2016年は中国株の急落に始まり、英国の国民投票や米国大統領選挙の意外な結末に市場は混乱した。原油価格が回復傾向にある一方、欧州で政治波乱が予想される2017年の見通しを各界の識者に聞いた。

国際情勢(地政学リスク)
各国・地域で高まる地政学リスク。トランプ大統領のふるまいに注目

身近な国で「革命」が起きた2016年、世界構造の大きな変化が背景に

中湊 晃氏
三井物産戦略研究所
特別顧問
中湊 晃

2016年に印象的だったことの1つが身近な民主主義国で「革命」が続いたことだ。例えば、英国民投票によるBrexit(英国によるEU離脱)の決定や米国大統領選挙でのトランプ氏の当選、あまり例のなかったブラジルや韓国での大統領の弾劾騒動なども挙げられるだろう。

驚きという意味では、2014年もロシアのウクライナ侵攻やイスラム国の建国宣言など戦後以来の国境線が突如破壊されたことに世界は動揺した。ところが2016年は突然ではなく、全世界が見つめるなかで民主主義的な手続きを経て、驚愕の結末に至った。大衆がインターネットで繋がり、ポピュリストが怒りに火をつける、極めて現代的な「革命」の年だったと思う。

もう1つは地域大国が地政学リスクを同時に高めたことである。ロシアがシーア派連合と連携し中東、シリアへの関与を深める一方、中国は安全保障上の制海権とエネルギー政策上のシーレーンの確保のため、公海である南シナ海の岩礁の埋め立てを着々と進めた。

トルコでは軍部による7月のクーデター失敗を契機に、エルドアン大統領が強権を発動。反対勢力への弾圧が激しさを増している。ミサイル発射実験を続ける北朝鮮では核燃料の小型・軽量化の研究が進んでおり、日本にとって侮れない状況だ。

こうした動きの背景には、長期にわたって、当然と思われてきた大きな「世界の構造」が変化してきたことがある。グローバリゼーション、超大国たる米国の影響力、EU(欧州連合)の拡大・統合路線、中国の高度成長などがいずれも変調を見せ相互に影響し合い、混沌とした国際情勢をもたらしている。

不確実性をもたらす米大統領、存在感を増すロシアと波乱の欧州

2017年の重要な地政学リスクを3つに絞るとしたら、1つ目が「トランプ大統領」となる。予測不可能さに注意しなければいけない。彼は経済対策として「景気刺激策」と「保護主義」の2枚のカードを持っているが、国民からの反応次第で見せるカードを変えてくる可能性が高い。政策を急にシフトさせるたびにマーケットは混乱し、さまざまな状況が一変してしまう恐さがある。

外交面では対中国、対ロシア、そして同盟国との関係に注目だ。オバマ政権は、最大の米国債の買い手であり貿易相手でもある中国とは予定調和的な外交を行ったが、今後はどうなるかわからない。中国サイドも党大会を迎える人事の年に当たり不安定さを増す。トランプ氏は一貫してプーチン大統領を賞賛しており、万が一、対ロ関係が好転するとしたらNATO(北大西洋条約機構)の今後の動向にも影響がおよぶ。

2つ目は「ロシア」だ。2017年にはフランスで大統領選挙が行われるが、実は有力候補のフランソワ・フィヨン氏は親プーチンである。今後トランプ氏と併せ、フランスが親ロシアに転じれば、ロシアへの経済制裁の緩和や解除も現実味を帯びてくる。原油価格の復調もあり、OPEC(石油輸出国機構)とも一定の関係を築き、中東でも存在感を増したロシアの地政学的なポジションは高まりそうだ。

3つ目は「欧州の選挙」だ。オランダ、フランス、ドイツ、イタリアとEU創設メンバー国が揃って選挙の年を迎えるなかで、反EU路線の極右・極左政党に注目が集まっているが政権奪取には至らないと考える。ただし、EUの矜持となる難民・移民政策や緊縮財政が選挙の争点となることで、既存政党は選挙で勝ったとしても、反EU的な立場に寄らざるを得なくなるだろう。結果として徐々にEUが縮小・分裂の方向に進んでいく可能性が高い。

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