2021年後半から貿易赤字が急拡大

角田 匠(信金中央金庫)
信金中央金庫
地域・中小企業研究所
上席主任研究員
角田 匠

貿易赤字の拡大が続いている。

財務省が発表した2022年5月の貿易統計によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2兆3858億円の赤字だった。赤字額は2014年1月の2兆7951円に次いで2番目の大きさである。

1月や5月は工場稼働日数が少なく、輸出金額の水準が低くなるため、貿易収支の赤字が膨らみやすいといった事情もあるが、休日要因などを調整した季節調整値でみても、2022年5月の貿易赤字は1兆9314億円と大きい。

ちなみに、2022年1~5月の貿易収支の合計を年率に換算すると15兆3704億円の赤字となる。暦年ベースで過去最大の貿易赤字を記録したのは2014年の12.8兆円で、今年はその赤字額を上回る可能性が高い。

原油価格の高騰で燃料輸入額が大幅増

貿易収支の赤字が拡大している最大の要因は、原油価格の高騰である。代表的な原油指標であるニューヨーク市場のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物価格をみると、2022年は1バレル76ドルでスタートし、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、一時1バレル120ドルを突破した。

足元では世界的な景気減速懸念を受けて1バレル100ドル前後へ下落しているが、なお高値圏での推移が続いている。

日本における原油の入着価格も既に1バレル100ドルを上回り、円安の影響も加わって輸入価格は大幅に上昇している。2022年4~6月期の鉱物性燃料の輸入額は7.9兆円に膨らみ、前年同期比では4.5兆円増加する見込みである(図表)。

【図表】貿易収支の前年同期差と品目別増減額
貿易収支の前年同期差と品目別増減額
※輸入金額をマイナス表示としたため、輸入の増加は下向きの棒グラフとなる
※直近の2022年4~6月期は4~5月実績に当研究所による6月予測値を加算して算出
出所:財務省「貿易統計」

仮に、年内の為替レートを1ドル135円、原油価格とLNG(液化天然ガス)の価格を足元の水準で横ばいとすると、2022年の原油輸入額は前年比で6.2兆円の増加、LNGは同3.8兆円の増加となる。

LPG(液化石油ガス)や石炭などを含めた鉱物性燃料全体の輸入額は、2021年の17兆円から2022年には15兆円増の32兆円に達すると試算される。

年10兆円を超える貿易赤字が続く可能性も

供給制約の影響で自動車の輸出が停滞していることも貿易赤字拡大の要因である。2022年1~5月の輸送用機器の輸出額は前年同期比0.6%増とプラスを維持したものの、これは円安に伴う輸出価格の上昇によるものである。

輸送用機器のうち数量が公表されている自動車の輸出台数は前年同期比12%減、コロナ前の2019年の同時期に比べて24%少ない水準に落ち込んでいる。半導体不足を中心とした供給制約が解消される兆しは見えず、当面も数量ベースの自動車輸出は低迷しよう。

コロナ禍前の輸送用機器の輸出額は年18兆円台で安定していたが、2022年は16兆円程度まで落ち込む見通しである。通常の操業体制に戻ったとしても燃料輸入の増加額をカバーできるものではないが、供給制約に起因する自動車輸出の停滞も貿易赤字の拡大要因の1つである。

2023年には、世界経済の減速を背景に原油価格が反落し、供給制約の緩和を受けて自動車輸出が回復に向かうことで、日本の貿易赤字は縮小に転じると想定している。

ただ、ウクライナ紛争の終息は見通せない上、世界経済の減速で輸出全体が下振れするリスクもある。日本の貿易赤字は2022年に14兆円まで拡大した後、縮小に向かうと予測しているが、2023年も10兆円を超える赤字が続く可能性がある。