2022年度上期の貿易赤字は11兆円

角田 匠(信金中央金庫)
信金中央金庫
地域・中小企業研究所
上席主任研究員
角田 匠

輸出から輸入を差し引いた貿易収支の赤字額が膨らんでいる。2022年度上期(4~9月期)の貿易赤字は11兆181億円と半期ベースで過去最大の赤字幅を記録した。2021年度の上期が0.5兆円の赤字、同年度下期が4.9兆円の赤字だったことと比較すると足元の赤字額は極めて大きい。

営業日数要因などを考慮した月次の季節調整値でみても、2022年に入ってからの貿易赤字の拡大ペースの速さがみてとれる。2021年後半の貿易収支は月平均で3800億円程度の赤字で推移していたが、2022年2月には赤字額が1兆円に達し、7月からは2兆円を超える赤字が続いている。

鉱物性燃料の輸入増が月2兆円の貿易収支の悪化要因

貿易赤字が拡大している最大の要因は燃料輸入額の増加である。日本で使われる原油や液化天然ガス(LNG)は海外からの輸入に大きく依存しており、新型コロナウイルスの感染が拡大する前の2019年においても、鉱物性燃料の貿易収支は年間で15.5兆円の赤字、月次では1.2~1.5兆円程度の赤字と巨額だった。

2020年には原油価格の一時的下落などで燃料輸入額が縮小したものの、原油価格の上昇が加速した2021年後半から鉱物性燃料の輸入額は一段と増加した。2022年に入ると、ロシアによるウクライナ侵攻による原油市況の高騰の影響も加わった。鉱物性燃料の貿易赤字は月平均で2兆円近くまで膨らみ、2022年6月以降は3兆円前後の赤字へ拡大している(図表)。

【図表】月次ベースの鉱物性燃料と全体の貿易収支(季節調整値)
月次ベースの鉱物性燃料と全体の貿易収支(季節調整値)
※全体の貿易収支は財務省、鉱物性燃料は当研究所による季節調整値
出所:財務省「貿易統計」

コロナ前の2019年との比較では、鉱物性燃料の貿易赤字は1か月当たり約2兆円増加している。足元の貿易赤字の増加額とほぼ一致しており、鉱物性燃料の輸入額の増加だけで貿易赤字の拡大を説明できることになる。

円安是正と原油価格の下落で燃料輸入額は減少へ

もっとも、鉱物性燃料の輸入増加額の大部分はドル建て価格の上昇と円安によるものである。2019年の原油入着価格は1バレル66ドル、換算レートは1ドル109円であったが、直近6か月(2022年5~10月)の入着価格は1バレル111ドル、換算レートは1ドル136円となっている。

この先、円安の是正が進み、世界経済の減速で原油価格がもう一段下落すれば、鉱物性燃料の貿易赤字は大幅に縮小する可能性がある。ちなみに、原油入着価格が1バレル90ドル、換算レートが1ドル130円となった場合、1か月当たりの鉱物性燃料の貿易赤字は足元の3兆円から2兆円程度まで縮小すると試算される。

輸出減速で貿易収支の改善幅は限定的か

2023年は鉱物性燃料の輸入額の減少を主因に、貿易収支全体でも改善に向かうと予想している。足元で年4兆円を超える赤字となっている医薬品の貿易収支の改善も寄与すると見込んでいる。ワクチン輸入の増加で医薬品の貿易赤字は2019年の2.4兆円から大きく膨らんでいたが、ワクチン接種が峠を越えたことで、この先は医薬品の輸入の増加に歯止めがかかろう。

ただ、世界経済の減速を受けて素材や機械類の輸出が落ち込む可能性がある。半導体景気循環(シリコンサイクル)も下降局面に入っており、電子部品の輸出にも下押し圧力がかかる。供給制約の緩和を受けて、自動車輸出が上向いてくると予想しているが、輸出全体でみると減速は避けられない。

鉱物性燃料の収支改善を主因に、2023年の貿易赤字は縮小傾向で推移する見通しだが、世界経済の動向次第では月平均で1.5兆円程度の高水準の貿易赤字が続く可能性も小さくないと予想している。