製造業の回復がコロナ禍の日本経済を下支え

角田 匠(信金中央金庫)
信金中央金庫
地域・中小企業研究所
上席主任研究員
角田 匠

2021年1~3月期の日本経済は、緊急事態宣言が再発令された影響で旅行や外食を中心としたサービス消費が大きく落ち込み、再びマイナス成長を余儀なくされたとみられる。ただ、米景気の回復や新型コロナウイルス禍における世界的なIT(情報通信)関連需要の拡大を背景に輸出は底堅く推移しており、生産活動や設備投資は順調に回復している。

4月1日に公表された日銀短観3月調査をみると、非製造業の業況判断指数(DI)は大企業、中小企業ともマイナスが続き、改善幅も小幅にとどまる一方、大企業製造業のDIはプラス5と前回調査比15ポイント上昇した。中小企業製造業のDIも水準こそマイナスながら同14ポイント改善した。堅調な輸出を背景とした製造業の回復は、緊急事態宣言後の景気の落ち込みを和らげている。

輸出の回復に続き、設備投資にも持ち直しの動き

生産活動の回復を受けて、設備投資にも持ち直しの動きが広がっている。月次の設備投資関連指標である投資財出荷指数(除く輸送機械)は、2020年8月を底に回復に転じ、2021年2月には新型コロナの影響を受ける前の2020年2月の水準近くまで持ち直した(図表)。同指数は設備投資の一致指標であり、2021年1~3月のGDP(国内総生産)ベースの設備投資は2四半期連続の前期比プラスとなる公算が大きい。

【図表】投資財出荷指数(除く輸送機械)と実質設備投資

図表
(出所)内閣府

先行きについても設備投資は回復基調を維持する見通しである。日銀短観3月調査によると、2021年度の設備投資計画は全規模全産業ベースで前年度比0.5%増と見込まれている。3月調査(当該年度最初の調査)は計画が固まっていないなどの理由で通常は前年度比マイナスでスタートするが、今回の調査では初めてのプラス計画となった。

コロナ禍で落ち込んだ2020年度の反動といった側面もあるが、リーマンショックで大幅に減少した翌年度でさえもマイナスからのスタートだった。先進国を中心に新型コロナのワクチン接種が進み始めたことで、先行きが見通せなかった昨年春に比べて企業の不安感は後退している。

リスク要因は感染再拡大と半導体の供給不足

ただ、業種別の設備投資計画をみると、製造業が前年度比3.0%増と回復を見込む一方、新型コロナの感染拡大の影響が大きい非製造業は同1.0%減と慎重な投資スタンスを崩していない。ワクチンの調達が難航している日本では、今後も感染一服と再拡大を繰り返す可能性が高く、非製造業の設備投資の回復が大きく遅れるリスクがある。

回復の動きが広がる製造業についても、半導体不足という供給制約の問題が浮上している。自動車を中心とした短期的な生産調整にとどまり、設備投資への影響は軽微にとどまるとみているが、先行き不安から投資計画が先送りされる可能性は排除できない。ワクチン接種の遅れから、今年も個人消費の本格回復は見込めないだけに、設備投資の回復が進むかどうかが、コロナ禍からの景気回復のカギを握るといえよう。