携帯電話の通信料引き下げ効果はく落で、前年比CPIが上昇

宅森 昭吉
三井住友DSアセットマネジメント
理事 チーフエコノミスト
宅森 昭吉

2021年4月から始まった格安料金プランの影響で、携帯電話の通信料のCPI(全国消費者物価指数)は2020年を100として、2021年3月の99.4から同年4月~7月は61.2に低下。

その後も8月~9月は56.0、2021年10月~2022年3月は47.0と順次低下した。東京都区部のデータからみて、2022年5月20日発表の同年4月分では47.4になる見込みだ。

2022年4月分CPI(生鮮食品を除く総合)の前年同月比は、携帯電話の下落効果はく落の寄与でプラス0.8%程度上昇することを主因に、同年3月分のプラス0.8%からプラス2.0%程度へ上昇すると見られる。

携帯電話要因は2022年8月にプラス0.2%、同年10月にプラス0.4%程度、さらに前年同月比の上昇要因になると見られる。

足元で、物価上昇に寄与している大きな要因はエネルギー価格だ。例えばガソリンの前年同月比は2022年3月分でプラス19.4%、消費者物価に対する前年同月比・寄与度はプラス0.38%。エネルギー全体での寄与度はプラス1.46%である。

資源エネルギー庁の給油所小売価格調査でレギュラーガソリンの2022年5月9日時点の価格は1リットル当たり171.1円で前年比はプラス13.6%である。政府はガソリン価格の上昇を抑えるため小売価格が170円を超えた場合に石油の元売り会社に補助金を出す対策をとっている。

半年後の同年11月7日でも仮に直近データの171.1円だとすると、前年比はプラス1.2%に低下する。半年後には、ガソリン価格の寄与は消費者物価指数の前年同月比をマイナス0.2%程度低下させる要因になる。

コンセンサス調査のエコノミスト高位見通しでもインフレ加速なし

40名弱の民間エコノミストのコンセンサス調査として毎月、日本経済研究センターが実施している「ESPフォーキャスト調査」5月調査が2022年5月16日に発表された。

この調査では、年度ごとにエコノミストの予測結果を評価するとともに、「ESPフォーキャスト調査」の総平均がエコノミストと勝負した場合の結果を評価しているが、その順位は40名弱の中で1桁台と上位に入る。

総平均予測は必ず真ん中の順位以上の好成績を残し、これを毎月繰り返すので、総平均予測はかなりの好成績と言える。過去17回の順位の平均は第5位で、実際の結果として総平均のパフォーマンスが優れていることが分かる。

CPI「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」の前年比の予測平均値は、2022年4~6月期はプラス1.94%の上昇。同年7~9月期はプラス1.90%、10~12月期はプラス1.88%と高止まるものの、2023年1~3月期にはプラス1.53%に鈍化、以降は2024年1~3月期プラス0.73%まで徐々に低下するという結果になった。

なお、高位8人の予測平均値は、2022年4~6月期プラス2.18%、7~9月期はプラス2.29%、10~12月期はプラス2.26%と2%台で推移し、2023年1~3月期にプラス1.93%に鈍化し、以降2024年1~3月期のプラス1.31%まで低下する見込みだ。

先行きインフレが加速するという見通しはないようだ。

調査のたびに入れ替わる最近の「景気腰折れリスク」第1位は……

「ESPフォーキャスト調査」では、2020年9月から奇数月に特別調査として「3つの景気腰折れリスク」について尋ねている(図表)。

【図表】「ESPフォーキャスト調査」特別調査結果の景気のリスク(複数回答、3つまで)の推移~半年から1年後にかけて景気上昇を抑える(あるいは景気を反転させる)可能性がある要因

「ESPフォーキャスト調査」特別調査結果の景気のリスク(複数回答、3つまで)の推移
※この特別調査は、2020年9月調査から2022年5月調査までの奇数月に実施。
※選択肢はその他を入れて2021年7月まで14項目、2021年9月から13項目、2022年5月から14項目
※株安(回答数が7,3,5,5,4,4,3,3,4,5,2)、IT部門(電子部品など)の悪化は(回答数が0,0,0,0,1,1,2,3,1,2,2)、公共投資の減少(回答数が0,0,0,0,0,1,0,0,0,0,0)、保護主義の高まり(回答数が4,1,2,1,1,1,1,0,0,0,0)、国内政治の不安定化(回答数が0,0,3,1,1,1,3,0,0,0,0)、円安(2022年5月から:3)と、その他(2,2,2,4,3,5,4,3,4,2,2)を除く。
出所:日本経済研究センター

2021年9月まで1年超にわたり「新型コロナウイルスの感染状況」が第1位だった。しかし、2021年11月以降は第1位が毎回変わる状況が2022年5月にかけて続いている。第1位の推移を見ると、2021年11月「中国の景気悪化」、2022年1月「新型コロナウイルスの感染状況」、3月「原油価格の上昇」、5月「中国の景気悪化」である。

2022年5月調査では第2位が「国際関係の緊張や軍事衝突」、第3位が「原油価格上昇」である。ロシアのウクライナ軍事侵攻の影響が大きいことが分かる。なお、マスコミ報道で「悪い円安」と言われることが多いので、2022年5月調査では「円安」も選択肢に含まれたが、選んだフォーキャスターは3人にとどまった。

別の特別調査で「中国製造業PMI」に関し尋ねているが、2022年4~6月期にPMI(非製造業購買担当者景気指数)が50未満となる回答は34人中29人と多かった。しかし、同年7~9月期は2人、10~12月期以降は0人である。7~9月期では50超が15人、50が17人であることから、2022年7月の「景気のリスク」の第1位は「中国の景気悪化」からほかの項目に替わる可能性が大きいと思われる。