J-MONEYでは2014年に引き続き、事業会社を対象にキャッシュ・マネジメント・サービス(CMS)の利用状況についてアンケートを行った。企業のCMSに対する関心が高まっているだけでなく、実際にシステムを導入する企業も着実に増えているようだ。アンケート結果概要と、CMSに対する邦銀2行の取り組みを紹介する。
現状でメリットが限定的でも「導入しないデメリット」は増大
グローバル・キャッシュ・マネジメント(GCM)のサービスを提供する銀行や金融機関の担当者に話を聞くと、一様に「事業会社のGCMへの関心が非常に高まっている」という反応が返ってくる。本誌のアンケートにおいても、国内外のCMSの各サービスを「利用している」と答えた企業の割合は2014年調査より増加している(ただし、2014年調査の回答数は43社で、回答した企業の傾向が今回の調査と異なる可能性があることは留意されたい)。
グループ企業間で資金の余剰と不足を調整するプーリングについては、約15%の企業が海外プーリングのシステムを導入している。実際の口座間の資金移動を伴わない海外ノーショナルプーリングについても、導入する企業は着実に増えている。年間売上高5000億円以上の企業(回答数15)では、国内プーリングシステムを導入している企業の割合は93.3%。海外フィジカルプーリングシステムは53.8 %、海外ノーショナルプーリングシステムは38.5%にのぼる。
国境をまたがる資金の移動は、単一の金融機関で完結するものではなく、SWIFT(国際銀行間通信協会)のネットワークなどを介して異なる銀行間での口座状況をリアルタイムに把握する必要があり、システムを導入するコストは決して小さくない。アンケートでも、導入の妨げとなっている理由として「費用対効果への懸念」や「メリットが限定的」という回答が多く寄せられた。
一方で、古くから海外進出を進めてきた企業は海外での商流が複雑化し、従来の手作業での資金管理だけでは経営のスピードについていけないという現状がある。さらにはアジア通貨の規制緩和や、コーポレートガバナンス・コードに代表されるように日本企業にガバナンスの強化を求める風潮が強まっていることも、資金を本社で一元管理したいというニーズが高まる要因となっている。今後はGCMを「導入しないデメリット」が増すと考えられる。海外子会社の資金の流れを可視化し、本社のコントロールでグループ全体の資金の最適化を図るという動きは、中堅企業にも広まっていくだろう。
GCMを導入する際は、海外子会社といかに合意を形成するかという課題をクリアする必要がある。いくら最先端のシステムを導入しても、現地法人の協力が得られなければ適切な効果は得られない。現地法人に対して、資金管理の権限を奪われる抵抗感を上回るだけのメリットをきちんと提示することが、本社の経営層や財務担当者に求められる。