緊急事態宣言の延長で個人消費は再び減速

角田 匠(信金中央金庫)
信金中央金庫
地域・中小企業研究所
上席主任研究員
角田 匠

緊急事態宣言の再発令による活動制限が個人消費の下押し要因となっている。2021年1月8日に発令された2回目の緊急事態宣言は、飲食店の時短営業を中心とした限定的な措置であったが、4月25日に発令された3回目の宣言は、百貨店などへの休業要請を含むやや厳しい内容となっている。4月の家計調査によると、実質個人消費は前年同月に比べて13.0%増えたが、1回目の緊急事態宣言が発令された2020年からの反動増が主因である。GDP(国内総生産)統計の概念に近い「住居等を除く実質消費支出(季節調整値)」の動きを見ると、4月は前月比0.6%減と減速しており、緊急事態宣言の延長を受けて5月以降はさらに落ち込んでいるとみられる。

ワクチン効果で米国の新規感染者数は大幅減

個人消費のカギを握るのは、言うまでもなく新型コロナウイルスの感染状況であり、ワクチン接種の進展によって感染が抑制されるかどうかである。ワクチンによる感染抑制効果について、ワクチン接種が先行している米国の状況が参考になる。バイデン米大統領は「政権発足から100日以内に2億回」との目標を掲げ、ワクチン接種を推進してきた。実際の接種回数は目標を上回るペースで進み、2021年6月6日には3億回を突破した。人口100人当たりでみたワクチン延べ接種回数は90回に達している。

感染状況との関係をみると、ワクチン接種回数が60回を超えたあたりから新規感染者数が急速に減少している。集団免疫を獲得するためには人口の60~70%が免疫を持つ必要があるとされており、2回接種が必要なワクチンの場合、単純計算で120~140回が収束ラインとなるが、60回(人口の3割程度)を超えたあたりからワクチン効果が顕在化し始めている(図表)。

【図表】米国における新型コロナの新規感染者数とワクチン接種回数

図表
(出所)オックスフォード大学資料

ワクチン接種による感染抑制効果は今秋以降に

日本国内では、2021年5月の連休明けからワクチン接種が本格化してきたが、同月末時点の100人当たりワクチン延べ接種回数は10.5回と出遅れている。ちなみに、米国では100人当たり接種回数が10回を超えてから感染抑制効果が表れる60回に達するまでに72日、比較的順調に進んでいるドイツでも82日を要している。日本のワクチン接種が米国と同じペースで進むと、100人当たり接種回数が60回に達するのは8月11日、ドイツと同じペースだと8月21日となる。もっとも薬局などでも接種が可能な米国と同じペースで接種が進むとは考えにくく、日本国内でワクチン効果が表れてくるのは9月以降となろう。

当面はワクチン接種による感染抑制効果が期待できないため、3回目の緊急事態宣言(6月20日まで)が予定通り解除されれば再び感染が拡大する可能性が高い。東京五輪・パラリンピックが開催された場合には、人流の増加でさらなる感染拡大のリスクが高まろう。いずれにしても、ワクチンが広く普及するまでは新型コロナの感染再拡大のリスクは払拭できない。ワクチン接種が進展した米国では市中に人出が戻り個人消費が上向いているが、日本における消費活動の正常化は米国に比べて6~9カ月程度遅れると予想される。