欧州経済
緩やかな回復傾向、緩和は継続 EUと英国の関係がカギに

外需の取り込みが成長加速の条件。欧州の財政緊縮路線に変化も

2016年のユーロ圏の見通しとしては、緩やかな景気回復が続くものの低成長・低インフレ率の状況を年内に脱するのは難しいと考えている。そのため、金融政策は緩和が続くだろう。

他方で英国は、ユーロ圏に比べて経済の回復度合いは良好だ。金融緩和をこれ以上続ける必要性は低く、「利上げ」の声も出ているがインフレ率はほぼゼロなので、今後の金融政策をどう進めるべきか迷走中ともいえる。

これまでの欧州は内需の回復に支えられる形で景気が持ち直したが、それにも限界がある。今後は投資が動き、大きな経済成長に発展するような外需の伸びが必要だ。低成長の1つの原因に、中国や新興国の経済成長率の減速による世界的な需要の鈍化が挙げられる。欧州のなかでも、とくにユーロ圏は輸出が伸びて経済が成長する地域なので中国と新興国の動向は今後も重要になる。反面、欧州にとっては需要が回復し始めた国や地域に対して、効率的に輸出をしていけるかどうかが課題となる。

欧州は財政の面でも変化の途上にある。2010年に始まった欧州債務危機によってユーロ圏のかなりの国で国債利回りが上昇したため、各国は財政健全化を目指して緊縮財政を行った。その結果、政府の財政赤字削減のほか銀行の資本増強やセーフティネットの構築も進み、欧州の債務に対する信頼も回復している。現在では、緊縮一辺倒をやめて景気回復に貢献する分野に効果的に財政出動を行おうとする機運が高まっており、欧州各国の政策もそうした方向性のものへと転換しつつある。

仏・伊の雇用回復に課題。難民問題はプラス要因にも

欧州債務危機の頃に比べて、基本的には欧州のほとんどの国の景気は回復に向かっている。依然として問題なのがギリシャで、2015年は政治が大きく混乱したうえ、実質GDP(国内総生産)の落ち込みも大きい。ただし、ギリシャの経済規模はユーロ圏全体のGDP比で2%程度だ。今後も突発的に市場が動揺する場面はあるだろうが、欧州経済に与える影響は小さいだろう。

むしろ警戒すべきなのはフランスとイタリアだ。景気悪化は概ね止まったがフランスの失業率は高止まりしており、イタリアの失業率も最近になってようやく下がり始めたところだ。ユーロ圏でも経済規模と他国への影響が大きな両国の動向には注意したい。

他方で移民・難民の急増による社会不安の増大が危惧されているが、難民申請の手続きや衣食住の保障、職業訓練や教育分野などで財政支出が増えたり雇用が生まれたりするため、経済にとってはプラス要因も存在する。いずれにしても景気や雇用を遠因とした政治不安は2016年以降も大きなテーマになるだろう。

2016年最大の注目すべきポイントはEU(欧州連合)と英国の関係性だ。英国では2016年中に「EUに加盟し続ける」か「EUから離脱する」かの国民投票が行われる可能性が高い。現在、投資家は英国がEUの一員であるという前提のもと投資を行っており、その前提が崩れた時に市場へどのような影響が出るかわからないのは大きなリスクだ。

英国もまたEUの中にいるからこそ現在のポジションを獲得している面があり、仮にEUの一員でなくなり関税同盟からも外れるような事態になれば、各国企業からの英国に対する直接投資の戦略にも変更が生じてくるだろう。