中空麻奈
BNPパリバ証券
グローバルマーケット統括本部
副会長
チーフクレジットストラテジスト
チーフESGストラテジスト
中空 麻奈

2021年の資産市場は基本強気姿勢で臨める

足元では感染者数の広がりが大きい新型コロナウイルスだが、2021年後半にはワクチン接種がある程度進み、ウイルス発生前の水準に向け、いわゆるニューノーマルならぬオールドノーマルへの回帰を想定している。クレジットスプレッドは縮小してウイルス発生前の水準を下回り、株価は上昇、シクリカルおよびバリューセクターがグロースセクターを上回るパフォーマンスになり、ドルは下落と見るのは、もはや一般的なコンセンサスに近いのではないか。

そのうち2021年のクレジット市場の展開を整理しておくこととする。

クレジットスプレッドを決めるもの

クレジットスプレッドは基本的にタイトで推移すると見ている(図表1)。クレジットスプレッドを決めているもの、そしてこれからのスプレッドを考える上での鍵になるものは主に3つであろう。第1にセーフティネットの存在、第2に需給、第3にファンダメンタルズである。それぞれがスプレッドのタイト化に寄与するためで、詳細は以下のとおりだ。

【図表1】米国IGスプレッド推移(ブルケース=75bp、メインケース=85bp、ベアケース=165bp程度を予想)

米国IGスプレッド推移
出所:ブルームバーグ、BNPパリバ証券

(1)セーフティネットの存在:最後の買い手がいる、というこの一点だけで、資産市場は総崩れを避けられる。セーフティネットの存在がマーケットを崩さなかったことは歴史的に何度も繰り返されてきた。今般のコロナ禍はまさに未曾有の体験であり、世界の金融市場当局でも社債市場へのサポートが明示化された。

米国では、FRB(米連邦準備理事会)と財務省が共同で市場安定化のためにいくつかのファシリティを設定してきたが、そのうちPMCCF(プライマリー・マーケット・コーポレート・クレジット・ファシリティ)とSMCCF(セカンダリー・マーケット・コーポレート・クレジット・ファシリティ)は社債市場を直接支える枠組みであった。保有している債券が償還されるか売却されるかまでは仕組みは維持されるとなっていたものの、期限は12月31日。これを契機に、ムニューシン財務長官はこのファシリティを含めいくつかを終了することを決めた。

周知のようにFRBは金融緩和姿勢を継続するのだが、社債向けセーフティネットは少し弱くなっていると見ざるを得ない。将来的に、こうした枠組みが必要になれば、イエレン新財務長官が再設定をすることも否定しないが、オールドノーマルに戻る過程であれば、特段社債向けのファシリティまで必要ない、という発想も無理からぬことかもしれない。しかし、政権移行リスクが顕在化しかねないのは“これから”である。流動性供給が間に合わず、大型破綻もあるかもしれない。そう考えると、この時期にファシリティがなくなることは、将来に禍根を残しかねないのではないか、との一抹の不安がある。

一方、ECB(欧州中央銀行)でも金融緩和姿勢を貫く中で、社債買い入れプログラムについては特段触れられていないことに注意したい。12月31日までのプログラムにおいては、1200億ユーロの社債買い入れの枠組みがあったが、敢えて説明がなされなくなっている。買い入れた社債を保有している間はプログラムがあるし、資産買い入れそのものは継続するため問題はない、との判断かもしれないが、米国と同様、盤石なセーフティネットが少し弱まっていること、は念頭においておきたい。

世界的金融緩和は継続する。そういう宣言をFRBでもECBでも行っており、そのため資産市場の価格の安定は見ておいてよいであろう。ただし、社債に対するセーフティネットに観察が必要になってきていることは見てきたとおり。オールドノーマルを目指す中で大きな混乱はない、と考えるものの念には念を入れである。

(2)需給:債券発行体から見て、景況感に自信が持てない中、積極的な投資環境にないこと、財務内容を改善させるインセンティブが大きくなっている中、資金調達意欲がそれ程高くないことがある。また、一方で、現状では新型コロナウイルス対策も含め資金調達に対するプログラムがあることもあり、調達に焦りがないこともある。発行量が少なくなり、需要が強ければ需給はタイトとなり、スプレッドを抑制する方向に働く。

特に米国債券市場では、グロスでもネットでも2021年は2020年対比で大幅に発行量が減少する見込みである(図表2)。ネットで見れば、どのアセットクラスでも基本的には発行量が絞られ、需給は相応によいことが想定される。

【図表2】社債市場の需給

社債市場の需給
出所:Dealogic、S&P、ブルームバーグ、BNPパリバ証券

(3)ファンダメンタルズ:ファンダメンタルズは2020年の第2四半期をボトムに改善傾向が始まっており、少なくとも悪化がピークアウトしていると言える。収益の回復とともに、多くの企業が当座比率を高めるなど財務内容を改善していることもあり、デフォルト率は思うほど上昇しなかったことは見て取れる(図表3)。こうしたファンダメンタルズが少なくとも最悪期を脱したことで、一定の安心感をもたらすことはいうまでもない。クレジットスプレッドに対してはポジティブに働く。

【図表3】デフォルト率の動向

デフォルト率の動向
出所:ブルームバーグ、S&P、BNPパリバ証券

基本シナリオを覆す3つのリスク

セーフティネット(社債では多少緩むが、全体の枠組みとしては残る)、需給、ファンダメンタルズの各要素によって、基本シナリオとしてのクレジットスプレッドは2020年のような展開になると見ている。しかし、当然リスクはある。

第1に、新型コロナウイルスによるロックダウンが再び始まっていることである。この先の状況は不透明であることには気をつけなければならない。これ次第では多くのシナリオが覆されかねないからだ。

第2に、金利が急速に上昇、あるいは思うような景気回復が図れないリスクである。その場合、政策がうまく効かないジレンマが浮上するかもしれない。

第3に、クレジットイベント的リスクである。米国では政権移行リスクに加えて、米中対立や米議会の財政協議が暗礁に乗り上げる可能性、米国の債務上限問題などもある。欧州では、ユーロ圏の結束が弱まることや、Brexit後のリスクなどへの警戒が必要であろう。

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