実質10年金利はマイナス1%割る

JPモルガン・チェース銀行
市場調査本部長
佐々木 融

108円台半ばで始まった2020年のドル/円相場は、年初に中東情勢の緊迫化を受けて107円台まで下落したが、その後は110円台まで反発。同年1月21日に新型コロナウイルスの人から人への感染が確認されると再びリスクオフの展開で円が買われたが、2月半ばには2019年4月以来の高値となる112円台まで急伸。しかし、その後は新型コロナウイルスが世界的に感染拡大する中、2020年3月9日に原油相場が急落すると、米長期金利が大幅に低下し、ドル/円相場は2016年11月以来の101円台まで下落した。

2020年初から3月9日までの主要通貨の騰落率をみると、円が最も強く、次いでスイス・フラン、ユーロが強かった。この結果、ドル/スイス・フランも約2年ぶりの安値まで下落。ユーロ・ドルは2年以上ぶりの1.14ドル台まで上昇した。

新型コロナウイルス感染拡大の世界経済への影響はこれから景気指標に表れてくるだろう。J.P.モルガンは2020年1~3月期の世界の実質GDP(国内総生産)成長率は前期比年率マイナス12.0%とリーマン・ショック時に最もマイナス幅が大きかった2009年1~3月期よりも大幅なマイナス成長になると予想している。しかし、こうした世界経済の悪影響を市場はある程度織り込んだと見てよいだろう。むしろ、これからは世界中で金融・財政政策によるサポートが期待されることから、市場が一気にリスクオンに戻って行く可能性も低くはないと見ている。当社は、2020年4~6月期の世界の実質GDP成長率も前期比年率マイナス1.2%と予想するが、7~9月期は同プラス19.1%まで拡大すると予想している。仮にそうしたシナリオが実現すれば、各通貨の動きは、2020年初から3月上旬までと真逆になる可能性もある。

J.P.モルガンがカバーする31の中央銀行の政策金利の加重平均値は現在1.76%と、すでにリーマン・ショック後のボトム(1.81%)よりも低く、これが2020年末までには1.51%まで低下すると予想している。また、先進国の10年国債金利加重平均値から消費者物価指数前年比の加重平均値を引いて算出した単純な実質10年金利は、これまで何があってもマイナス1%を割り込むことは無かったが、現在マイナス1.5%程度まで急低下している。世界の金融環境は非常に緩和的であり、いったん情勢が落ち着いたら、投資資金はリスク性資産に戻って行く可能性が高い。

出所:JPモルガン

米はマイナス金利対策に懐疑的

筆者は本邦企業・投資家による対外投資が膨らむ中、ドル円相場は狭いレンジ内での取引が続く可能性が高く、大きく動くとしたら円安方向ではないかと予想していたが、予想とは全く反対に急速な円高となった。もっとも予想外だったのは、米長期金利の急低下だ。過去1年間、ドル/円相場は日米10年国債金利差と短期的な相関を形成しながら、徐々に円安方向にシフトしていた。2020年2月半ば以降も非常に強い相関を維持していたが、米長期金利の急低下で、日米長期金利差が急激に縮小し、ドル/円相場の予想外の下落に繋がった。同年2月半ば以降続いている非常に強い相関関係に基づいてみると、日米10年国債金利差が40bp(ベーシスポイント)まで縮小するとドル円相場が100円まで下落する計算となる。日本の10年国債金利がマイナス0.2%程度までしか低下しないとすると、米10年国債金利が0.2%まで低下しないと金利差は40bpまでは縮小しない。

日本の経験則からすれば、10年国債金利が0.2%を割り込んだのは、日銀がマイナス金利を導入してからだ。つまり、FRB(米連邦準備理事会)がマイナス金利を導入するようなことがあれば、ドル円相場は100円を大きく割り込むことがあるかもしれない。しかし、FRBはマイナス金利の効果にやや懐疑的であるようであり、導入の可能性は高くないだろう。ドル円も100円を大きく割り込む可能性は薄い。