新型コロナウイルスから命と社会を守るため無理を押してテレワークを進めている中、少し気が早いかもしれないがこの事態の収束後に来るべき社会を見据え、テレワークはどうあるべきか今から頭の体操をしておくことも有意義だろうと思う。

イノベーティブな働き方で生産性の向上を図る

この重苦しい状況から解放された後、何のためにテレワークをするのか。無駄な通勤時間から解放され、適正なワークライフバランスを回復するためといった答えが返ってくるのであろうが、それが最終的に目指すべきものだろうか。

稲垣 光隆
公益財団法人 金融情報システムセンター
理事長
稲垣 光隆

もちろん、職員の福利厚生の増進自体は意味あることだが、企業などにとってそれが主たる目的ではありえない。テレワークによって職員の生産性を向上させ、作り出す付加価値を増やすことが肝心であり、それがひいては少子高齢化が進む中ある程度の経済成長率を確保するという社会全体の課題の解決につながるのだと考える。

と言うと、「だから、ちゃんとみんな職場に顔をそろえて仕事しなくちゃ」という昭和おじさんの声が聞こえてきそうだが、期せずして、テレワークをより多くの人が経験した今、もはや単純に過去に戻ることはできまい。いや、コロナは単に事態を加速させたにすぎず、20世紀の製造業中心の産業構造から転換しつつある中、適正なワークライフバランスの回復を通してイノベーティブな働き方を実現し、生産性の向上を図ることこそ時代が求めるものである。

アフターコロナにおいては、生産性を上げる観点からテレワークを使いこなすことが求められており、リアルとテレワークをうまく組み合わせた「ハイブリッド型」の構造をいかに作っていくかが問われるであろう。では、どのくらいの割合の「ハイブリッド型」が適正なのであろうか。答えになってないが、業種、地理的条件、労働者個人の能力や性格などで正解は様々だろう。

そもそも、エッセンシャルワーカーの皆さんは、このコロナ禍の中で大変ご苦労されているが、テレワークの余地は少ないと思われる。他方、営業などの現場については、関係者の慣れと理解によりその可能性は変わってくるであろう。結局のところ、具体的状況を踏まえて、生産性を高めるため、どのようにテレワークを入れていくか判断するしかないが、その際、古い考え方にとらわれず、まずなるべくテレワークを活用することから始める発想が大事である。

また、テレワークというと、インターネットに接続したPCやタブレットを用いることを考えるが、それが本命であるにしてもすべてではない。極端に言えば、仕事の一部持ち帰り(紙のみならず製造過程の一部など)もあり得るし、自前のスマートフォンやファックス、さらには郵便などを使うことも考えられる。生産性を上げるためのテレワークを考えるならコストの配慮は当然であり、テレワークの頻度が低い場合に端末まで用意するのか考えなければならないし、仕事の中身によって効率的で安上がりなやり方があり得るだろう。

また、セキュリティについても配慮が必要だが、重要性に応じ、コストとの見合いでそのレベルをコントロールすべきであろう。

テレワークのためのジョブ型転換は本末転倒

さらに、ハード面のみならず、テレワークを支える仕組みの構築も必要である。わが職場でも、2020年春からの騒ぎの中で勤怠管理の規定や派遣職員契約の見直しなどおっとり刀で手を付けたが、こういった制度面での整備は不可欠であるし、職員のメンタルやモチベーションの維持にどう配慮するのかも考えねばならない課題である。

テレワークを進めるためにジョブ型雇用にすべきとの議論があるが、テレワークのためのジョブ型転換は、本末転倒である。ジョブ型は21世紀の社会経済情勢の下で、一定の分野で職員が実力を発揮しやすい環境を作るためのものであって、すべての職員に適用されることが望ましいわけではない。仕事のやり方に応じ、どのような雇用形態が生産性向上に資するか考えたうえで、それに合わせてテレワークのやり方を工夫するというのが正しい姿であろう。