米国が利上げを行った一方で、中国経済の失速、原油安や中東情勢の混迷に見舞われた2015年。米国大統領選を控えた2016年は、どのような年になるのだろうか。各界の識者に話を聞いた。

国際情勢(地政学リスク)
不透明感を残す中国、中東情勢と欧州の行く末に注目

未解決な課題を多く抱えて2016年がスタート

ここ数年で国際情勢は複雑化し、地政学上のリスクが増していると感じる。2015年を振り返ってみてもさまざまな出来事があった。1月にはギリシャの総選挙で反緊縮を掲げるチプラス政権が誕生、その後の国民投票と再総選挙でEUと国際金融市場はギリシャ問題に振り回され続けた。同じく1月にフランスで起きた出版社「シャルリー・エブド」の襲撃事件は、世界各地でイスラム過激派によるテロの連鎖を引き起こした。

2月にはロシア、ウクライナ、ドイツ、フランスの間で、ウクライナ東部を巡る紛争終結に向けた和平合意が結ばれたものの事態は収束に至っていない。ロシアは9月にシリアでも空爆を開始し現在も他国への関与を強めており、地政学的不安要因となっている。

年後半には中国の動向に注目が集まった。中国は南シナ海において人工島建設による海洋進出を進め、米国との緊張を高めた。8月には3日連続で人民元切り下げを実施。中国経済の悪化を印象付け、世界の金融市場を震撼させた。7月にイランと欧米との核協議が最終合意に至るなど歴史的な変化もあったが、2016年は前年に起きた政治・経済の波乱が全て未解決なままスタートするということは押さえておきたい。

原油、王位継承、隣国との関係。波乱が続くサウジアラビア

2016年の地政学リスクを3つ選ぶとすれば「中国経済の行方」「中東情勢」「欧州の亀裂」が挙げられる。

2015年に習近平国家主席は「新常態(ニューノーマル)」という言葉を掲げた。中国は現在、構造改革を通じて高度成長から中程度の成長へと経済のソフトランディングを目指しているが、これが失敗したときの影響は計り知れない。過去の投資による過剰設備は過剰債務とリンクしているが、どの程度「過剰」なのかを市場関係者は不安視している。中国経済の混乱は、貿易、投資、市況などを通じ世界全体へ波及する。市場が現在把握できていること以外の地政学的事態が中国で起きた場合の影響は深刻である。

中東地域の対立構造は複雑だ。米国、ロシア、トルコ、ペルシャ湾岸諸国、イスラエルまでもがシリアで空爆を行っているが空爆対象と目的は各国の利害で異なる。そうしたなかでイスラム国は中東情勢を混乱させるだけでなく、世界各地のジハード(聖戦)主義者を触発する。テロのネットワークが拡散し、模倣テロを含め世界のどこでテロが起きてもおかしくない状況だ。

中東において一番気をつけたいのはサウジアラビアの動向だ。昨年、原油価格の下落が続くなかで、国王の交代とともに次々期後継者となる副皇太子に息子を就け権限集中を図るなど、サウジアラビアは財政赤字の深刻化を抱えながら政治面でも急速な変化を起こした。国内の他の王族に不満が溜まっている可能性は高く、長年対立しているイランが国際社会に復帰する方向のなかで、内政・外交ともにサウジアラビアは課題を抱えており、今後の動きが読めないというリスクがある。

昨年から欧州で目立つようになったのが、「反EU(欧州連合)」を掲げる政党の台頭と国民の一定の支持だ。移民排斥を訴える右派政党も、反緊縮を掲げる左派政党も「EUのルールには従いたくない」という点では同根である。英国のEU離脱に関する国民投票の行方も注目される。難民問題とテロ発生が、統合による安定と域内の自由な往来というEUの基本方針を揺さぶっており、今後もEUの動向は注視すべきだ。