50年を目指す超長期の時間軸で考える

ESG(環境・社会・企業統治)投資にあたって忘れがちになるのは時間軸とバブルである。これらの点は、いくら強調しても強調し過ぎることはない。

ESGに対応するには50年を目指す超長期の時間軸を据えて考えてみる必要がある。除菌するだけならば20秒などの極めて短時間で済むが、破壊された森林を回復するためには数十年以上かかるだろう。放射能の除染には数百年以上かかる。

これからの債券投資を考える

辰巳憲一
学習院大学名誉教授
辰巳憲一
1969年大阪大学経済学部、1975年米国ペンシルベニア大学大学院卒業。学習院大学教授、London School of Economics客員研究員、民間会社監査役などを経て現在、学習院大学名誉教授など。投資戦略、ニューテクノロジーと金融・証券市場を中心とした著書・論文多数

社会の変化が速くなったと感想を述べる人が21世紀に入って多くなったと多数の人が感じている。時には、それは恨み言に聞こえる。情報通信技術の発達で世の中の変化が激しくなったのである。HFT(高速あるいは高頻度)取引の盛行もその一環である。

HFT取引の世界は、まったく逆方向の極端に進んでいる。視界は1秒の千分の1より短い。言葉で視界と表現しても人間には見えず、コンピュータが常時観測している。

この世界では、事実・現象を一刻でも早く見つけ、そして速く行動に移した者が勝ち組になる場合が多い。他人のミスや制度の欠陥を見つけても同様である。しかしながら、予測を誤った場合は大きな損失を被る。これがリスクである。

ESGの長期性に課題が残っていることも見えてくる。大規模企業グループには長短両極端の2つの会社が併存することになる。文化の違う会社や部門を擁して舵取りするには経営陣に大きな課題を残す。

また、技術進歩は長期的には経済成長と所得上昇をもたらすが、技術進歩が実用化された直後の時点の企業や従業員のすべてに恩恵が行きわたるわけではない。ESGでも同じようなことが起きる。ESGの恩恵を早く行き渡らせるためには、旧来型の業種に属する部門・企業が新しい業種に移れるように支援する経営・政策が求められる。技術教育や技能習得に投資する必要もある。

悪く言えば群集心理であり、バブルと類似

PRI(Principles for Responsible Investment)と略される責任投資原則とは、2006年国際連合から金融業界に対して提唱されたイニシアティブである。このPRIと2014年の「責任ある機関投資家の諸原則」(日本版スチュワードシップ・コード)は、短期的な利益追求を改め、長期投資を通じて投資先企業の持続的成長をサポートすることを機関投資家に求めている。財務要素だけでなく、ESGという非財務要素を投資先企業の選定プロセスにビルトインさせねばならないのである。

図表にはPRI署名機関数とその運用資産総額の推移を示した。PRIに賛同する署名機関数は増加しており、署名機関の運用資産総額も規模を拡大させている。これは、実際の価格の動きを分析対象にしたバブル生成過程ではないにしても、悪く言えば群集心理であり、起ころうとしている現象はバブルと類似している。バブル発生の過程で投資すれば、時期を見て早々に引き上げないかぎり悲惨な結果になることを過去多くの人が経験している。

【図表】これはバブルの始まりの兆しか?

図表
出所:日本語版HP (http://www.unpri.org/principles/japanese.php)から筆者作成

ブランド力についても同様なことが起こる。例えば従業員の安全対策に注力し脱炭素に取り組む企業ほど、人々に支持され売上が増えるとともにブランド力が高まる。しかしながら、多くのメーカーがこのような効果を持つESGに次々に取り組んでいくとすれば、築き上げたブランド力のうちESGバブルで膨らんだ部分を次々と消滅させていくメーカーが生み出されることになるだろう。

考えてみれば、経済学が教える合成の誤謬(ごびゅう)のようなことが起こるのである。バブルに飲み込まれない、差別化できる独自のESG活動を探して企業は模索し続けなければならない、ということだ。