• 米国の期待インフレ率は先週2.2%まで上昇
  • ドル相場は反落を開始、ドル円の下落余地は大きい
  • 米長期金利とドルは負の相関に回帰しよう

米長期金利は1.19%まで上昇

梅本徹
J-MONEY論説委員
梅本 徹

米国の金融市場では景気回復期待と財政悪化懸念が台頭している。バイデン政権が1.9兆ドルの追加経済対策を、財政調整措置を活用して単独で成立させる手続きを進めているためである。10年物国債利回りは2021年2月8日に1.19%と年初来26bp(ベーシスポイント)上昇した。

しかし、長期金利上昇のほぼすべてがインフレ懸念の台頭によってもたらされている状況は、変わっていない。同日、BEI(ブレークイーブンインフレ率)は2014年8月以来最高水準の2.22%と同23bp上昇した一方、実質長期金利はマイナス1.03%と同3bpの上昇にとどまっている。

反落したドル相場

再考ESG投資

2021年1月、筆者が真に為替レートに影響を及ぼすのは実質金利であり、年初来の名目長期金利上昇を受けたドル高は短命に終わると述べた通り、先週ドルは反落をした。ユーロドル相場は、2月5日の安値1.1950ドルから1.2150ドルへ、ドル円相場も105円75銭の安値から104円40銭へ、それぞれドルが下落している。

ドル円相場の下落余地は大きい

為替相場の実質金利モデルが有効であることは、ドル円相場においても同様である。図表が示しているように、2004年以降のドル円相場は日米実質短期金利差(米国マイナス日本、3カ月物)と非常に強い相関関係にある。

【図表】ドル円相場と日米実質短期金利差

【図表】ドル円相場と日米実質短期金利差
(資料)米連邦準備制度など

また同図からは、最近の実質短期金利差の低下にドル安円高が追い付いていないことがわかる。さらに、購買力平価仮説に基づけばドル円相場のフェアバリューは88円と試算され、2021年1月時点で17%程度過大評価されていると考えられる。したがって、実質金利、購買力平価の両方の観点からドル円相場の下落リスクはいぜん大きい。

米長期金利とドルは負の相関に回帰

2000年代以降のディスインフレ下において、為替市場参加者はインフレ格差や短期金利差が消滅する中、長期金利あるいは長期金利差と為替相場間の正の相関にのみ注目してきた。しかし、今後財政パッケージによって米国景気が過熱する中、財政収支と経常収支が急速に悪化し、インフレ懸念が現実のもととなれば、長期金利の上昇にも関わらずドルが下落する局面が到来する可能性に留意しなければならない。

2021年2月5日にサマーズ元財務長官は「1.9兆ドル案は過大で経済の過熱を招きかねないと」指摘した。また、同案は今後3年間の需給ギャップの3倍に近い大きさとのシンクタンク(責任ある連邦予算員会、CRFB)による試算もある。レーガン政権下の1987年から1988年の2年間では、インフレ懸念によって10年物米国債利回りが7.1%から9.1%まで上昇する一方、ドル円相場は、155円から123円まで急落した。

なお、この間の1987年10月にはインフレ懸念と金利上昇の中、ブラックマンデーと呼ばれる資産バブルの崩壊が起きていることには留意が必要である。筆者は、引き続きドル円相場が年末までに90円に向けて下落すると予想している。

【債券・クレジット運用戦略特集】新時代の投資先を考える
【ESG投資特集】投資対象の拡大など進化を遂げる