相場は同プラス8.0%の2022年の最高値まで上昇した。2022年4月のユーロ圏と英国のCPIは前年比7.4%と7.8%の上昇となった。

インフレ高進を受けて、ECB(欧州中銀)は3月末にPEPP(パンデミック緊急購入プログラム)を終了、APP(資産購入プラグラム)による資産購入を4月に400億ユーロ、5月に300億ユーロ、6月に200億ユーロへ縮小し、7~9月期に量的緩和を終了予定としている。

また5月23日には、ラガルドECB総裁から7月の利上げと7~9月中のマイナス金利政策の脱却見通しが示された。BOE(英国中銀)は、5月5日までに政策金利を2021年12月以降の4会合連続で引き上げ、1%としている。ただ、為替市場の関心は、インフレと金融引き締めによる景気悪化懸念に既に移っており、2022年3月来の円の独歩安は修正されつつある。

ユーロ円とポンド円相場は、5月12日に年初来プラス2.1%、同プラス0.6%の水準まで下落した。ドル円相場も5月27日に同プラス10.3%の水準まで円安が修正されている(図表1)。

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