年間投資上限額40万円・非課税保有期間20年間という「積立NISA(少額投資非課税制度)」の創設が決まり、「iDeCo」の愛称が付けられた「個人型確定拠出年金」は加入対象者が拡大されるなど、個人投資家にとって長期の資産形成に取り組みやすい環境が整ってきた。「iDeCo」と「NISA」の現状や今後の課題などについて、日本証券業協会会長の稲野和利氏と投資信託協会会長の白川真氏に藤沢久美氏が聞いた。

ロールオーバーの上限額撤廃、制度の恒久化は粘り強く要望

藤沢 NISAの制度開始から3年が経った。

稲野 2016年末時点でNISAの加入者は1069万人、買付額は9兆4700億円にのぼる。加入者はNISA対象者の約10%に当たるので、かなり浸透してきたのではないか。口座稼働率も当初の4割から6割まで上昇したが、もっと伸ばしていきたい。

現行制度では、5年間の非課税期間終了時の株式・投資信託などを翌年の非課税投資枠に移管(ロールオーバー)できるのは120万円までだったが、平成29年度税制改正大綱では上限額が撤廃された。非課税期間の恒久化などは見送られたが、5年間の非課税期間では長期投資を支えるには短いことから、今後も粘り強く要望していく。

2016年4月から始まったジュニアNISAは、12月末時点の口座開設数は19万口座、買付額は290億円と、NISAと比べると規模はかなり小さい。制度の仕組みが複雑なのが最大の理由だが、高等教育の資金づくりなどにつながる意義のある制度なので、これからも普及に努めていきたい。

白川 NISA口座の稼働率6割というのはまずまずといったところだろう。ジュニアNISAは投資を通じて子どもや孫への愛情を表現できる制度であり、世代間の資産移転にもつながる。子どもがお金について考えるきっかけにもなるだろう。

藤沢 NISAの認知率は8割ともいわれている。

稲野 業界全体で取り組んだ成果だ。CMを流し、さまざまなメディアにも取り上げてもらった。NISAで初めて口座を開設した投資初心者の割合は3割程度と、投資の普及にも寄与している。

対象者は6700万人に拡大、「兼務規制」は見直しが必要

藤沢 iDeCoはどうか。

白川 2016年にiDeCoと命名されたが、確定拠出年金(DC)という制度自体は2001年からある。DCには個人型と企業型があり、このうちの個人型がiDeCoになる。2017年1月より公務員や専業主婦なども加入できるようになったことで、対象者は4000万人から6700万人に拡大した。

DCの規模は、2016年3月時点で加入者は576万人、運用資産総額は10兆7900億円になる。そのうちの44%の4兆7000億円が投資信託である。つまりDCの半分超は、定期預金や保険などの元本確保型商品で運用していることになる。

このうちiDeCoでは、掛け金の拠出がなく運用の指図のみを行う運用指図者を含めた加入者は73万人になるが、実際に掛け金を拠出しているのは26万人にとどまる。加入可能対象者数に対する実際の加入比率も0.6%と極めて低い水準にあるので、この加入比率をいかに上げるかが今後のカギになる。

藤沢 実際に運用している商品の大半が元本確保型商品という状況をどう改善していくのか。

白川 現在、加入者が運用指示をしなかった場合に自動的に買い付けるデフォルト商品を、約6割の企業が設定しているが、ほとんどはその対象商品に元本確保型商品をデフォルト商品にしている。一方、欧米ではライフサイクルの変化に合わせて、ファンドのリスク量を調整するライフサイクル・ファンドなどがデフォルト商品に指定されている。

日本の場合、企業型DCを運営している事業主のなかには、運用責任を負うと勘違いし、元本確保型商品にしているところもあるので、法令解釈通知等で明確化するなど、デフォルト商品の制度趣旨をわかりやすく説明する必要がある。

藤沢 日本証券業協会ではどのような普及活動を考えているのか。

稲野 当協会独自にやるケースもあるし、厚生労働省と協力するケースもある。個々の証券会社なども浸透を図っているので、我々も知恵を出していきたい。第1号被保険者である自営業者は全国で1千数百万人いるが、このうちDCの加入者は7万人に過ぎない。自営業者は国民年金しか加入できず、一方、DCは月額6万8000円まで積立できるが、制度そのものを知らない可能性もあることから、自営業者にフォーカスしたPR活動もあり得るだろう。

とはいえ、現状ではシステムコストの問題に加えて、一人の販売担当者が制度としての個人型DCと具体的な金融商品を一緒に説明できない兼務規制もあって取扱金融機関が少なく、NISAのような業界一体のPR活動は難しい。DCの普及促進のためにも、兼務規制を見直してもらう必要はある。

白川 DC事業を軌道に乗せることは、多くの金融機関にとって息の長い仕事となるが、20年後、30年後を見すえて、DCに取り組む金融機関が増えている。