【もっと知りたい!債券】。今回と次回は、【番外編】として「イールドカーブ」を連続して採り上げます。日本を除く主要な先進国の間で昨今、金利のイールドカーブが通常のかたちではなく、「逆イールド」になっている現象が注目されています。これは債券市場が大きな変調をきたしていることを示しています。そこで、今回は理解の前提となる「イールドカーブ」そのものを理論面から掘り下げ、次回では歴史を振り返りながら、逆イールド現象への理解を深めてもらう狙いです。解説はラッセル・インベストメントの金武伸治さんです。

長期金利は短期金利の「累積」

イールドカーブに関して、世界的な「逆イールド化」が話題になっています。

金武 短期金利よりも長期金利の方が低い現象のことです。確かに逆イールドはおかしな現象に見えますが、そもそも、なぜイールドカーブは右肩上がりでないといけないのでしょうか?

加えて現在の日本国債のイールドカーブは中期部分が凹んだ形状、つまり下に凸な状態になっています。こちらも一般的なイールドカーブのイメージとは異なります。

イールドカーブが短期的に歪んだ状態から、長期的にはどのような状態になるのか。こうしたことを類推するためにも、理論的なあるべき姿を知っておくことは重要です。ヘッジ外債投資を継続すべきかなど、長期的な投資戦略を考えるうえでも大変参考になるからです。

このため今回は通常の実務編とは少し離れて「理論的なイールドカーブは、どのように推定されるのか?」というテーマにチャレンジしたいと思います。

「理論的なイールドカーブ」の考え方とは、どんなものなのですか?

金武 まあ、今回はコーヒーブレイクの時間だと思って、肩の力を抜いて聞いてください。はじめに理論イールドカーブの推定方法について説明しますよ。

ファイナンス理論では、長期金利とは「現在から将来までの各時点の短期金利の累積」と定義されています。例えば10年金利の場合、現在から10年分の将来短期金利を累積させることで計算しようしています。

現在の短期金利は、日本の場合ですと政策金利である無担保コール翌日物金利として既に値が決まっています。しかし将来の短期金利は分からないですし、予想も人それぞれ異なります。

では、将来短期金利はどう設定するのでしょうか?

詳しくは下の【推定方法例】【図表1】を見ていただきたいのですが、実は将来のことは分からないという前提に立ち、各時点の短期金利はランダムに動くという考え方をしています。ただし過度に変動しても困るので、ある時点の短期金利水準から次の時点までは、短期金利の変動分布つまり標準偏差に従うくらいの幅でランダムに上下動させています。

さらに将来の短期金利水準が極端に大きな値やマイナス値にならないように、長期的な均衡水準に回帰するような調整もしています。長期的な均衡水準とは、新聞などで目にする中立金利をイメージしてください。つまり経済成長率にふさわしい、景気を加速も減速もさせない適正な政策金利くらいと理解してもらえばよいでしょう。

【将来短期金利の推定方法例】
次の時点の短期金利=ある時点の短期金利+ボラティリティ×乱数+調整項

ボラティリティ:短期金利変化の標準偏差
乱数:標準正規分布(平均=0、分散=1の正規分布)に従う乱数。おおむね-2~+2の値をとる
調整項:ある時点の短期金利が、長期的な均衡水準よりも高い場合はマイナス方向の調整、低い場合はプラス方向の調整を行う項
出所:ラッセル・インベストメント作成

【図表1】将来の短期金利がランダムに変動する様子(※イメージ図)
将来の短期金利がランダムに変動する様子(※イメージ図)
出所:ラッセル・インベストメント作成

長期金利には「不確実性への対価」を上乗せ

しかし、そういった調整だけでイールドカーブが右肩上がりになるものなのですか?

金武 なかなか鋭いじゃないですか。確かに、これでは短期金利が長期的な均衡水準を中心にして、正規分布に従い上下動するだけなので、中期や長期、超長期まで累積させても年率換算すると長期的な均衡水準程度になります。つまりイールドカーブが右肩上がりにはならず平坦になります。

そこで将来の短期金利は不確実なので、長期金利には不確実性に対する対価、つまりリスク・プレミアム(上乗せ金利)を乗せながら累積していきます。これによって、イールドカーブが右肩上がりの形状になるわけです。

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