経済指標を読み解く 2021年の自殺者数・前年比は2年ぶりマイナスか
11月自殺者数は5カ月連続前年比減少
2020年の自殺者数は、新型コロナウイルス感染拡大による景気の悪化で11年ぶりに悪化した。
しかし、警察庁の自殺統計によると、直近2021年11月暫定値の自殺者数は1541人で前年同月比マイナス18.6%の減少になった。13カ月ぶりに前年比減少と改善した7月以降、5カ月連続して前年比減少となった。
自殺の理由は、健康問題、家庭問題など様々だが、経済生活問題が理由となることも多い。2020年5月を谷とする緩やかな景気回復が徐々にプラスに作用し、雇用調整助成金などの政策効果もあって、2021年は2年ぶりに自殺者数の減少が予想される。
自殺者数の2021年上半期1カ月平均は1837人だった。前年同期の2020年上半期の同1596人に比べてプラス15.0%の増加だったが、前期の2020年下半期の同1917人に比べマイナス4.2%の減少だ。
自殺者数の2021年7~11月分の平均値は1653人。前年同期は1962人だったので、前年同月比はマイナス15.7%の減少だ。
2010年から2019年まで10年連続減少
警察庁「自殺統計」は1978年からデータがある。警察庁の自殺者数は、日本における外国人も含む総人口が対象で、自殺死体認知時点で計上するものだ。一方、さらに遡れるのが、日本における日本人を対象とし、死亡時点で計上する厚生労働省「人口動態統計」の自殺者数のデータである。ただし、厚生労働省のデータは公表が遅く直近では2021年12月7日に、やっと7月分が公表されている。
長期間のデータがある厚生労働省のデータでみると、1953年までの1万人台から上昇し1954年から1960年までの7年間は2万人台だった。ピークは1958年の2万3641人。戦前の価値観を持った人が、急激な時代の変化についていけずに自殺したという説もある。
しかし、1964年の前回の東京オリンピック開催が決まった1959年から減少が始まる。1961年に再び1万人台に低下し、減少基調が続いた。1963年から大阪万博開催年の1970年までの8年間は1万4000人台か1万5000万人台という低水準で推移した時代であった。
第一次石油危機が発生し高度経済成長が終了した1973年前後から自殺者数の増加基調が続き、1977年に2万人台に乗った。
1978年以降、警察庁の自殺者数の推移をみると、1986年をピークに、バブル景気の山である1991年まで減少基調で推移した。
しかし、バブル崩壊により増加基調になり、金融危機の影響が出て1998年に初めて3万人の大台に乗った。その後さらに増加基調が続き、2003年には過去最悪の3万4427人となった。東日本大震災が発生した2011年まで3万人台が続いたため、自殺者数は3万人台というのが当時の常識になってしまった。
2012年に15年ぶりに3万人割れとなり、2019年まで2010年から10年連続減少した。しかし、新型コロナウイルス感染拡大により2020年は増加に転じた。同年上半期に限れば前年比減少でそのままのペースで行けば2020年間で2万人を割ることが期待されたが、年後半の急激な悪化で難しい状況になった。
【図表】2021年の自殺者数 前年同月比(%)推移
2021年は男性12年連続減少、女性は微妙
2021年は11月暫定値まで統計が発表されている。2021年1~11月の累計をみると、男性1万2805人で前年比マイナス1.1%、女性6480人で前年比プラス0.7%、合計で1万9285人前年比マイナス0.5%である。
12月速報値の自殺者が、万一2020年より100人多い1795人でも、2021年の自殺者合計は2万1080人になって2020年の2万1081人を下回る。
コロナ禍で、非正規の雇用が悪化し女性の自殺者が増えたとよく言われる。2020年の自殺者数は2万1081人で、前年比プラス4.5%増だった。男女別にみると、男性の自殺者数は女性の約2倍だったが、男性は11年連続の減少だったのに女性が2年ぶりの増加となったことが、女性の自殺者に焦点が当たった背景になっているようだ。
2021年上半期は男性の自殺者が前年比プラス9.7%に対し、女性は同プラス27.4%と高い伸び率だった。しかし、7月以降は様相が変わった。7~11月の男性の前年比はマイナス12.7%の減少に対し、女性は同マイナス21.1%と前年の反動もあり、女性が大きく減少している。女性の2021年12月分速報値の自殺者数が同年11月の529人に対し、万一増加しても545人までであれば、速報値段階では2021年の女性の自殺者は2年ぶりの減少に転じることになる(後で、増加に転じることが十分考えられるが)。