長年にわたって企業年金基金の運用業務に携わってきた真砂二郎氏が、年金運用をはじめ金融マーケットにおける種々の話題を独自の目線でつれづれなるままに書く「真砂二郎の年金運用日記」。今回は、自らの運用経験を基に、オルタナティブ投資の導入についてアドバイスを行います

伝統的資産だけではプラス確保が困難に

近年、年金資産運用の対象資産として、日本の株式、債券、および外国の株式、債券の伝統的4資産に加えて、これらの代替投資、いわゆる「オルタナティブ投資」が増えてきている。とはいえ、まだまだオルタナティブ運用の活用は十分とは言えない。

2022年度は、日本の債券利回りはほとんどゼロ、日本株式は年間を通じて狭い変動を繰り返しおおむね横ばいで推移、米国株式、債券はドルベースではともにマイナスリターンであり、円安が外国資産のマイナスリターンを和らげているというのが実態であった。伝統的資産の運用だけだと、年金資産全体でプラスの実績を確保するのは困難だったことは明白である。

2023年度は、4月以降、日本株も海外株も上昇基調となっているものの、年度を通じて一方向の上昇基調を想定するのは困難であるし、バリュー的に既に高い水準にきていることからも、市場性の高い株式に頼りきりになるのはよくないだろう。そこで、ボラティリティの安定したオルタナティブ投資の割合を増やしていくことを検討するべきと言える。

しかしながら、オルタナティブ投資を増やすと言っても、その投資対象は多岐にわたり、さらにそれぞれの投資については相応の深い知識と経験を経たマネージャーでないと踏み込みづらいのが実態である。したがって、本稿ではオルタナティブ資産の詳しい説明は行わないものの、私が実際に投資を行ってきたいくつかの投資対象の概略を紹介し、導入に向けてどのような検討が必要かを示したい。

ちなみに、デリバティブは株式や債券、通貨、金利などを原資産とした金融派生商品であり、原資産の価格に依存して価格が決定されるものであるので、ここではオルタナティブ投資から省くことにする。

①不動産

オルタナティブ投資案件として一番多いのが、不動産投資である。ただし不動産というのは極めてその対象が広範囲であり、その対象によって運用成績も異なってくる。

まず投資対象不動産の所在がどこなのかが重要だ。米州、欧州あるいはアジア諸国・・・・・・もちろん日本も対象となるが、国単位はもちろんのこと、地域の詳細な絞り込みも重要である。たとえば英国のロンドンであっても、対象不動産の所在によって大きく価値に差が出てくるからだ。

加えて、その対象がどういった特性を持つのかに注目したい。ホテル、住宅施設、商業施設、あるいは物流施設なのか。その上で、優良物件は価格変動への耐性も強くかつテナント料も高いため、価値の揺るがない優良物件の選別が重要である。

さらに、同じ物件に対する不動産投資でも、不動産に対するファイナンスは長期にわたり、そのどこに投資機会を見出すかもポイントになるだろう。どの段階で参入するのか、あるいは資本部分・貸付資金のどちらに出資するかによってもリスクは異なる。その選択にはその選別眼を持ったプロの不動産ファンドを見いだすことが第一である。

②インフラ

インフラ投資は、発送電設備や交通施設、学校など、インフラストラクチャーを投資対象とする。

最近は、環境問題に絡み、太陽光発電や風力発電をはじめとした自然エネルギー関連施設への投資が増えてきている。また、そうした自然エネルギーの供給には不安定性が課題としてあるため、その改善投資として、蓄電設備への大規模投資も出てきている。

これらのインフラ投資も、投資期間が長くなるので、どの段階で、かつどのようなリスクを負って投資参入するのかの判断は、不動産への投資と同様である。

③クレジット・ローン

金融機関による融資が及ばない領域への補完的な資金提供として、企業の一部資産を切り出してそれを担保として融資を行ったり、金融機関の融資審査に代わるクレジットスコアを開発して様々な貸付先を掘り起こしたりする、クレジット・ローン投資もオルタナティブ投資の手法として注目を高めている。

特に、富裕層を顧客に抱えているファンドは、短期的な資金ニーズに対しても比較的高い利回りを獲得している。

④プライベート・エクイティ

プライベート・エクイティ(PE)は、未公開株式を取得してその企業価値を高めてから売却を行う投資手法だ。

PE投資においては、未公開企業の発掘および成長支援能力の高いファンドを見出すのが肝要である。この分野は外資系が圧倒的に強かったが、現在は日系のファンドも徐々に活躍の場を広げつつある。

日本では、PEの導入時のイメージは悪かったものの、もともと日本人投資家が苦手とすることの多いリスクマネーの供給のためには、健全な発展が望まれる分野である。

⑤その他のオルタナティブ投資

メジャーな投資対象ではないが、生命保険契約を流動化した生命保険戦略もある。生命保険会社や保険代理店に対して、将来の生命保険料を担保として事業資金を貸し出すビジネスである。パンデミックなど、保険金の支払いが生じ得るイベントの発生がリスクとなるが、おおむね安定した運用収益を得られる投資対象とみられている。

森林投資は、森林を取得してその運営を行う投資だ。木材の販売により収益を目指すものであり、中長期的な樹木の成長が収益源泉となる。環境保全や脱炭素などESG(環境・社会・企業統治)にも貢献する投資でもある。ただし、近年、投資先の森林が気候変動の影響を受けて山火事になることもあり、ここでも分散投資は欠かせない。

このほか、マルチアセットとして様々な投資対象を複合的に組み合わせたり、デリバティブを組入れてリスクの分散を図るなどの工夫をしたファンドもある。

リスクマネー供給を通じた日本経済の活性化にも

実際に、前述のような種々のオルタナティブ資産を運用してきて、おおむねの利回りの目線としては、中心ゾーンが6%~8%程度だった印象だ。もちろん価格変動や為替変動要因などが加わるが、これらの変動を長期目線で平均化して考えれば、こうした安定的な運用収益を確保しうるものとなっていると考えている。

ただ、ここまで見てきたように、一口にオルタナティブ投資と言ってもその商品性はもちろん、収益率やリスク水準、リスクの種類はさまざまである。まずは自らのポートフォリオ全体を分析して、どのようなオルタナティブ資産を組み入れるのが良いのかを、事前に十分に吟味することが重要である。

そのためには、選択したオルタナティブ資産を組み入れた場合、ポートフォリオ中の各資産間の相関係数がどうなるかを算出し、全体の期待収益率とリスク水準がどのようなバランスとなるのか、十分なシミュレーションを基に把握しておく必要がある。

企業年金基金の役割としては、オルタナティブ投資を通じてより幅広い分野にリスクマネーを提供することにより「日本経済の活性化を図る」ことにも資することとなる。種々の顧客ニーズに応じたオルタナティブ商品を提供する資産運用ファームが増加することを強く望む。