新型コロナウイルス感染拡大の影響は、経済・社会構造に大きな変化をもたらした。日本企業も非連続的な改革を進める必要があるが、伝統的な間接金融では支援しきれない。新たな金融機能として重要性を増すPE(プライベート・エクイティ)ファンドの役割を説明する。

  • コロナ禍で日本経済の非連続的な構造改革が求められている
  • 企業価値を向上させる「社会課題解決型」のPE 投資が求められる
  • PEファンドの多様性・市場拡大の定着は人材育成がカギ
幸田 博人
一橋大学大学院経営管理研究科
客員教授
幸田 博人先生
こうだ・ひろと
一橋大学経済学部卒業後、日本興業銀行入行。みずほ証券代表取締役副社長などを歴任し、 2018 年6 月みずほ証券退任。イノベーション・インテリジェンス研究所 代表取締役社長。 産業革新投資機構社外取締役。一橋大学大学院プライベート・エクイティ研究フォーラム代表

大企業とスタートアップ双方に変化が求められる

1990年代前半にバブルが弾けた後、この30年間における経済環境はなかなか厳しいものだった。米国など先進国だけでなく、中国をはじめとした新興国にも成長率で大きな差を付けられ、グローバル経済の拡大基調から取り残された。この期間、日本がグローバルから見て劣後してきたと感じるのは、イノベーション創出、IT(情報技術)基盤の整備などDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組み、そして米国の大手IT企業のようなプラットフォームビジネスだ。

こうした現状の背景に関しては、高齢化や人口減少などの日本社会の成熟状況に加え、ビジネス構造の要因も大きい。日本経済の成長ドライバーは以前から大企業中心だったが、企業の世界時価総額ランキングを眺めても、今や日本の企業名が上位に載ることは少なく、日本経済の主役を務めてきた大企業の競争力低下、あるいは将来の成長や業績に対する期待の低さを印象づけている。

2020年春先から世界中で猛威を奮っている新型コロナウイルスの感染拡大によって引き起こされた経済・社会の急激な変化は、旧態依然とした日本のビジネス構造に変革を迫る。うまく捉えればチャンスにもなりえるコロナ禍だが、大企業の非連続的なビジネスモデル変革と同時に、イノベーション創出の主役ともいえるスタートアップにも成長機会を与えるなど、低成長のビジネス構造からの脱却をはからなければ、ポストコロナ時代を乗り越えることは難しいだろう。

伝統的金融機能に代わるリスクマネーの源泉に

では、企業の変革を支える金融機能はこうした潮流に対応できるのだろうか。この30年間、日本の金融業界ではメガバンクの合併・統合が進み、総合的な金融サービスを提供する体制が整ってきた。だが振り返ってみれば、銀行融資やシニア債といったデットファイナンス、つまり間接金融が大半を占める構図は変化していない。

こうした間接金融中心の伝統的金融機能だけでは、変化のスピードが速い時代をサポートするリスクマネーの供給が限定的となり、成長に向けた投資が十分に進まないだろう。コロナ禍で改革に踏み切る大企業やスタートアップを支えるにはそれなりのリスクを覚悟しなければいけないが、慎重に稟議(りんぎ)を重ねる伝統的な銀行融資は相性が悪い。さらに、間接金融中心では経営への参画は難しい。大企業が海外のライバル企業をにらみながら自前で改革を進めるには積極的な投資を行うことが必要だ。

一方、コロナ・ショックはこれまでの経済危機とは異なり、金融セクターへのダメージは限定的だった。むしろ、各国政府や中央銀行の働きかけによって世界的な株高になるなど、投資環境は改善している。豊富な運用資金をこうした企業のビジネスモデル変革、ひいては経済構造の変革に資する先に回せるかどうか、特にエクイティを中心としたリスクマネーに回せるかどうかが重要になるとみている。

ここで注目したいのが、プライベート・エクイティ(PE)市場の成長である。リスクマネーを投じて企業や金融機関の未公開株を取得するPE投資を手掛けるファンドは、経営ノウハウを用いて投資先のマネジメントに深く関与することで、一定期間で企業価値を向上させることを目的としている。

PE投資には、新興のベンチャー企業を対象にした「ベンチャーキャピタル(VC)」、成熟期の非上場企業や大企業の事業部門のカーブアウト(非中核事業の社外切り出し)などを対象とした「バイアウト」、倒産やオーナーの高齢化によって事業継続が困難になった企業を対象とした「事業再生・承継」など、投資先のステージ別に様々な種類が存在する。さらに近年では、事業会社が自社の戦略のために行うPE投資のコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)のほか、VCほどリスクを取らずに事業の拡大を目指すグロース・キャピタルなども、PE投資の一環として注目を集めている。

2008年のリーマン・ショックで一時的に下火になったPE投資だが、近年また盛り上がりを見せ、資金の流入が続いている。経営権を獲得して改革を促し、一定期間で投資先の企業価値を向上させる形式の投資は、これまで日本ではなじみの薄いものだったが、ここ数年でかなり浸透してきている。企業価値向上でリターンを考慮しつつ、日本経済の変革を促すPE投資は、リスクマネーの源泉としての役割が広がっていくだろう。まさに新たな形の金融機能と言える。

機関投資家サイドでもPEに明るい人材の確保を

コロナ禍では、非接触・分散化経済の実現や、ビジネスにおけるDX推進がビジネスモデル改革のテーマになるだろう。「社会課題解決型」PEファンドを志向して、リスクマネーを供給し、企業価値を向上させるアプローチへのフォーカスが求められると考える。その上でPE投資が日本経済の変革に貢献していくためには、さらに市場規模を拡大し、多様な投資手法・規模のファンドが定着する「多様性」を確保することが重要だ。例えば、大企業のイノベーション抑制の原因となってきた自前主義の脱却にはCVC、ビジネス環境の成熟といった課題にはグロース・キャピタル、バイアウト、イノベーション創出のためのベンチャー企業応援にはVCなど、多様なPEファンドがそれぞれの強みを発揮するなど、多様なセクターに改革を促せるからだ(図表1、2)。

図表1 社会・経済構造の変化とプライベート・エクイティの位置付け

図表2 ビジネス構造改革に向けたPE ファンドの貢献

ただ、現在盛り上がりを見せ始めているPE投資も、今後日本に広がりを持って定着するかどうかはまだわからない。それを左右するのは、PRファンドの主な出資元である機関投資家や金融法人の動向だろう。だが、欧米の機関投資家のポートフォリオにおけるオルタナティブ資産で、PEが占める比率は10 ~ 20%が普通であるが、日本の機関投資家の場合、同比率はわずか3%程度という数値にも表れているように、日本の機関投資家におけるPEの浸透はまだ道半ばだ。

日本と欧米の機関投資家間の格差には、取り組んできた歴史の長さの違いのほかに、PEのプロフェッショナルが日本で少ない現実も見逃せない。今後日本でPE投資の拡大、ファンドの多様性確保が実現するかは、機関投資家サイドでもPEに明るい人材を確保できるかどうかにかかっている。

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