「経済損失」と「特需」。業種による大きなばらつき

木下 康司
日本政策投資銀行
代表取締役会長
木下 康司

日本政策投資銀行(DBJ)が新型コロナウイルスの影響を感知できる独自の窓は、危機対応融資、設備投資調査、特定投資業務の3つだ。

2020年3月からDBJは政府に指定され、危機対応融資を開始した。この制度はコロナの影響を受けた大企業中堅企業に、国からの財投資金を原資に融資するものである。受け付け開始以来7月末時点で約3兆円の相談が寄せられ、約1.9兆円の融資を実行した。リーマン・ショック時には1年半かかり3兆円の融資額に達したことを考えれば、今回の衝撃がいかに速く大きく広がったか実感できる。

今回のショックの特徴は、第1に、移動制約のために、ホテル、観光、飲食などへの影響が特に甚大で、これまでのところ大企業より中小企業や地方への影響がより深刻であることだ。主要旅行業者の4月の旅行取扱高は実額で前年の0%から5%になった。また音楽、スポーツ、祭りといった各種イベント自粛による経済損失額は当行調べで約3兆円と推計される。第2に、ゲーム、医療用品、宅配などに代表されるコロナ特需の存在が示すように業種によるばらつきが大きい。これらの動きは、遠隔・非接触社会への変容を予期させる。また、この変化はコロナ前からの物流、通信、電子デバイスといった産業の需要トレンドをさらに加速させるだろう。第3に、リーマン・ショック時と異なり民間金融機関が正常に機能していることである。2020年3月から7月の全国銀行貸出金の増加は22.4兆円に達する。社債・CP(コマーシャルペーパー)市場も正常だ。「これまでのところ」大企業の苦境がさほど表面化しないのは、日銀の積極的な姿勢にも支えられ、その手元流動性が当面は確保されているからだろう。

資本性資金供給の「触媒・呼び水」となる

次に、DBJが8月に公表した設備投資調査から見えるコロナの影響は、①2020年度の大企業の設備投資は計画ベースでは3.9%の増加となったが、着地では下方修正されるので9年ぶりのマイナスだろう。特にその影響は運輸、不動産、小売業といった非製造業で大きい。②一方で、製造業では化学、非鉄、電気機械などで半導体や電子・電池材料といった自動車の次世代技術開発やデジタル化向け投資が堅調に増加しそうだ。

最後に、特定投資業務から見た影響である。DBJは2015年から法律に基づき特定投資業務を実施している。これは、日本では融資の出し手は多いが株や劣後性資金の出し手の少なさが成長力や生産性向上のネックという認識の下、DBJと国が資金を出し合い、いわば志の高い投資にリスクマネーを出すことで民間からもリスクマネーを呼びこもうとするもの。コロナ関連経済対策でも、回復・成長への資本性資金供給のための「コロナリバイバルファンド」がDBJに設けられた。

DBJの役割は、「リスクシェア」により「触媒・呼び水」となること、つまり、①民間企業・金融機関との共同投資に代表される、民間リスクマネーの「量的」補完、②民間金融機関がシニアローンを出しやすくするためにDBJがメザニンを供給する「質的」補完、③政策的な重点目標への資金誘導。ちなみに、特定投資は企業の「生産性や収益性」向上などを通じた企業競争力強化や地域活性化が目的だ。DBJがこのファンドで想定する、ほんの一例を挙げれば、コロナ後のサプライチェーン再構築に向け企業同士が連携を進めるケース、ホテル・旅館が観光立国再興に向け新たな需要を取り込むべくリノベーション投資を実施するケース、企業がコロナ後の働き方改革を目的にオペレーションを分散するための投資などなど。従って、このような資本性資金が活かされるためには、政府による産業活性化の方向性と規律付けの方策の提示が有効だろう。

また、DBJとの投資先への共同投資やDBJからの投資持ち分の譲渡を通じて、年金などの機関投資家に安定的な運用先を提供することも重要な役割だ。コロナ後の低金利が長期化するならば投資家にとって良質な運用対象はますます重要性を増す。この面からも、コロナ後の特定投資実行に当たっては、企業の回復力と成長性を見極める能力をDBJは厳しく試されることになる。

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