直前3回のESP調査では、YCCの修正見通し予測は2023年7月が最も多かった

宅森 昭吉
景気探検家・エコノミスト
宅森 昭吉

日銀は7月28日に開いた金融政策決定会合でYCC(長短金利操作)の修正を決めた。長期金利の変動幅は「プラスマイナス0.5%程度」を目途とし、10年物国債金利について明らかに応札が見込まれない場合を除き、1.0%の利回りでの指値オペを毎営業日実施する。YCCについて、より柔軟に運用するという。

「ESPフォーキャスト調査」は、景気予測を行っている民間エコノミストを対象として日本経済研究センターが毎月実施しているものである。「概要」は、誰でも日本経済研究センターのホームページで確認できる。毎月約40名の民間エコノミスト(フォーキャスター)に、日本経済の主要指標などの予測値などをアンケートし、その平均値などをコンセンサスとして発表している。

「ESPフォーキャスト調査」では、特別調査も実施している。「金融政策と金利見通し」も毎月、特別調査として公表されている。2023年4月調査(調査期間:3月29日~4月5日)までは、(1)次回の金融政策の変更、(2)具体的な変更内容、(3)金利見通しについて質問していたが、金融政策を動かすならばまずはYCCからと判断し、5月調査(調査期間:4月27日~5月9日)以降は、(1)次回のイールドカーブ・コントロールの政策変更時期、(2)具体的な変更内容、(3)金利見通しについて質問するようになった。なお、6月調査の調査期間は6月2日~6月9日、7月調査の調査期間は6月28日~7月5日、8月調査の調査期間は7月27日~8月3日である。

図表は5月調査から8月調査の4回の予測結果を、1つにまとめたものだ。5月調査から7月調査までで変更時期として、1番回答数が多かったのは2023年7月頃で、実際の結果と一致した。

【図表】次回のYCCの政策変更時期
次回のYCCの政策変更時期
出所:日本経済研究センター「ESPフォーキャスト調査」

2024年末には「(全ての年限について)誘導目標を撤廃」が予測される長期金利見通し

直近8月調査の結果では、実際の7月28日の日銀によるYCC柔軟化決定後の、(1)次回のYCCの政策変更時期は「2024年7月以降」の回答が最も多かった(33名中20名)。

(2)の具体的な修正内容については26名(83.9%)が「YCCの廃止」と回答した。第2位は長期金利誘導目標の変動幅拡大が2名(6.5%)で、具体的な変動幅はプラスマイナス1.25%とプラスマイナス1.0%に意見が分かれる。同じく第2位タイは長期金利誘導目標の修正・廃止で2名(6.5%)。プラス0.2%~プラス0.3%が1名、廃止が1名である。

(3)の金利見通しでは、短期の政策金利は、23年末が現在と同じ「マイナス0.1%以上0.0%未満」34名中33名と最も多く「0.0%以上0.1%未満」が1名だった。24年末は「マイナス0.1%以上0.0%未満」15名、「0.0%以上0.1%未満」12名の順に多かった。

長期金利の誘導目標は、2023年末は「0.0%以上0.1%未満」が30名で1番多く、2024年末は「(全ての年限について)誘導目標を撤廃」が24名と1番多かった。

7月景気ウォッチャー調査、先行き判断で「金利」についてコメントしたウォッチャーが2桁に

日銀がYCCについて、 より柔軟に運用することが話題になった時期が、7月25日~31日の調査期間と重なった7月景気ウォッチャー調査で、先行き判断に関し「金利」についてコメントしたウォッチャーが12名で2桁となった。「金利」関連先行き判断DIは43.8で、景気判断の分岐点50を下回り、景気の抑制要因であることが分かる。

具体的には、「物価上昇に加えて金利も上昇していることから、住宅購入に向けた消費者マインドが回復するまで時間がかかるものと見られる(北海道:住宅販売会社〈従業員〉)」「今後の懸念材料として、日本銀行の長期金利上限1%の発表があり、客の購入意欲にどのように影響するかが心配である。また、地価がまだ高止まりしているため、今後の在庫確保に苦戦しそうである。(南関東:住宅販売会社〈従業員〉)」「まだ物価の上昇が続く。金利の上がり方もどのようになっていくのか、この辺りが落ち着くまではまだ動きは良くならない(南関東:プラスチック製品製造業〈経営者〉)」「資源価格や物価の上昇が続くところに最低賃金や金利の上昇などもあり、経済環境は急速に変化している(北陸:衣料品専門店〈経営者〉)」、「物価や金利の上昇が景気に影響する(九州:設計事務所〈代表〉)」などのコメントがあった。

なお、「金利」関連現状判断DIは50.0で、コメントしたウォッチャーは2名だった。