Brexit──合意なき離脱リスクの増大

中空麻奈
BNPパリバ証券
グローバルマーケット統括本部
副会長
チーフクレジットストラテジスト
チーフESGストラテジスト
中空 麻奈

ジョンソン英首相の協議打ち切りも辞さないとの警告、合意なき離脱が英国にとって「望ましい」との主張、さらには離脱協定を一部無効化する国内市場法案の発表は、それだけでもドラスティックな羅列に見えるであろう。こうした流れを踏まえれば、英・EU関係のトーンは悪化している。1月24日に署名された北アイルランドに関する議定書を含む離脱協定への不満を蒸し返すことで、交渉担当者間の信頼を損ね、将来的なパートナーシップを巡る協議の進展をも脅かすと考えられるなど、展開は思わしくない。こうした交渉姿勢を前に、英国の信用をどう置き、米国、カナダ、日本などがどう妥結するか、新たな協定位置づけにも不透明感が増す。

こうした展開が、「合意は達成不能」という英政府の考えに起因するものか、あるいはEU側に重要な問題で譲歩させるために圧力を高めることを狙った交渉戦術を純粋に意図したものかは、明確ではない。英政府はフィンテック分野など戦略的な重要産業を支えることや、コロナ禍をどう乗り切るか、国家補助制度など柔軟に実施したいと考えているが、こうした考えはEUの考えには反するものであり、落とし所が見えなくなっている。

合意に達する望みは残るも……

とはいえ、先の国内市場法案については、一部保守党議員は不支持を公言しているし、それ以外にも新型コロナ危機への対応、スコットランドの新たな独立の動きを巡り、圧力に晒されている。また、EU側とて、漁業や国家補助といった重要問題で、ある程度、譲歩する用意もすでに仄めかしている。英国の交渉担当者が、これを大きな「成果」としてアピールできると考えれば、意外に着地点を見出す可能性もゼロではない。しかも、そもそも経済環境は合意なき離脱にまったくふさわしい状況にはない。雇用維持スキームは10月まで終わらないため、労働市場の悪化はなお本格的には表面化していないものの、新型コロナ感染の再拡大に伴い、ソーシャル・ディスタンス措置も再び強化され、消費に影響を及ぼす可能性も見ておく必要がある。企業のBrexit関連の備蓄や余裕資金も新型コロナ危機への対応で減少していると見られ、今年の事態の混乱にはさほど用意ができていない。そうした事態を重く見れば、今年末までに限定的な自由貿易協定に移行する、という穏便な選択をする望みが残る。

それでも、だ。残念ながら、現状を見ている限り、リスクは高まってきており、交渉の最終結果は予測し難い。合意ありの離脱も、合意なき離脱も現時点で五分五分(これでは何も言っていないに等しいが)。しかし、大事なことは、今後の展開が目先、良い方より悪い方に向かう公算が大きいと思われることだ。これは明らかに金融市場にとっては不安材料となる。

英中銀でもマイナス金利導入か

こうした中、金融政策委員会(MPC)は全会一致で政策金利と資産購入ペースの継続を決めた。さらに、注目すべき点として、MPCはマイナス金利の導入が必要になった場合にそれを効果的に導入する方法について事務方から説明を受け、英国中央銀行(BOE)が今年第4四半期から健全性規制機構(PRA)と「運用上の問題」について協議を開始する予定であることを正式に認めた。これはマイナス金利の活用に対して慎重であった以前のMPCのスタンスがやや変化したことを物語っていると言える。

だが、マイナス金利の採用も、強い不透明感を緩和する効果が低いことや銀行セクターで発生する可能性の高い様々な副作用を考えると、最も効果的な手段になると考えることは難しい。ただし、経済が直面している主要なリスクが経済成長を圧迫する可能性が高い場合には、マイナス金利の導入も想定せざるを得ず、ジレンマとなる。

こうしたリスクについては、次回11月の会合で明確になるはずだ。11月会合までには、労働市場の展望や財政協議の進展に関する追加的な情報が得られ、Brexitの見通しについて、さらに明確になる可能性もある。その段階で、金利引き下げ、量的金融緩和QEの拡大など幅広な金融政策措置が想定されるということではないだろうか。

注目すべき要因と投資ストラテジー

金融政策からのサポートがあるにせよ、英国資産はBrexit動向次第でリスクが高まることに注意したい。今後は今年12月31日のBrexit Xデーに向けて、様々なイベントをこなしていくことになる。第一に、国内市場法案の通過がこの先どういう帰結となるかが重要である。また、第二に、9月24−25日のEUサミット、第三に、ジョンソン首相が合意か「決別」かを決める最終期限と自ら宣告した10月15日、といったあたりが注目である。

最後に、Brexitのリスクが高まっている現在、英国資産の価格下落リスクが大きいことに改めて向き合っておくべきである。たとえば、株を見ると、FTSE100指数は今年、世界の主要株価指数の中で最も低迷した(図表)。新型コロナウイルスの英国経済への比較的大きな影響や、年末の合意なき離脱のリスクが迫っていることに加え、FTSE100指数ではコロナ禍で影響を受けたセクターのウェイトが高いことがある。ただし今後ハードBrexitとなるリスクを考えれば、FTSE250は英国の国内市場や循環的なセクターへのエクスポージャーが大きいことから、FTSE100対比でもさらにネガティブな影響を受けやすいのではないか、と考えられる。

保守的に過ぎるかもしれないが、金利、為替、株価ともに英国資産のリスクは高いと考えるべきであることは言うまでもない。念には念を入れ。Brexitリスクに備えておくべき時が来ている。

【図表】世界の主要株価指数の推移(2020年1月3日~9月18日)
世界の主要株価指数の推移

※2020年1月3日を100として指数化
出所:ブルームバーグ、BNPパリバ証券

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