2022-2023年の世界的な利上げを経て、グローバル金融市場は再び金利のある世界に突入しました。この間に例えば米国では、政策金利が0.25%から5.50%に引き上げられました。現在は利下げ局面となっていますが、政策金利は3.75%(2025年12月末時点)と依然として高い水準にあります。このように政策金利が比較的高いサイクルにおいて、グローバル債券運用はどのようにあるべきでしょうか。【さらに知りたい勘どころ】シリーズの最後に、金武伸治さんに伺っていきます。

「グローバル債券運用」といっても間口が広いです。

金武 そうですよね。今回は、以下の投資対象ごとに考えたいと思います。

■ 海外国債(ヘッジ付)
■ 海外クレジット債(ヘッジ付)
■ 国内債券
■ 為替

海外国債には価格上昇の余地

長期的な視点での国債投資の主要な収益源泉はキャリー(債券利回り)です。より厳密にはヘッジコストを控除し、さらにロールダウン効果を合算した「ヘッジコスト控除後キャリー+ロールダウン」(以後、キャリーとはヘッジコスト控除後債券利回りを意味)となります。しかし中期的なサイクルにおいては、キャリー+ロールダウンの寄与が高まる局面と低下する局面が存在します。

まずキャリーは、ヘッジコストの高さに依存します。つまり債券利回りに対してヘッジコストがどの程度高いかによって、キャリーの大きさが決まってきます。

次にロールダウンは、イールドカーブの傾きに依存します。ロールダウン効果とは【図表1】の通り、イールドカーブが不変の場合においても、時間の経過(残存年数の短期化)とともに債券利回りが低下することに伴って債券価格が上昇することです。イールドカーブがどの程度急勾配か、言い換えると時間の経過とともに債券利回りがどの程度低下するかによって、ロールダウンの大きさが決まってきます。

【図表1】ロールダウン効果(※イメージ)
【図表1】ロールダウン効果(※イメージ)
出所:ラッセル・インベストメント

このため、政策金利が相対的に高い局面では、ヘッジコストが高まる傾向と、イールドカーブがフラットになる傾向によって、キャリー+ロールダウンの寄与が低くなる傾向にあります。

【図表2】は、現在(2025年12月末)と10年前(2015年12月末)の米国国債イールドカーブです。政策金利が異なることから、債券利回り(≒長期金利)、ヘッジコスト(≒短期金利)、イールドカーブの傾き(≒長短金利差)に違いが見られます。

【図表2】米国国債イールドカーブ

【図表2】米国国債イールドカーブ

2015年12月 2025年12月
政策金利 0.50% 3.75%
ヘッジコスト 0.99% 3.11%
長期金利
(10年)
2.27% 4.17%
長短金利差
(10年-1年)
1.67% 0.69%

出所:Bloombergのデータを基にラッセル・インベストメント作成

10年前と大きく異なる収益源泉

ではこのようなイールドカーブの形状の変化が、収益源泉にどのような変化を生み出すのでしょうか。

金武 【図表3】をご覧ください。これは、主要国国債の収益源泉について、債券利回り、ロールダウン、ヘッジコストに要因分解したものです。

10年前はヘッジコストが低く、ヘッジコスト控除後でも一定程度のキャリーが存在していました。またロールダウンも一定程度存在していたことから、主要収益源泉はキャリー+ロールダウンであると言えました。

一方で現在はヘッジコストが高く、ヘッジコスト控除後では十分なキャリーがありません。またロールダウンも限定的であり、キャリー+ロールダウンが主要収益源泉とは言いにくい状態です。

【図表3】主要国国債の収益源泉の要因分解
2015年12月末(10年前)

2025年12月末(現在)


米国:Bloomberg米国国債インデックス、欧州:Bloomberg欧州国債インデックス、英国:Bloomberg英国国債インデックス、日本:Bloomberg日本債券インデックス
出所:Bloombergのデータを基にラッセル・インベストメント作成

債券利回りの絶対水準が高くなった

そうすると、現在の主要収益源泉は何になるのでしょうか。

金武 ヒントはグラフの縦軸目盛にあります。つまり債券利回りの絶対水準の高さです。現在は金利水準が高いことから、金利低下余地が過去と比較しても高いため、中期的な主要収益源泉は、債券価格の上昇余地であると言えるでしょう。

【図表4】は、グローバル国債(除く日本)の年度リターンを要因分解したものです。先進国国債の場合、信用リスクが低く、100(パー)で発行されて100(パー)で償還されることが多いですから、長期的に価格リターンはゼロに収束すると考えられます。したがって金利上昇に伴う2021-2022年度の大きなマイナス価格リターンは、中期的に金利低下に伴うプラス価格リターンとして返ってくる可能性があります。

【図表4】グローバル国債(除く日本)の年度リターンの要因分解
【図表4】グローバル国債(除く日本)の年度リターンの要因分解
グローバル国債:Bloombergグローバル国債インデックス(除く日本、円ヘッジ)
出所:Bloombergのデータを基にラッセル・インベストメント作成

クレジットは信用リスクに留意を

海外クレジット債(ヘッジ付き)の場合は、どのように考えればよいですか。

金武 ここでは、信用リスクに起因する上乗せ金利(クレジット・スプレッド)が存在することから、主要収益源泉として債券利回りを挙げても良いと考えます。ただ、政策金利が相対的に高いサイクルでは注意が必要です。それはクレジット債の利回り構造にあります。

【図表5】は、米国BBB格社債(5年)の利回りを国債利回り部分とクレジット・スプレッド部分に要因分解したものです。現在(2025年12月末)と10年前(2015年12月末)で比較しています。

【図表5】米国BBB格社債(5年)の債券利回りの要因分解
【図表5】米国BBB格社債(5年)の債券利回りの要因分解
出所:Bloombergのデータを基にラッセル・インベストメント作成

10年前は国債利回り部分が低く、それに伴い債券利回りが低かったので、企業の資金調達コスト(負債コスト)も相対的に低いことを意味していました。一方でクレジット・スプレッドは一定程度存在していたので、クレジット・リスクを負うことへの対価も一定程度あったわけです。

しかし現在は国債利回り部分が高い。このため資金調達コストが高く、その大部分は、国債利回りの高さに起因しています。その一方、クレジット・スプレッドは限定的。したがってクレジット・リスクを負うことへの対価は十分でない可能性があります。

加えて政策金利が相対的に高いということは、金融政策が「引き締め的」になっていると言えます。景気について下方圧力がかかりやすいわけで、信用リスクを負うことには相対的に慎重になりたいサイクルでもあります。

国内債券には「利回り享受」の役割も

国内債券はどうでしょう。

金武 再び【図表3】を見てください。国内債券は海外国債対比でキャリー+ロールダウンが高いことがわかります。このため海外国債に価格リターンの享受という役割を設定する一方で、国内債券には利回りの享受という役割を充てることができます。

本来の債券運用の主な役割は、利回りの享受とリスク資産との分散(景気後退時の金利低下に伴う債券価格の上昇)の2つです。しかし現在のように金融政策の方向性が国内と海外で異なる局面においては、利回りの享受を国内債券に求め、リスク資産との分散を海外国債に求めるというような役割分担が考えられます。

また、国内債券アクティブを選定する際の新たなポイントを指摘しておきます。それは分析視点の変化です。従来は「日銀トレード」に代表されるような国内債券市場特有な視点が重要でした。しかし、国内金融政策の正常化および国内金利の上昇により、今後は「グローバル金利市場の一員としての国内債券市場」という視点が重要となります。

為替ヘッジの動的管理が多様化

最後に為替について伺います。

金武 ヘッジコストが相対的に高い局面においては、為替ヘッジも効率的に行いたいですよね。例えば、円高相場のようにヘッジが必要な局面でヘッジ比率を高めながら、円安相場やレンジ相場のようにヘッジが不要な局面ではヘッジ比率を下げる動的管理も選択肢のひとつだと考えます。近年では、為替の動的管理手法についても、為替オープンに適したものから為替ヘッジに適したものまで多様化しています。またマネージャーごとの工夫も様々に向上しています。

結果として、静的管理を選択することもひとつの選択肢だと思います。しかし、投資家のガバナンスが重要とされる昨今、管理手法に関する情報収集や比較検討などを行うことは非常に大事です。

最後に、これまでの議論を踏まえて【図表6】に金融政策サイクルに応じた債券戦略構成について、ひとつの考え方をまとめました。

【図表6】金融政策サイクルと債券戦略構成案の例
出所:ラッセル・インベストメント
  • 国債投資の長期的な収益源泉はキャリー(ヘッジコスト控除後債券利回り)とロールダウン効果(時間の経過に伴う債券価格の上昇)
  • しかし政策金利が高い局面では「キャリー+ロールダウン」の寄与は低い傾向
  • 金利水準が高い現在、中期的な収益源泉は債券価格の上昇余地
  • クレジット債券は国債に対するスプレッドが限定的。景気に下方圧力がかかりやすく、信用リスクには慎重であるべき
  • 国内債券は海外国債に比べて「キャリー+ロールダウン」が高い。利回りの享受を国内債券に求め、リスク資産との分散効果を海外国債に求めるのも有用
  • 為替ヘッジも効率的に行いたい。近年は為替の動的管理の手法が多様化

次回から新シリーズ【プライベートアセット再入門】

■【さらに知りたい勘どころ】シリーズは今回で終了し、次回からは新たに【プライベートアセット再入門】が始まります。筆者は金武さんと同じラッセル・インベストメントの藤井春登(ふじい・はると)さんです。第1回は「情報格差こそ収益の源泉」(仮)。5月29日(金)に公開予定です
■このシリーズは原則的に毎月1回、月末の最終営業日をめどにお届けします
■質問や要望は下記フォームからお願いします。今後の連載に生かします

金武伸治

【解説】金武伸治
ラッセル・インベストメント
執行役員トータル・ポートフォリオ・ソリューション本部長
エグゼクティブコンサルタント

1995年、野村総合研究所入社。クオンツ・アナリストとしてスタート。2000年、バークレイズ・グローバル・インベスターズ(BGI)でグローバル債券ポートフォリオ・マネージャー。2009年、BGIと経営統合したブラックロックでグローバル債券ストラテジスト、債券戦略部長。2015年、格付投資情報センター(R&I)で資産運用コンサルタント。2022年、ラッセル・インベストメントで資産運用コンサルタント
慶應義塾大学理工学部卒業 早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了 日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)

阿部圭介

【構成・執筆】阿部圭介
J-MONEY論説委員
1980年、朝日新聞社に入社。金沢支局で記者生活をスタート。整理部記者として紙面編集を担当。経済部記者として金融、証券、情報通信などを取材。経営企画室長、大阪本社編集局長、朝日ビルディング社長を経て2022年3月まで朝日新聞企業年金基金常務理事。2022年4月から現職