企業は様々な理由で、名ばかりでみせかけのESG(環境・社会・企業統治)対応を行ったり、ESG債やローンで調達した資金を別の用途へ振り向けたりするなどを意図的に行う。
控えめに表現しても、情報を都合のいいように取捨選択して公表し、悪い情報は公表しない。あるいは、無意識に公表資料を誇張したり誤解を生む表現をしたりする傾向があることが否定できない。
このような粉飾ESGは、グリーンウォッシング(Greenwashing)やソーシャルウォッシングとも呼ばれ、事例は少なくない。しかしながら、投資家がESG投資を行うにあたって入手するESG情報は正しいことが必須であり、何らかの対応が必要になってくる。
ESG粉飾行動が採られる原因や工作の手法、機関投資家がとるべき対応策などを、粉飾決算の手法やESGスコア計測法などに立ち入って展開しよう。第1回はESG粉飾行動が起こる誘因から見ていく。
ESG粉飾の誘因は様々
誘因は図表1のように様々ある。補充しながら順に解説してみよう。
【図表1】ESG粉飾の誘因
ESG粉飾の目的 | |
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利益を得る: インセンティブ(賞金)を得るため。 |
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信用、評価を獲る(直接的な利益は不確実):
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信用、評価を獲るとともに利益を得る:
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受賞(図表2参照)するため粉飾する可能性の存在は、例え審査が厳格であっても否定できない。しかしながら、社会貢献のために寄付をしながら、粉飾する可能性は比較的低いだろう。社会的な評価は高額納税者となれば得られる。それは脱税が発覚すれば大きく下がる。
時間がかかるESGの成果達成がESGの誘因と絡めば何が起こるか
ESGは成果があらわれるのに時間がかかるケースが多いものである。ESG成果発現の長期性が時間稼ぎや平準化を生む可能性がある。既に採っているESGの成果を誇りたいが時間がかかるので時間稼ぎのため粉飾する。
また、成果の発現時期が案件によって異なるため、平準化して常に努力している姿勢を示すようなことも起こりえる。
企業間競争がESGの誘因と絡めば何が起こるか
激しい価格競争のなか、環境などへの対応を切り口に取引拡大、売上上昇につなげたいという誘因は大きい。また第三者機関から得るESG債の適格性の評価を高め、ESG債の利払い負担を軽減する。あるいは有利に借り入れするという誘因も大きい。
残念ながら番外として、ESGが注目され(過ぎ)て、世間の動きに逆らえない、という誘因の存在も否定できない。
【図表2】ESG賞などの一例
ESG賞とその内容 | |
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健康経営優良法人認定
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[ESG]なでしこ銘柄認定
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[賞]地球環境大賞授与
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心のバリアフリー好事例企業認定
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[寄付]緑の募金
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辰巳憲一
学習院大学名誉教授
大阪大学経済学部、米国ペンシルベニア大学大学院卒業。学習院大学教授、London School of Economics客員研究員、民間会社監査役などを経て現在、学習院大学名誉教授など。投資戦略、ニューテクノロジーと金融・証券市場を中心とした著書・論文多数