2月「ESPフォーキャスト調査」で景気後退説が出現も、大勢は緩やかな回復継続を予想

宅森 昭吉
三井住友DSアセットマネジメント
理事 チーフエコノミスト
宅森 昭吉

エネルギー価格や食料品の値上がりが人々の生活を圧迫する状況下、景気は不透明な状況が続いている。最近の経済指標も明暗両方を示すものがあり、景気が良いのか悪いのかはっきりしない状況が続けている。

暗い方の例として、2月の「ESPフォーキャスト調査」で2022年8月を山とする景気後退説を唱えるエコノミストが1人だけ出現した。鉱工業生産指数が2022年8月に100.2でピークをつけ、2023年1月速報値の91.4まで低下してきたことなどが根拠だと推察される。

しかし、同・調査で景気後退に陥るという見方は少数派だ。2020年5月の谷の次の景気転換点(山)はもう過ぎたかどうかを36人に聞いたところ、35人が「過ぎていない」と回答、今後1年以内に山が来る確率の予測平均値は38.1%にとどまっている。

「足踏み」状態の日本経済だが、政策などが足を引っ張らなければ、個人消費やDX(デジタルトランスフォーメーション)投資などの設備投資を中心とした緩やかな景気回復継続は期待されよう。

1月一致CI前月差マイナス3.0の下降。基調判断は、「足踏み」という微妙な判断が継続

2023年1月の景気動向指数は悪い内容だった。先行CI(コンポジット・インデックス)は前月差マイナス0.4と3カ月連続下降、一致CI前月差マイナス3.0と2カ月ぶりの下降(5カ月連続上昇なし)だった。

一致CIは、3カ月後方移動平均の前月差が3カ月連続下降、7カ月後方移動平均の前月差がマイナスに転じた。移動平均は厳しい動きになった。しかし、一致CIを使った景気の基調判断は、2カ月連続で、景気拡張の動きが足踏み状態になっている可能性が高いことを示す「足踏み」にとどまった。

【図表】景気動向指数 ・一致CIの推移
景気動向指数 ・一致CIの推移
出所:内閣府

2023年1月は後方移動平均・前月差がマイナス0.39で、1標準偏差のマイナス0.77以上のマイナス幅にならなかった。そのため、事後的に判断される景気の山が、それ以前の数カ月にあった可能性が高いことを示す「下方への局面変化」に下方修正されるための「7カ月後方移動平均の符号がマイナスに変化し、マイナス幅(1カ月、2カ月または3カ月の累積)が1標準偏差以上、かつ当月の前月差の符号がマイナス」という条件を満たさなかった。

2月の景気ウォッチャー調査、現状水準判断DIは、アベノミクス景気の2017年12月以来の水準まで回復

2023年1月の景気動向指数に1日遅れて公表となった、2月の景気ウォッチャー調査(調査期間:2月25~28日)は、一転して明るい内容になった。現状判断DI(ディフュージョン インデックス)は52.0と景気判断の分岐点50超になった。

新型コロナウイルス対策としての行動制限が緩和され、旅行やイベント関連の客足や売り上げが増加したことが背景であろう。基調判断は「緩やかに持ち直している」と、1月の「持ち直しの動きが見られる」から上方修正された。

先行き判断DIは50.8になった。新型コロナの5類感染症への移行やマスク着用の緩和などで、消費者マインドの回復を期待する向きが多いようだ。

2023年1月はメインの指標である「良くなった」「悪くなった」の現状判断DIの他に、「良い」「悪い」の現状水準判断DIも強かった。50に迫る49.4で、アベノミクス景気の拡張局面だった17年12月以来5年2カ月ぶりの水準にまで回復した。

不透明な「足踏み」状況はどう変わる。「改善」に上方修正されるシミュレーション

景気動向指数・一致CIの基調判断が景気拡張の可能性が高いことを示す。「改善」の判断に上方修正ためには、「原則として3カ月以上連続して3カ月後方移動平均が上昇、かつ当月の一致CIの前月差の符号がプラス」であることが必要だ。

2023年1月の3カ月後方移動平均が下降なので、3カ月連続増加するのは最も早くて、同年6月7日公表予定の4月の景気動向指数になる。2月で3カ月後方移動平均が上昇に転じるためには、過去の数字が変わらないとして一致CIの前月差がプラス3.1以上の大幅上昇が必要で、それ未満の場合には、上方修正の可能性は7月発表の5月景気動向指数以降になる。「改善」になるには時間がかかる。

なお、一致CIの第一採用系列である鉱工業生産指数の先行きを製造工業予測指数でみると2月分は前月比プラス8.0%上昇の見込みである。

過去のパターン等で製造工業予測指数を修正した経済産業省の機械的な補正値でみると、2月分の前月比は先行き試算値最頻値でプラス1.3%の上昇になる見込み。2月の一致CIの前月差はそれなりの上昇が期待される。

「足踏み」から「下方への局面変化」に下方修正され、にわかに景気後退説が高まるケースのシミュレーション

逆に、「下方への局面変化」に下方修正されるには、7カ月後方移動平均のマイナス幅(1カ月、2カ月または3カ月の累積)が1標準偏差以上になることが必要だ。

2023年2月で一致CIの7カ月後方移動平均のマイナス幅の2カ月累積が1標準偏差マイナス1.0以上のマイナス幅になるためには、一致CIの前月差がマイナス1.2以下の大幅な下降が必要だ。製造工業生産予測指数からみて、2月は「足踏み」のままの可能性が大きい。

「足踏み」に変わる可能性があるのは、5月10日発表の3月景気動向指数だ。過去の数字が変わらないことを前提にして、一致CIが、仮に2月が前月差プラス1.7以下だとすると、3月がマイナス0.1とマイナスになるだけで下方修正の条件を満たす。7カ月後方移動平均のマイナス幅の3カ月累積が1標準偏差のマイナス1.0以上になる。

なお、4月19日に判明する鉱工業生産指数の年間補正の結果によっては過去の季節調整値が大きく変わる可能性があるので注意が必要だ。

経済活動が様々なかたちで制限されたコロナ禍では、景気動向指数の22年2月速報値では「足踏み」の判断継続だったが、生産・出荷関連データの年間補正などがあった2月改定値では「改善」に上方修正されたということがあった。