2015年末の個人向け事業の売却完了により、法人・機関投資家向け事業の一本化を実現した日本のシティは、今後どのような事業戦略を展開するのか。 CEO(最高経営責任者)のT.J.デラピエトラ氏に新生シティの戦略を聞いた。(工藤晋也)

1世紀以上にもわたる国内でのビジネス実績

日銀のマイナス金利政策の影響はどうか。

デラピエトラ 他の銀行と同様に、マイナス金利政策に対応するための調整をしているところだ。引き続き日銀の金融政策に注視し、必要な対応を取っていく。

2015年末に個人向け事業の売却が完了した。日本では今後、どのような事業を展開していくのか。

デラピエトラ 2008年の金融危機以降、シティグループではより簡素で、より強く、より安全な金融機関になろうと、ノンコア事業を売却してコア事業を強化する“選択と集中” を進めてきた。日本では個人向け事業を売却したことで、法人・機関投資家向け事業にリソースを集中できるようになった。

これからも日本の大手企業や金融機関、機関投資家、公的機関、さらには海外のグローバル企業の日本法人や機関投資家に対してフルラインアップの商品・サービスを提供していく。

事業を拡大していくうえでの競争優位性は何か。

デラピエトラ まず、世界100カ国以上に拠点を持つシティグループのグローバルネットワークが挙げられる。金融危機後に他の金融機関が事業や拠点の縮小を進めるなかで、あえてネットワーク網を維持したことが我々の大きな競争優位性になっている。2015年に90カ国で日本企業の海外子会社から収益を得たことも、世界各地で事業を展開しているからこその成果といえる。

日本のお客さまには、1世紀以上にもわたる国内でのビジネス実績を支持していただいている。1902年に最初の支店を開設してから、海外と日本の多国籍企業との取引を続けてきた。なかには、60年超の取引関係を持つ日本企業も存在する。

商品・サービスの幅広いラインアップも強みの1つといえる。日本においてはコーポレートバンク、投資銀行、トランザクション・バンキング、債券・株式・為替・デリバティブなどを取り扱うマーケッツというフルラインアップの事業を持つ。コーポレートバンクやトランザクション・バンキングなどの事業規模は外資系金融機関のなかで最大となっている。

キャッシュ・マネジメントに期待、M&Aの国内案件にも関与

これからの成長のけん引役として期待している事業分野は。

デラピエトラ 日本企業の海外進出は今後も続くことから、グローバルネットワークを活かしたビジネスに成長機会がある。

その一つがキャッシュ・マネジメント(資金管理)だ。グローバル化の進展に伴って、大企業ではキャッシュ・マネジメント・システム(CMS)の一元化が進められている。シティはキャッシュ・マネジメント・システムの開発に多大な投資をしており、多くの日本企業に採用していただいている。

2015年はM&A市場が活況だった。

デラピエトラ とくに日本企業が海外企業を買収するIN‐OUTが好調だった。我々もIN‐OUTを多く手がけたが、大型の国内IN‐IN案件にもいくつか関与した。J-MONEYが選出した「2015年のベストM&Aディール(IN‐IN)」の日本生命による三井生命の買収案件では、買収側アドバイザーを務めた。

M&Aアドバイザリー事業の拡大により、トムソンロイターが発表した2015年の日本企業関連のM&Aリーグテーブルでは、金額ベースで外資系金融機関のトップになった。成長機会を海外に求める日本企業は増加傾向にある。国境を越えたクロスボーダーM&Aの勢いは今後も続いていくだろう。

マーケッツ事業はどうか。

デラピエトラ グリニッチ・アソシエイツの年次ベンチマーク調査において、2015年の債券市場業務のマーケット・シェアのほか、セールスやトレーディングの質でトップになるなど、我々の債券事業は高く評価されている。

このうち我々の強固なネットワークを活かせる外債分野では、多くの発行案件で主幹事を務めている。国際的に重要な銀行に課せられるTLAC債(損失吸収型債券)の起債が増える見込みから、外債ビジネスはさらに伸びていくと考えている。また、日本企業の世界展開によって為替取引や現地通貨建てローンの増加にも期待している。