中空麻奈
BNPパリバ証券
グローバルマーケット統括本部
副会長
チーフクレジットストラテジスト
チーフESGストラテジスト
中空 麻奈

ジョー・バイデン氏が2021年1月20日、前大統領不在という異例の中、第46代大統領に就任した。バイデン氏が勝てばトランプ政権対比で厳格に過ぎるため、まずは株価が下がるなど株式市場にはネガティブだ、と言われていたのが嘘のように、政策期待で株価が上昇。NYダウは31188.38ドルと過去最高値となった。大統領令など15の文書に署名も済ませ、パリ協定には2月19日の復帰が決まった。着々とバイデン色を強める戦略に見える。

これからのバイデン政権に水を差す気はないが、クレジットの観点からどこにリスクがありそうか、以下、整理して5点指摘する。

政権交代リスクが顕在化するか

再考ESG投資

第1に政権交代リスクである。政権交代リスクとは、ここでは、トランプ政権からバイデン政権へのトラップとバイデン政権によるトランプ政権の政策失敗批判による問題の顕在化を指す。具体例で言えば、前者はトランプ政権下にはあった社債購入プログラムが2020年末で終了されていることはその一つ。仮にこれから社債のデフォルトが増えてきた場合、このプログラムがないことは問題になる可能性はゼロではない。

後者で言えば、コロナ禍で致し方なかった点は拭えないとしても流動性を付け過ぎたことへのツケが回らないか、という問題である。いわゆるゾンビ企業に資金を回し過ぎたとすれば、それを引き上げないとも限らない。こうした流動性枯渇リスクがあるとすれば、これから出てくると考えるべきであろう。米国社債の償還予定を見ると、3月の償還予定が多くなっていることがわかる(図表1)。コロナ問題が再燃しつつあるのは世界中共通だが、それによる対策が間に合わない結果、デフォルトが増える可能性はある。

【図表1】米国社債の償還予定(2021年。単位:百万ドル)

【図表1】米国社債の償還予定(2021年。単位:●●ドル)
出所:ブルームバーグ、BNPパリバ証券

もっとも、デフォルト率そのものは、足元で上昇しているとはいえ、長期的に見れば抑制された状況にある(図表2)。そのため、コロナの動向とそれに伴う政策の出方、流動性の回り方によってデフォルト率が変化しないか、注意しなければならない、ということである。

【図表2】米国デフォルト率

【図表2】米国デフォルト率
出所:ブルームバーグ、S&P、BNPパリバ証券

債務上限問題をうまく回避できるか

第2に債務上限問題をうまく回避できるか、という点である。バイデン民主党政権は大きな政府として財政政策に依存しがちというのはコンセンサスだが、かなりのバラマキが予想されている。民主党としては2022年の中間選挙をにらみ、税制改革や他の党派的優先事項はとりあえず封印、先送りすると考えられ、共和党からも支持が得られやすい支出に集中して財政政策を講じる公算は大きい。インフラ・産業政策案6000億ドルは2021年と2022年に均等に支出される見通しにあるだけでなく、追加支出は1兆ドルを超えると考えられる。

財政政策が講じられれば、それだけGDP(国内総生産)成長率は上昇することはわかりきったこと(図表3)。このところ、米国の景気見通しを強気で見るエコノミストが多いのも自明であろう。

【図表3】GDP(前年同期比)

【図表3】GDP(前年同期比)
出所:Refinitive、BNPパリバ証券

しかし、気になるのは債務上限問題である。2021年7月31日はこの債務上限問題についての回避が切れる日である。債務上限問題はこれまでも何度となく米国債をデフォルトリスクに晒してきたわけだが、それが今回も浮上するのかどうか。ブルーウェーブになったから、バイデン大統領が債務上限問題の引き上げを望めば簡単に決まると思われるかもしれない。が、上院は民主党と共和党で50:50に過ぎず、ハリス副大統領の票をカウントしてやっと民主党が過半数という、いわゆる辛勝に過ぎないことを忘れてはならない。一人でも寝返れば政策が決まらないリスクはある。心配し過ぎかもしれないが、仮にそうなれば米国債のデフォルト懸念がまた浮上してしまうことは念頭に置いておきたい。

雇用市場のリスク

第3が雇用市場のリスクである。コロナ禍で雇用が継続できず、一時休業を余儀なくされたり、失業したりしたケースが多いことは容易に想像がつく。雇用関係がよりドライな米国であれば、なおのこと。セクターによる差異が大きいもののレジャー産業や鉱業、サービス業などを中心に失業率が上昇している。「結束」を掲げるバイデン政権にとって、失業率の上昇がセクターで偏在してしまっていることはあまり望ましいことではない。正規労働者中の失業者数動向を見ると(図表4)、今般の状況が2000年のITバブル崩壊期や2007年以降の世界経済危機に比較しても懸念されることがわかるであろう。

【図表4】正規労働者中の失業者数

【図表4】正規労働者中の失業者数
出所:BEA、Census Bureau、Federal Reserve、Macrobond、BNPパリバ証券

労働経済学を修めたイエレン財務長官は、FRB(米連邦準備理事会)議長時代も雇用情勢などを重視していたが、これからの失業率動向いかんではさらに財政負担に踏み込むのだろうか。パウエル議長が率いる中央銀行は金融引き締めへの出口を見つける段階にもあるようにも見えており、こうしたバランスをいかに取るかはかなりの難問には違いない。

規制によって生じるネガティブセクターのリスク

第4が規制によってネガティブセクターが生じること、である。バイデン氏はもともと厳格で規制導入に積極的と言われていた。規制によってネガティブに転じやすいセクターが出てくることを見ておく必要がある。ヘルスケア、金融、テクノロジー、通信が挙げられる。

ヘルスケアにおいては薬価規制や健康保険改革の実行などが注目を集めており、注意が必要である。金融においては、SEC(米証券取引委員会)委員長にゲイリー・ゲンスラー氏、CFPB(消費者金融保護局)局長にロヒト・チョプラ氏が既に指名されているが、強硬派で知られる人事が決定したことで規制強化路線は確実視される。トップ交代後すぐに規制強化に転ずることはないのではないかとの期待感もあったが、そう甘くない可能性もある。テクノロジーについては、FAANGのような大企業に対する風当たりが強まる。プラットフォーム提供者に対する保護Section230を抑制するよう改定されるのかどうか注目に価する。通信については、ネット中立性ルールの復活を目指す動きが強まる公算が大きい。プライバシーに関する監視強化やM&A(合併・買収)の活動が制限される可能性もある。

こうしたセクターについては、規制が強化されることによって経営環境の根幹が崩れる場合もあり得る。それが収益基盤を壊すとすれば、クレジットの観点でもネガティブに評価せざるを得ない。どういう規制が適用になるのか、その場合に影響のあるセクターとは何か、には注意が必要だ。

米中の緊張関係と恣意的な投資抑制

中国が米国にとって脅威であることは、バイデン政権になっても変わるものではない。2021年1月11日、トランプ政権は米国人による株式売買禁止の対象となる中国企業の銘柄を35銘柄発表している。これら個別銘柄は投資できなくなるだけでなく、既に保有している分は2021年11月までに売却が求められる。

中国の人民解放軍の力を強くすることに寄与するとされるこれら企業への投資を続ければ、敵に塩を送ることになるとの判断が米国にあるのだろうが、同時に中国資産は今後の発展性を考えるとそれなりの投資魅力を持っていたことは否定できない。恣意的な制限をかけて、マネーフローを急激に変えることで何が起こるか、金融市場への影響は大きくならないか、見守る必要がある。

以上クレジット市場から鑑みられる米国のリスクファクターについて見てきた。米国の金融市場が世界の金融市場を牽引している事実は変わらない以上、これらリスクファクターに注意しながら、バイデン政権の船出を見守ることにしよう。

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