日本政策投資銀行ではどのようなM&Aサービスを提供しているのか。

 日本M&Aセンターと共通しているところでは、買い手と売り手双方に相手企業を紹介できることと、各業界の状況を把握しているため、より充実したデューデリジェンスができること。さらに、系列の日本経済研究所の金融本部という部署にPMI支援の専門チームがある。これらのリソースを結集して買い手と売り手の紹介からデューデリジェンス、PMIまでトータルでサポートする「M&Aアドバイザリーサービス」を提供している。また、業績が上向き始めた企業には融資や投資といった支援もできる。

M&Aアドバイザリーサービスの成功事例としては、昭和起重機製作所によるホウコクホールディングスへの事業承継が挙げられる。後継者不在に悩んでいた昭和起重機製作所が、優良企業への売却を我々に相談してきたので、広島銀行のサポートによって事業の多角化を推進していたホウコクホールディングスのグループ企業になった。地方銀行との連携や後継者不在のなかでの事業承継の好例といえる。

日本M&Aセンターの優位性は。

三宅 我々はマッチング力に自信がある。全社員が情報を共有し、さらに全国の地方銀行や信用金庫、証券会社、会計事務所の力も活用してマッチングする。そして多くの候補企業のなかから、ベストな相手を見つける仕組みは業界随一と自負している。2016年には福岡営業所を設立し、マッチング力をさらに強化した。九州は事業承継ニーズが非常に強く、営業所開設によって九州地方の成約件数は3倍ほどになった。

バイアウトファンドの「日本プライベートエクイティ(JPE)」には、日本M&Aセンターと日本政策投資銀行が主要株主として名を連ねている。

M&Aは失敗が許されない。絶対成功させる気構えで今後もビジネスを展開していく──三宅氏三宅 日本には事業承継を目的とした中小企業向けのPE(プライベート・エクイティ)ファンドがなかったことから2000年に設立した。2013年に日本政策投資銀行が株主になってくれたことで、信用力も高まった。JPEは買収ファンドではなく、売り手と買い手の橋渡しをする“継承ファンド”だと考えている。米国のPEファンド市場は日本の数十倍の規模なので、日本でもPEファンドがもっと盛り上がってもおかしくない。

 我々の事業の4本柱は、融資と投資、アドバイザリー、アセットマネジメントだ。このうち投資部門では企業への直接投資だけでなく、PEファンドを設定したり、LP(リミテッド・パートナー)として出資することもある。JPEは中小企業向けのPEファンドの先駆けであり、事業承継のノウハウも豊富なので資本提携を通じていろいろと学んでいる。

M&Aは「成約から成功へ」。加速する部分M&Aと海外M&A

M&Aがより発展していくには何が必要か。

 啓もう活動は非常に重要だ。大型の海外M&A案件であれば成功は6割、保留が2割、失敗は2割程度だが、メディアが大企業の失敗案件ばかり大々的に取り上げるから、ネガティブな印象が先行してしまった。日本政策投資銀行や中小企業庁などと協力し、偏ったイメージを正していきたい。加えて、成功するM&Aを積み上げていくことも欠かせない。当社では「成約から成功へ」というキャッチフレーズを掲げているが、我々や日本政策投資銀行などが「M&Aを絶対成功させる」と気構えを持って取り組むことで、より関心を持ってもらえるだろう。

 啓もうという意味では地方銀行も強い味方になるだろう。地方銀行がそれぞれの地元の企業経営者にM&Aの正しい知識を伝えることで、イメージ刷新につながる。

日本企業のM&Aの方向性は。

 大企業のM&Aには「部分M&A」と「海外M&A」の2つのフェーズがある。コア事業に経営資源を投下し、ノンコア事業を売却する企業が増えていることから、部分M&Aの動きは今後さらに加速していくと見る。一方、海外M&Aのポイントはアジアだ。我々はシンガポールと北京に現地法人を持っている。最近、ANAホールディングスとベトナム航空の資本提携を手伝ったが、アジア企業を対象にしたM&Aのニーズはますます強まっていくだろう。

三宅 中小企業のM&Aでは3つの波が押し寄せている。1つ目は事業承継の波。2つ目、3つ目は柳社長が指摘したように業界再編と海外展開の波になる。このうち海外展開では、中小企業においてもASEAN(東南アジア諸国連合)との連携が非常に大事になることから、当社では2016年にシンガポールに事務所を構えた。M&Aは、成長戦略のツールとしてもはやなくてはならない存在になっている。しかも、顧客企業で働く従業員の人生もかかっており、失敗は許されない。絶対成功させる気構えで今後もビジネスを展開していく。

 全く同感だ。地域のためにも従業員のためにも、あるいはこれまで築いてきた経営資源を生かすためにも、M&Aは有効な経営手段になる。日本M&Aセンターや我々のような専門家を活用し、経営課題の解決につながるM&Aを実践してほしい。