近年、いわゆる伝統的資産の期待利回り低下に対応するため、国内外の年金は広義のオルタナティブ投資に十分な検討の上で取り組んでいる。その中でも不動産投資については、歴史的に見ても、また、年金資金の特性から見ても、決して疎遠なものではないはずである。

不動産投資は目新しくない主流は私募形式の商品

徳島 勝幸
ニッセイ基礎研究所
取締役金融研究部研究理事
兼年金総合リサーチセンター長 兼ESG推進室長
徳島 勝幸(とくしま・かつゆき)
1986年京都大学法学部卒。1991年ペンシルバニア大学ウォートンスクールMBA。資産運用関係の業務に25年以上にわたって従事し、債券投資、資産配分、クオンツ運用、リスク管理、運用コンサルティングなど、様々な経験を有する。社会保障審議会資金運用部会委員を務めるほか、証券アナリストジャーナル編集委員でもある

最近の年金運用担当者は知らないかもしれないが、1997年に撤廃された年金運用に対する「5:3:3:2規制」の中に既に不動産が存在していた。年金運用において、長期資金という観点から不動産投資が考えられたとしてもおかしくない。不動産投資は公益性を帯びているだけでなく、地価のインフレ連動性が期待できるとされていた。

しかし、バブル経済崩壊までの不動産投資は土地を取得し建物を建設して賃貸するという現物投資が主であり、年金による不動産投資は、結局、証券化を通じた投資が可能になるまで大きな存在感を持つことはなかった。

伝統的な年金運用の基本は、上場有価証券への投資による換価性の高く柔軟な投資である。長期資金という特性からは、本来、流動性を犠牲にして投資効率を高めるという取り組みへ向かいそうなものであるが、極端な場合、1年や数年といった中短期での評価が優先されるため、残念ながらアセットオーナーである年金基金が確たる信念を持たない限り、年金資金は運用の長期性を喪失してしまっている。近年まで不動産投資が隆盛とならなかったのは、こういった年金の姿勢による影響であったことも忘れてはならない。

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