中国経済
最低でも5%台後半の成長、後戻りできない人民元の国際化

株式市場は「マネーゲーム」。過剰生産を産業の転換で解消

中国の株式市場は実体経済を反映しておらず、マネーゲームの場になっていた。2015年6月以降の株価の乱高下は、実体経済の動きとほとんど関係なく起きたことである。

そもそもあの乱高下はなぜ起きたのか。前提として、リーマン・ショック後の金融緩和による金余りがある。過剰なお金はまず不動産市場に向かったが、2014年春までに中国政府は不動産市場に対する資金規制を行ったため、お金は株式市場に向かうようになった。おそらくは景気の下支え効果も狙ったのだろうが、政府は株取引に関する規制緩和を集中的に行い、上海総合指数は2014年頃に2000ポイント程度だったものが、2015年4月には5000を突破した。これはさすがに実体経済と離れ過ぎていると判断した政府は再び規制を強めたが、投資家の熱は一気に冷め、急激に株価が落ちてしまった。政府が意図した株式市場のコントロールは失敗したといえる。

同時期に起きた人民元の切り下げは、株式市場の動向とは無関係だ。2015年11月に、人民元はIMF(国際通貨基金)のSDR(特別引き出し権)構成通貨に選ばれたが、中国は以前からSDR採用に向けて為替制度の改革を進めていた。同年8月には、これまでは中国政府が操作していた人民元のレートを、前日の終値を翌日の最初のレートにすることとして、当局のコントロールの度合いを減らした。その時期が株価の下落する局面と重なったことで、人民元が3日で3%も切り下がったというのが真相だ。

今の中国経済にとって、過剰生産と不動産バブルの崩壊は大きなリスクとなっている。いずれも2009年以降の金融緩和が直接の原因だ。例えば鉄鋼は生産能力が年間10億トン程度あるのに、現状は8億トンほどしか生産されていない。自動車産業なども過剰生産や過剰債務に陥っている。不動産市場への過剰投資は、地方でのゴーストタウン現象を生んだ。

中央政府はすでに対策を打っている。過剰生産に対しては、重厚長大産業からより効率的な新興産業、とくにサービス業に重点を移し始めている。過剰債務を抱えた地方政府には中央政府が融資したり、地方政府の地方債発行を認めて債務の整理を進めている。過剰生産などのリスクは、今後は低下に向かうと考えられる。

中国の財政はトータルでは現在も黒字である。赤字なのは一部の地方財政なので、中央の黒字を使って赤字を解消しつつ、地方政府に有効な投資を行わせることが今後のポイントとなる。

AIIBの設立で欧州と接近、人民元は変動相場制へ向かう

中国の経済成長率は当面6.5%を目標としているが、実際にはもう少し下がるのではと見る向きが強い。不良債権はいまだ重く、産業構造の改革も思惑通りスムーズに進むとは限らないのも確かだ。そうしたなかでサービス業の好調もあって、年間で1000万人以上の新規の雇用が増えていることは明るい材料といえる。雇用の増加は消費を下支えしており、消費は年10%以上の勢いで伸び続けている。

現状で年6%程度の成長が見込める経済大国は中国くらいなものだ。日本の2倍ほどの規模を持つ中国経済が5~6%成長するのは、世界経済にとって良い材料であることは間違いない。成長率が急激に落ちると世界経済に大きな悪影響を及ぼすことは中国政府も承知しているので、何としても5%台後半で支えられるように手を打つはずだ。

中国が設立したAIIB(アジアインフラ投資銀行)は、国際化を目指す人民元にとって重要な役割を果たしそうだ。欧州諸国が参加したことが大きい。英国やドイツにとっては欧州に人民元通貨市場をつくりたいという意図があり、中国にとっては基金を運営するノウハウを持つ欧州を取り込みたいという思惑があった。

人民元の国際化はもう後戻りできない。ただし、その最終段階となる変動相場制はすぐには実現されないだろう。
中国政府にとって、経済をコントロールする手段としての為替レート決定権は簡単には手放せない。今の状況で変動相場制になると、政府が国内経済を制御しきれなくなる恐れがある。逆に、為替レートを自由化しても国内経済が制御できる状況が生まれれば変動相場制に移行する可能性が高まる。本来なら中国にとって、貿易の決済通貨は為替リスクのない人民元の方が有利であるからだ。

時間はかかるが、人民元は確実に変動相場制へと向かうはずだ。その動きは常にウォッチしておきたい。